AWDのランボルギーニ ウラカン EVOと、2駆のウラカン EVO RWD スパイダーを公道試乗

ランボルギーニV10モデルの集大成、ウラカン! 2台のEVOを試乗して見えた真実に迫る

ランボルギーニ ウラカン EVOとウラカン EVO RWD スパイダーの走行シーン
ランボルギーニ最大のヒット作であるウラカン。その要因がどこにあるのかをモータージャーナリストの高平高輝が2台のEVOを連れ出して検証する。
5.2リッターV10ミッドシップという現代において驚くべき素地を持つウラカン。このAWDスーパースポーツの果たした根源的な意義とはなんなのだろうか。3年後の電動化を宣言したランボルギーニのスポーツカーは何を目指すのか? 2台のウラカンに乗って、サンタアガタのこれからを分析する。

Lamborghini Huracan EVO × Huracan EVO RWD Spyder

駆動方式の異なる2台のウラカン EVOを峠で試す

ランボルギーニ ウラカン EVOとウラカン EVO RWD スパイダーの走行シーン
ともに5.2リッターの自然吸気V型10気筒DOHCエンジンを搭載するEVOとEVO RWD スパイダー。ただし、AWDのEVOに対してEVO RWDは2駆であることから、最高出力は30psほどデチューンされている。

今からほぼ30年前、ホンダ NSXが登場した直後の世の中の反応はどちらかといえば冷たいものだった。とりわけクルマ好きを自認する人々は否定的だったと記憶している。すなわちパワーステアリングもエアコンもATも、さらにはラゲッジスペースさえスポーツカーとしては堕落であり、快適性や日常的な実用性を求めるなどスポーツカー乗りの風上にも置けない軟弱ものと非難されていたのである。

ピュアでストイックな、たとえばエリーゼのような簡潔なスポーツカーの魅力を否定するつもりは毛頭ないが、スパルタンであることを苦にしないのはごくごく限られた兵(つわもの)だけである。意地を張ってみても扱い難いクルマは次第に縁遠くなることは経験上間違いない。ウラカンが最も成功したスーパースポーツカーと言われるのは、まさにそこに理由がある。ハレとケ、非日常性と日常性を類まれなバランスで両立させているからに違いない。

ハレとケの両方の世界でドライバーを納得させる性能

ランボルギーニ ウラカン EVOのインテリア
スポーツカーらしいスパルタンな室内。ドライビングモードを変更する場合はステアリング下部のANIMAスイッチを操作する。

モデルチェンジはもう少し先になるだろうから、過去形で言うのはちょっと早すぎるが、それでも既にウラカンはランボルギーニ最大のヒット作である。同社復活の立役者たる前作ガヤルドは2003年から13年までの10年間で1万4022台を生産し、当時同社史上最大のヒット作と言われたが、14年にデビューした後継モデルのウラカンはその数字を半分の5年で達成、ご存知のように今もガヤルドの2倍のペース(ざっと年間2500台)で売れている。

参考までにランボルギーニの最近の販売台数を引くと、2019年の世界販売台数は8205台と大きく伸びた。もちろん、そのうちのおよそ6割を占めるのは新型SUVのウルスだが、EVOにバージョンアップしたウラカンも堅調だ。20年は9%減の7430台でそのうちウラカンは約2200台だが、新型コロナウイルス感染症のために2ヵ月余りも工場の閉鎖を余儀なくされたことを考えれば大健闘と言えるだろう。1998年にアウディグループ入りした後も数年は年間生産が300台程度だったことを忘れてはいけない。

この事実も、飛び抜けた限界性能だけではなく、日常使用での扱いやすさを備え、ハレとケの両方の世界でドライバーを納得させる性能を併せ持つことがいかに大切かを物語っているのではないだろうか。しかもシェアできる部分は共用し、工場の稼働率を確保している。ランボルギーニ/アウディ連合の目論見は見事に成功しているのだ。

その姿形とは裏腹に、一般道でおとなしく走る分には静かで従順

ランボルギーニ ウラカン EVOのエンジン
8500rpmまで一気に吹け上がる5.2リッターV10自然吸気エンジン。最高出力640ps、最大トルク600NmはEVO RWDでは610ps、560Nmに低められるが、いずれにせよ高性能に変わりはない。

2000年代初めの頃は多くのブランドがそれこそセダンにもV10ユニットを搭載していたものだが、今や市販スポーツカー用としてはランボルギーニ/アウディのV10のみである。14年にデビューしたウラカンの、いわば最終進化形が19年に発表されたその名もズバリの「EVO」で、そのドライサンプ5.2リッター90度V10エンジンは640ps/8000rpmと600Nm/6500rpmを発生する。これはマイナーチェンジ前の高性能版ウラカン ペルフォルマンテと同じ数値だが、RWDモデルは同回転数から610psと560Nmに若干抑えられている。

その姿形とは裏腹に、一般道でおとなしく走る分には静かで従順と言っていい。熱き血潮の大排気量マルチシリンダーを燃え滾らせる直線番長、というのがかつてのランボルギーニ像だったかもしれないが、最新のウラカン EVOにはまったく当てはまらない。始動する時だけは一瞬グワッと獰猛に吠えるものの、オートモードならばスッと動き出して、せいぜい2500rpmぐらいで静かに軽やかにシフトアップしていく。

背後で喉も裂けよと吼えながら回るV10が真骨頂

ランボルギーニ ウラカン EVOとウラカン EVO RWD スパイダーのフロントスタイル
ストラーダモードでドライブする限り乗り心地はけして野蛮なものではない。ただし「普段はシャープでスマート、かつ洗練されているが、ウラカン EVOは猛獣である。扱い方によって従順にも獰猛にもなる。その落差が人を惹きつけるに違いない」と筆者は語る。

街中だけを試乗したらとても8500rpmまで猛然と回るエンジンには思えないかもしれないが、実は普通のターボユニットなら打ち止めとなる6000rpmぐらいから、もう一段ロケットエンジンに点火するように、背中のすぐ後ろで喉も裂けよと吼えながら8500rpmのリミットめがけて突き抜けるように回るのがウラカンの真骨頂である。

ガヤルドの初期モデル(5.0リッター、500ps)とは異なり、5.2リッターユニットはオフセットクランクではないせいか、トップエンドではわずかにビリビリとしたビートのようなものが伝わり、滑らかにスムーズに回るだけではない! という攻撃性を露にする。一方でフラッグシップのアヴェンタドールが依然として変速時にわずかなタイムラグと明確なシフトショックを伴うのに対して、ウラカンの7速DCTは実に洗練されており、オートでもマニュアルでもシームレスで滑らか(コルサモードではショックが大きくなるが)、かつ電光石火の変速が可能だ。またスーパースポーツカーらしい外観とは裏腹に、一時停止からの合流の際など斜め後方視界を除けば、この種のスポーツカーとしては視界が良いことも街中や狭い一般道で扱いやすい理由だ。

速度が増すほどにスタビリティが向上するウラカン EVO

ランボルギーニ ウラカン EVOの走行シーン
最高速度325km/h以上、0-100km/h加速2.9秒をスペックシートに掲げるウラカン EVO。ブレーキはフロント6ポット、リヤ4ポットキャリパーを装備する。もちろんローターはカーボンセラミック製で、折り紙付きの制動力を誇る。

0-100km/h加速は2.9秒のEVOに対してRWD スパイダーは3.5秒と多少の差があるが、それはAWDによる発進時の蹴り出しと車重の違いだろう。RWDは30kgほど軽量なはずだが、スパイダーは電動ルーフなどのせいでおよそ120kg重くなる。車検証記載値はEVOが1630kg、RWDスパイダーが1720kgである。最高速はEVOが325km/h超、RWDスパイダーは324km/hと発表されている。

前後のスポイラーの処理はEVOとEVO RWDスパイダーとでは多少異なるが、ペルフォルマンテのような可変エアロダイナミクス付きの大仰なリヤウイングなどを持たないのは同様、それでも空力特性が格段に向上(合計ダウンフォースはスタンダードモデルの7倍という)しているのもマイナーチェンジ版たるEVOの特徴という。無論一般道ではそれをきっちり確認するには至らないが、速度が増すほどにスタビリティが向上する感覚は共通している。

最大のトピックは車両統合制御システムの「LDVI」

ランボルギーニ ウラカン EVOの走行シーン
写真では伝わりにくいが後輪操舵の効果はてきめんで、高い回頭性を実現している。AWDやトルクベクタリングとともにLDVIによって統合制御される。

進化したウラカン EVOの最大のトピックは、後輪操舵システムやトラクションコントロール、トルクベクタリングとAWDシステムなどを統合制御するLDVI(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータの略)なる車両コントロールシステムだろう。各種センサーからのデータをフィードフォワード制御(20ミリ秒毎に先読みするという)してスリップアングルやトラクションを最適制御するというもので、今やフェラーリなども同様のシステムを備えている。そのうちの何がどう作用しているかは定かではないが、とにかく面白いように曲がる。スパッと切れ味鋭くというよりも、ステアリングホイールを握る手に力を入れたと同時にコーナーの狙ったポイントに引き寄せられるかのよう。自分の神経がそのままウラカン EVOの車体につながっているような感覚は他に例を見ない。

シャープでスマート、しかも洗練。扱い方によっては従順にも獰猛にも

ランボルギーニ ウラカン EVO RWD スパイダーの走行シーン
リヤ2輪駆動のEVO RWD スパイダーは、LDVIに代わる制御システムとして「P-TCS」がドライバーをサポート。切れ味鋭いハンドリングが特徴だ。

RWDモデルではその後輪操舵システムが省かれることが大きな相違点だ。またLDVIに代わってP-TCS(パフォーマンス・トラクションコントロールシステム)なる制御装置がドライバーをサポートする。RWDはもっとオーソドックスというか、前輪の接地感を意識して操舵する必要があるが、こちらも切れ味抜群なことは言うまでもない。自由自在の万能感が味わえるEVOよりも素手で路面をなぞっているような感覚で、さらに手練れ向けと言えるだろう。もっとも、ドリフト向きと位置づけられるスポーツモードでもパワーオンで後輪のグリップを失わせることはできず(ブレーキング時やESCを完全オフにすれば別だが)、そんなことをしていると人には言えない速度になってしまうから、心ゆくまで試すにはやはりサーキットに持ち込むしかないだろう。

付け加えれば、少なくともストラーダモードでは乗り心地も決してスパルタンではない。高性能になればなるほどガチガチに硬いという時代ではない。もちろん普段はシャープでスマート、かつ洗練されているが、ウラカン EVOは猛獣である。扱い方によって従順にも獰猛にもなる。その落差が人を惹きつけるに違いない。RWDスパイダーでひととおりラインナップが完成したことになるが、その先はどうなるか──。電動モーターではあの刺激は望めない。ステファン・ヴィンケルマンは何か大きな仕事をするために復帰したのではなかろうか?

REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2021年 8月号

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【SPECIFICATIONS】
ランボルギーニ ウラカン EVO
ボディサイズ:全長4520 全幅1933 全高1165mm
ホイールベース:2620mm
乾燥重量:1422kg
エンジン形式:V型10気筒DOHC
総排気量:5204cc
ボア×ストローク:84.5×92.8mm
圧縮比:12.7
最高出力:470kW(640ps)/8000rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前380 後356mm
タイヤ&ホイール:前245/30R20(8.5J) 後305/30R20(11J)
最高速度:325以上
0-100km/h加速:2.9秒
CO2排出量:332g
車両本体価格(税込):3282万7601円

ランボルギーニ ウラカン EVO RWD スパイダー
ボディサイズ:全長4520 全幅1933 全高1180mm
ホイールベース:2620mm
乾燥重量:1509kg
エンジン形式:V型10気筒DOHC
総排気量:5204cc
ボア×ストローク:84.5×92.8mm
圧縮比:12.7
最高出力:449kW(610ps)/8000rpm
最大トルク:560Nm(57.1kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前365 後356mm
タイヤ&ホイール:前245/35ZR19(8.5J) 後305/35ZR19(11J)
最高速度:324
0-100km/h加速:3.5秒
CO2排出量:335g
車両本体価格(税込):2919万3599円

【問い合わせ】
ランボルギーニ カスタマーサービスセンター
TEL 0120-988-889

【関連リンク】
・ランボルギーニ 公式サイト
https://www.lamborghini.com/jp-en

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著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

モータージャーナリスト。カーグラフィック(CG)編集部に所属し、CG副編集長、NAVI編集長、カーグラフィ…