生産終了を発表したホンダ NSX、ピストン西沢と橋本洋平がNSXを囲んで県談

ピストン西沢と橋本洋平、ホンダ NSXの思い出とタイプSへの期待を語る

ホンダ NSXの走行シーン
ハイブリッドを得て新世代のスーパースポーツとして誕生したホンダ NSX。生産終了が発表された今、初代NSXオーナーのピストン西沢氏と、モータージャーナリストの橋本洋平氏が想いを語る。
2021年8月3日、ホンダは2022年を持ってNSXの生産を終了すると発表した。日本のスーパースポーツを牽引してきた2代目NSXは、僅か6年で姿を消すことになる。初代NSX タイプRを所有し、2代目最終仕様のタイプSを抽選申込しているラジオDJのピストン西沢氏と、NSXに精通する自動車ジャーナリスト橋本洋平氏がMY20に乗り、NSXへの想いを語り合った。

Honda NSX

NSXに精通したふたりのエンスージアストが語りつくす

ホンダ NSXと橋本洋平氏、ピストン西沢氏
ついに生産終了が発表された2代目ホンダ NSX。初代同様に新機軸が盛りだくさんだったスーパースポーツだが、ふたりのエンスージアストの目にはどう映っていたのだろうか?

橋本洋平(以下、橋本):フェラーリ ディーノとマクラーレン MP4-12C、さらに初代NSX タイプR(以下NSX-R)も持っているのに、さらに現行最終モデルのNSX タイプSの抽選に応募したんですって? 買い過ぎなのでは?(笑)

ピストン西沢(以下、西沢):いやいや、それでも2代目のNSXが欲しいと思ったのよ(笑)。ディーノは乗るのが色々と大変で、最近じゃまったくガレージから出していない。MP4-12CもNSX-Rも同じかな。MP4-12Cはまだ良いけど、ディーノとNSX-Rは動かすのも一苦労。それに疲れたというか・・・。レースで覚えちゃったんだけど、タイムを出したり、競争する時はクルマが我慢してくれるでしょ。けれど今のウチのクルマたちはほとんど、ドライバーが我慢してクルマを守ってあげなきゃいけないものばかり。それがストレスなんだよ。

橋本:クルマ側にはタップリと余裕があって、その中でイージーに速さを愉しみたいということですね。それなら進化した2代目NSXはピッタリだと思いますよ。MY19からSH-AWDの制御を改めることで、雨の中での安定感は抜群に成長しましたからね。スタビ、リヤコントロールアームブッシュ、リヤハブベアリングの剛性アップと、磁性流体式アクティブダンパーの減衰力やタイヤも改められ、鈴鹿のタイムは2秒もアップしたそうです。MY17を鈴鹿で乗ったことがありますが、その頃のSH-AWDの制御はヨーの立ち上がりが早すぎたり、リヤ剛性が低くてスナップオーバーステアが出たり。またカウンターを当ててアクセルを踏むと極端なオツリをもらうなど、かなり操りづらかったですが、MY19以降は安定させる方向に変わりました。MY17のSH-AWD制御は、フロントの左右輪コントロールを旋回中ずっと使っていました。対してMY19はターンインの操舵初期に駆動トルクのタイミングを早めて使い、クリッピング以降のアクセルオンではフルタイム4駆同様にしようという方向です。トータルでかなりリニアな動きになっていました。

橋本洋平「MY17はアメリカ人好みすぎた傾向があった」

ホンダ NSXをドライブする橋本洋平氏
MY17を鈴鹿サーキットでドライブした橋本洋平氏は操りにくかったという印象を持ったものの、MY19以降では安定志向になったと語る。

西沢:MY17は俺もサーキットで乗ったけど、たしかに扱いづらかった。あの時はNSXに興味も持てなかったし機械仕掛けはもともと好きじゃないし(笑)。SH-AWDの制御も無理やりで、曲げたのに勝手に戻っちゃう。開発責任者の水上 聡さんから聞いたのは、今回のタイプSの制御はアンダーから弱オーバーまで自由自在で、最終的にはかなりオーバー方向らしい。最初からそうしてくれたらいいのに! って言ったら、危なくない方向でセットせざるをえない状況があったと。

橋本:MY17ってちょっとアメリカ人好み過ぎた傾向がありましたよね。ステアリングの初期ゲインだけはあるんだけど、それ以降の奥行きがないような。

西沢:たしかにあのセッティングはアメリカ向けって感じが滲み出ていた。アメリカで人気があるAMGやマクラーレンもそういう傾向だったし、メルセデス SLクラスもそうでしょ? かつて雑誌の企画で土屋圭市さんと一緒に箱根ターンパイクで試乗したことがあった。SLはステアリングをちょっと切るとシビアに反応するんだけど、それ以降のステアリングインフォメーションがなくて、結果としてガクガク旋回しちゃうんだよ。最後は土屋さんが「ピスちゃん、後の撮影はよろしく!」だって(笑)。アメリカでは大げさなセッティングがウケるんだね。それと同じ傾向がMY17にはあった。

橋本:あの土屋さんをもってしてもリニアに動かないクルマは拒否したくなるってことなんですね。

ピストン西沢「スーパーカー好きに訴えるものが足りなかったのが残念」

ホンダ NSXをドライブするピストン西沢氏
ピストン西沢氏は、ディーノやマクラーレン MP4-12C、初代NSX タイプRも所有。レースに参戦するなど自他ともに認めるクルマ好きだ。

西沢:あとMY17ってメッキパーツがてんこ盛りでさ。いかにもアメリカンな感覚。ホイールもギラギラだった。日本人にあまり受け入れられなかったのも頷けるところでしょ。

橋本:日本人の開発者があまりいないように見えてしまったところも、「オレらのNSXじゃない!」って感じてしまったことに繋がっているかもしれませんね。ちなみにMY19以降は造り手の日本人の顔が見えてきて、実際に日本でリセッティングして良くなりましたからね。

西沢:MY17を買った人って、ピュアなホンダファンが多かったんじゃないかな? 平日は毎日のようにラジオの生放送があるから六本木ヒルズに通っているんだけど、そこの地下駐車場で2代目NSXを見たことがないんだよね。世界のスーパーカーがズラっと並んでいるし、日本のGT-Rもいるのにさ。つまり、スーパーカーファンは飛びつかなかったってことになる。ちょっとそこは失敗したと思う。

橋本:でも、文句を色々と言っても申し込みするほど好きでしょ?

西沢:オレって判官贔屓なところがあるんだよ。最初は色々と気に入らなかったけどさ、改良してくれたら良いものになるし。リクエストするとホンダはやってくれるでしょ。水上さんにも色々と言ったんだけど、今のNSXは改良を続けて良くなっている。だから「いつかタイプRが出たらオレは買うよ」って実はずっと前から言ってた。今回はタイプS止まりだけど、あのハイブリッドとSH-AWDがある限り、タイプRのエンブレムを付けられるような軽量化はできないって話だったからね。そこは納得かな。

橋本洋平「今度のタイプSがどんな乗り味に到達しているか興味深い」

ホンダ NSXのエンジン
NSXに搭載される3.5リッターV6エンジンは低回転〜高回転域まで気持ちの良いフィーリングを味わえる。

橋本:今度のタイプSはSH-AWDのセッティングなども見直すそうですね。初期型と最新型のちょうど中間を行くようなセッティングになるという話が伝わっています。かつてMY19が登場した時、物凄く走りやすくなったけど、“NSXらしさ”がスポイルされてしまったかなと思いました。初期型は走りづらさがあったけど、アクセルオンでシャープすぎるヨーを発生させ、そこがフロントに2モーターを採用した醍醐味のような気がしてましたからね。リニアに操りやすいようにすると電子制御が顔を隠すのは自然な流れなんでしょうけれど、ブレーキング側だけでSH-AWDを働かせるのであれば、このシステムはいらないのでは? そんなことさえ感じたんです。今度のタイプSがどんな乗り味に到達しているのか? そこは興味深いです。

西沢:タイプSはダウンシフト側のパドルを0.6秒ホールドすると、一気に2段以上落ちるらしいよ。それでもタイヤは綺麗に回るらしいから、新しいテクニックも生まれるかもね? ポルシェやフェラーリだったら、ロールバーを入れてタイプR以上のハードなモデルを出すところだけど、スポーツカー専門メーカーじゃないホンダはそこはやらないというかやれない。発売条件として初代はトランクを付けることがマストだったと聞くし、2代目はハイブリッドやSH-AWDという先進性があってクルマの開発にGOサインがやっと出たって聞く。そこがスーパースポーツにとってはネガな部分でもあるんだけど、逆に言えば大会社的制約を達成した上で成立させたところはエラかった。

ピストン西沢「乗り心地が良すぎるのはクルマとの対話を妨げる」

ホンダ NSXのインテリア
視認性に優れ、見切りのいい運転席からの視界は日本メーカーならではの配慮だ。SH-AWDの切り替えはインパネ中央下部のダイヤルから行う。シートのホールド性はもう少し欲しいところ。

橋本:今あるシステムを捨てず、コンセプトを最後まで貫こうっていう意地のようなものを感じますね。ストイックすぎるクルマたちに乗ってきた西沢さんにとっては、やはりタイプSってかなりドンピシャなクルマてことですね。今所有しているNSX-Rにも、軽量化が台無しになるエアコンを付けた人ですもんね。

西沢:重ステはなんとか我慢できるけど、エアコンは無理だろ〜! NSX-Rでエアコン付けなかった人はそんなにいないはずだよ。背中に汗疹ができるのが嫌なの(笑)。

橋本:僕もエアコンなしのクルマを1台持っていますが、やっぱりなかなか乗れないですもんね(汗)。

西沢:そうそう、2代目のNSXで惜しかったのはシート。厚みがあって座面が高くて乗り心地が良すぎるのは、クルマとの対話を妨げる。まぁそれが日本のスーパースポーツのスタイルで、快適で操りやすくて速いってところが汗臭い平成と、涼しい顔した令和の違いかもね。

橋本洋平「この時代のエポックメイキングな1台。日本の貴重な誇りだ」

ホンダ NSXのリヤスタイル
他メーカーに先立って新機軸を積極的に投入して生まれたNSXのスピリッツは2代目も変わらない。その集大成ともなるタイプSへの期待は大きい。

橋本:たしかに! 600ps級のクルマをイージーに効率よく走らせるって、あのSH-AWDがあってこそなんでしょうし。GT-Rだってそれを第2世代から続けています。NSXってその時代のニュースポーツという意味が込められているっていうじゃないですか。他メーカーがやっていないことにいち早く取り組み、それを実践してみせた。それは初代のアルミボディやトランク収納がありつつ、乗りやすさに長けたミッドシップを造り出したこと、今回のSH-AWD+ハイブリッドによって、今までになかった曲げ方を見せつけたことがニュースポーツという言葉に繋がっていると思うんです。2代目NSXは間違いなくこの時代のエポックメイキングな1台。フェラーリ SF90だって、NSXを参考にしたという逸話があるくらい。日本の貴重な誇りですよ。

西沢:そんなことを聞くと抽選当たってくれないかなぁと願うばかり。買う買うって言ったって、日本の割り当ては30台・・・。そりゃないぜって感じだよ・・・。

TEXT/橋本洋平(Yohei HASHIMOTO)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2021年 11月号

デアゴスティーニ、週刊『Honda NSX』

ビッグスケールのデアゴスティーニに、待望の週刊『Honda NSX』登場!

20世紀末、自動車大国ニッポンの最後のピースである「スーパースポーツ」枠を埋めたのが、今だ語…

【SPECIFICATIONS】
ホンダ NSX
ボディサイズ:全長4490 全幅1940 全高1215mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1780kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ+3モーター
総排気量:3492cc
最高出力:427kW(581ps)※
最大トルク:646Nm(65.9kgm)※
トランスミッション:9速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後305/30ZR20
車両本体価格(税込):2420万円
※電気モーターの出力を含むシステム出力

【問い合わせ】
Hondaお客様相談センター
TEL 0120-112010

【関連リンク】
・本田自動車工業 公式サイト
https://www.honda.co.jp

キーワードで検索する

著者プロフィール

橋本 洋平 近影

橋本 洋平

いまはなきジェイズティーポ編集部に所属したことをきっかけに自動車雑誌業界に入り、その後フリーランス…