ヘリテージカラーで仕上げたアルピーヌ A110の魅力

アルピーヌ A110を自分色に染め上げる。往年のラリーファンも納得のオーダーとは?

アルピーヌ A110 リネージのサイドビュー
都会の雑踏はもちろん、ひなびた純和風なシチュエーションでも絵になる。何よりも他人と被らない自分だけのアピアランスを手にする喜びは何物にも代えがたい。
車重僅か1100kgほどのライトウェイトスポーツであり、往年の名車「A110」のフィロソフィを現代に蘇らせた新生アルピーヌ A110シリーズ。優美な曲線を主体としたコンパクトなスポーツカーは、エンスージアストだけでなくファッションに敏感なユーザーをも虜にする。そんなA110にさらなる境地を与えるのが、オーダープログラムの「アトリエ・アルピーヌ」だ。ヘリテージカラーを纏ったA110 リネージの魅力を、かつてのA110に心酔したモータージャーナリスト、高平高輝が語る。

Alpine A110 Lineage heritage color

自分だけのアルピーヌに想い出が蘇る

センターコンソールの奥に「チューリップ・ノワール 6/110」と刻印されたプレートが設けられていた。チューリップ・ノワールという紫色のボディカラーは、昨年末から国内でもスタートしたカスタマイズ・プログラムである「アトリエ・アルピーヌ」に用意されている29色もの外装色のうちのひとつで、過去のアルピーヌモデルに使用されたヘリテージカラーを再現したものという。

さらに3種類のホイールデザインと3色のカラー、4色のキャリパーカラーを自由に選べるし、これまでよりも選択幅が広がった通常オプション(たとえばハンドル位置やカーボンルーフなど)とアトリエ・アルピーヌを組み合わせることも可能だという。生産量の少なさを活かしたアルピーヌらしい手法だが、スポーツカーは本来こうやって注文したいものである。

かつての少年を虜にしたカラーモチーフ

アルピーヌ A110 リネージのリヤスタイル
アルピーヌ A110 リネージに、ヘリテージカラーのひとつであるチューリップ・ノワールというディープパープルカラーを採用したデモカー。一見するとエキゾチックな印象だが、不思議と街中に溶け込んでくる。

黒に近い濃い紫色のカフェ・ノワールという品種のチューリップもあるが、思い浮かべるのは「チューリップ・ラリー」のことである。かつてはモンテカルロと並んでヨーロッパ・ラリー選手権最大のイベントとも呼ばれたラリーで、今ではクラシックカー・ラリーの有名イベントとして継続している。

さらにゴールドのホイールも往時を思い出させるモチーフだ。ゴールドのゴッティの3ピースホイールを履いたアルピーヌは、かつての少年たちの憧れの的だったのである。派手で奇抜なコンビネーションに見えるかもしれないが、そのクルマの背景にあるヒストリーを知る人には説得力がある。ちなみにヘリテージカラーのリストには「ジョン・レデレ」という黄色も載っているが、これはアルピーヌの創業者であるジャン・レデレの名前との語呂合わせだろう。他のブランドには真似できない粋なユーモアだ。遊び心とはこういうものである。

オジサンほど抵抗できない!?

アルピーヌ A110 リネージのホイール
セラック・ゴールドホイールとゴールドキャリパーの組み合わせは、ややもすれば行き過ぎた感もあるが、かつてのアルピーヌのラリーカーをインスパイアしており、知る人が見ればニヤリとするだろう。

コンパクトで軽快機敏、かといってスパルタンすぎない日常的な実用性も併せ持つ現代のアルピーヌ A110は既に評判が高い。当初は所詮リバイバルものじゃないの?などと斜めに見ていたわが身を大いに恥じる。それどころか、できれば欲しい、あえて昔のマルシャルのフォグランプを並べて取り付けて、吹雪の山道を走ってみたいと妄想する始末である。

私のようなオジサン世代が新型を素直にA110と呼ぶことにちょっと抵抗があったのは、オリジナルモデルがあまりにも偉大なラリーカーだったからだ。ご存知WRC(世界ラリー選手権)創設初年度(1973年)のチャンピオンマシンであるA110は、古いラリーファンにとっては伝説のアイドルのような存在なのである。オリジナルと同時代を生きたわけではないが、かつて素晴らしいコンディションのA110(元F1ドライバーで自身も大変なエンスージアストのエリック・コマスのチームから借りた)で、コルシカ島を一周するクラシック・ラリー「トゥール・ド・コルス・ヒストリック」に出場したこともある。

そのオリジナルA110と比べれば、当たり前だがサイズはずっと大きい。最後期型の1600Sでもパワーは140ps程度だったが、全長は4m以下で全幅は1.6m以下、車重は800kgぐらいだったのである。もちろん、最新A110も現代では飛び抜けて軽量コンパクトなことに疑いなく、これほどスポーツカーの定理に忠実なミッドシップ2シーターはほとんどない。現実的なライバルと目されるポルシェ718ケイマン(1360kg)と比較しても1130kgの車重(ピュアは-20kg)は際立って軽いのだ。

オリジナルのA110に遜色ないパフォーマンス

アルピーヌ A110 リネージのルーフ
21世紀のライトウェイトスポーツを代表するアルピーヌ A110だけに、軽量かつ高剛性素材のカーボンを用いたアピアランスも欠かせないだろう。

周りの評判が高いとどうしても見る目が厳しくなるものだが、なるほど新しいA110はドンピシャのランニングシューズ感覚である。軽快敏捷、自由自在のシャープな身のこなし、さらに後輪が滑り出しても十分にコントロールできるピーキー過ぎないバランス感覚が好ましい。エリーゼほど剥き出しのスパルタンさはなく、ケイマンほど ガッチリ“装甲”されている堅苦しい感じもせず、身軽さと扱いやすさがちょうどいい塩梅であり、さらに各部の建付けなども、アルファロメオ 4Cなどとは比べ物にならないぐらい“ちゃんとした”出来栄えである。

現行型A110はピュアとリネージュ、そして高性能版「S」の3車種がラインナップされている。ベーシックなピュアとリネージュには、ルノー メガーヌRSなどと同様の4気筒1.8リッター直噴ターボを搭載、そのピークパワーは185kW(252ps)/6000rpm、最大トルクは320Nm(32.6kgm)/2000rpmというもの。ギリギリまで最高出力を突き詰めたものではなく、当世風のターボエンジンらしくごく低い回転数で最大トルクを生み出す設定だから、リミットまで引っ張ってもパワーが迸るわけではない。

7速DCTを介した0-100km/h加速は4.5秒、最高速度は250km/h(リミッター作動)と十分以上に速いが、正直言って広いサーキットよりも現実のワインディングロード、それもモンテやコルシカのようにタイトでツイスティな山道が打ってつけの舞台だろう。A110Sは40psアップの292ps(トルクは320Nmで変わらず)にパワーアップしていることと、サスペンションがざっと5割増しに引き締められていること、そしてカーボンルーフの採用(日本仕様には標準)が主な違いである。

こだわりのヘリテージカラー

アルピーヌ A110 リネージの走行シーン
軽量ゆえの突出したハンドリング性能をもち、存分に操る楽しさをドライバーへ伝えるアルピーヌ A110。自分だけのライトウェイトスポーツとしてアトリエ・アルピーヌの各種プログラムは是非検討したい。

乗り心地はよりダイレクトで引き締まっており、ハンドリングもシャープだが、カジュアル感のある標準型とどちらかと問われると大いに迷う。限られたパワーを使いこなすほうがアルピーヌっぽい気がするし、どうせ後々モディファイするならベーシックなモデルで十分とも思える。その分をこだわりのヘリテージカラーに回すという手もある。

このリネージュ(849万円)をベースにしたデモカーは、ヘリテージカラー(61.4万円)にカーボンルーフ(27.5万円)、セラック・ゴールドホイール(8.6万円)とキャリパー(4.6万円)を加えた仕様である。気軽に手を出せる金額ではないが、端から諦めるほど遠い存在でもない。思い悩むにはこれまたピッタリというか、実に憎らしい設定なのである。ただしこのヘリテージカラー、全世界で各色限定110台とアナウンスされており、色によっては既に受注が停止されているものもある。気になった方はアルピーヌのWebサイトにあるコンフィギュレーターで確認されたい。

REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

【問い合わせ】
アルピーヌ コール
TEL 0800-1238-110

【関連リンク】
・アルピーヌ・ジャポン公式サイト
https://www.alpinecars.jp/

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著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

モータージャーナリスト。カーグラフィック(CG)編集部に所属し、CG副編集長、NAVI編集長、カーグラフィ…