AMGチューンのBEV版Sクラス・EQS 53 4マティック＋に、島下泰久が感じた「未知数の情緒」とは？

公開日 2022/01/04
更新日 2022/09/28
月刊『GENROQ』
著者島下泰久

メルセデスAMG EQS 53 4マティック＋の走行シーン — メルセデスAMG EQS 53 4マティック＋を海外試乗。モータージャーナリスト・島下泰久がAMG初のBEVを斬る。

メルセデスEVのフラッグシップであるEQSにAMGが加わった。最大で762psと1020Nmのパワーとトルクを発揮し、約2.6tの重量級ボディながら0-100km/h加速3.4秒をマークするモンスターEVサルーンである。もちろんメルセデスならではのラグジュアリー性能にも注目だ。

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Mercedes-AMG EQS 53 4Matic＋

AMG初のBEVが見せた実力とは？

メルセデスAMG EQS 53 4マティック＋のフロントスタイル — 縦桟のパナメリカーナグリルが装備され、AMGらしいスポーティさを強調。AMG専用ホイールは21インチか22インチが用意され、ミシュランと共同開発したパイロットスポーツEVが組み合わされる。

いわばBEV版のSクラスとして登場したメルセデス・ベンツ EQSに、早くもAMG版が加わった。その名もメルセデスAMG EQS 53 4MATIC＋である。

メルセデスAMGにとっても初のBEVだが、内燃エンジンか電気モーターかが異なるだけで、そのクルマづくりの哲学に違いはない。重視されているのは、何よりパフォーマンスだ。

車体の前後に1基ずつ搭載される電気モーターは専用スペック。標準仕様は最高出力658ps、最大トルク950Nm。オプションのAMGダイナミック・プラス・パッケージでは、レーススタートモードで最高出力761ps、最大トルク1020Nmを発揮する。

各部にAMG専用モデルを採用

メルセデスAMG EQS 53 4マティック＋のインテリア — 全面パネルとなるフラットなインパネは未来的な雰囲気だ。AMGパフォーマンスステアリングが装備され、メーターパネルにはAMGのロゴが表示される。

4MATIC＋は通常は効率重視で前後輪の駆動力を設定。そしてSPORT、SPORT＋の各モードでは後輪側がより主体的に駆動力を発揮することになる。

シャシーには細かく手が入れられていて、リヤアクスルビームはAMG専用だしサブフレームやモーターのマウントも新設計とされている。スタビライザー、ホイールキャリア、コントロールアームなどは、他のAMGモデルと同じものを使っているそうだ。

標準のAMGライドコントロール＋サスペンションは、伸び側、縮み側の減衰力を独立調整可能な電子制御ダンパーとエアスプリングの組み合わせ。後輪操舵も標準で備える。操舵角がメルセデス・ベンツ EQSの10度に対して9度とわずかに小さいのは、よりワイドなタイヤのせいだが、いずれにせよ相当に切れることは間違いない。

LEDを多用して未来感を演出

メルセデスAMG EQS 53 4マティック＋のメーター — バッテリーは107.8kWhという大容量で、WLTPモードで585kmの航続距離を実現。200kWの急速充電なら300km走行に必要な電力を19分でチャージできるという。

エクステリアは標準で21インチ、オプションでは22インチの大径タイヤ＆ホイールが際立っている。縦スリット入りのフロントグリル、リヤのディフューザー、そしてトランクリッドスポイラーは、元々のフォルムが大胆なだけに、難無くフィットしている印象だ。

標準では合成皮革のARTICOをメイン表皮とするシートに腰を下ろすと、眼前の大型ディスプレイの表示も専用とされている。ややガジェット的だが、LED内蔵のスイッチ類などとは良くマッチしていて違和感は無い。

そして走り出すと、発進は期待通りきわめてスムーズ。豊かなトルクのおかげで、いかにも質量のあるクルマが滑らかに動く様が、むしろ快感だ。タイヤサイズのせいもあってか乗り心地はやや硬め。ただし、試乗したパームスプリングス周辺の一般道は舗装が荒れに荒れていたから、日本ではそこまで気にならないかもしれない。

未知数な情緒面を含め、なかなかの問題作と言ってもいいのかもしれない

メルセデスAMG EQS 53 4マティック＋のリヤスタイル — サイド部にダクトの開いた専用バンパーが備わる。ボディはセダンではなくハッチバックスタイル。なだらかに傾斜したルーフはエアロダイナミクス性能も高く、Cd値は0.23だ。

ワインディングロードでの身のこなしの良さには驚いた。この体躯にして思った通りよく曲がるのは、後輪操舵の助けも大きいのだろう。加速も滑らかなのに力強く、容易にアクセルを踏み切れない。つまり、とにかく速い。

ただし、車重が嵩むだけにオーバースピード気味でコーナーに飛び込んでしまった時などには一瞬、息を呑むことも。また、ブレーキもやや甘めと感じられた。

SPORTモードに切り替えると、AMGサウンドエクスペリエンスと呼ばれるサウンドジェネレーターが発する電子音に驚かされる。アクセル操作に応じて盛り上がる感じなど迫力はあるが、ちょっとゲーム機っぽい感じもある。ワンマン・ワンエンジンのV8が奏でる咆哮に魅入られていた人が、これに納得するだろうか？かと言ってサウンドをオフにしたら、ますます味気ない気もするし・・・。

そんなわけで、BEV化はメルセデス・ベンツにとってはポジティブな要素も多いが、メルセデスAMGにとっては、特にこの情緒という面でまだ未知数な部分もあるなというのが率直な印象である。さてユーザー諸氏はどう受け取るのか。これはなかなかの問題作と言ってもいいのかもしれない。

REPORT／島下泰久（Yasuhisa SHIMASHITA）
PHOTO／Daimler AG
MAGAZINE／GENROQ 2022年 2月号