EVシフトの波のなかでケータハムはどうなるのか?

日本の資本、EV化・・・変化する2020年代のケータハムはどこへ向かうのか

ケータハム・カーズインタビュー
ケータハム セブンの走行シーン
伝統的なレイアウトとプリミティブなアピアランスを現代に引継ぎ、いまだに高い人気を誇るケータハムのプロダクト。頑なに自らのスタイルを変えずにきたケータハムだったが、時代の要請により変化せざるを得なくなった。今回、ケータハムのCOOに就任したVTホールディングスのジャスティン・ガーディナー氏に、今後のケータハムについてモータージャーナリストの吉田拓生氏が訊いた。

CATERHAM CARS

ジャスティン・ガーディナー氏に訊く

全ての自動車メーカーが電動化を視野に入れなければならない時代になっている。イギリス政府は2030年以降、ガソリン、ディーゼル車の新車販売を禁止すると発表している。となれば大メーカーはもちろんだが、イギリスに数多あるバックヤードビルダーたちの状況も穏やかとは言えない。それはケータハムにも当てはまる。

既報のとおり、今年の4月ケータハム・カーズは日本のVTホールディングスの傘下となっている。同社はケータハムの正規輸入を行うエスシーアイや、ロータスの正規輸入元であるエルシーアイといったインポーターとして実績を残してきた企業。国内のトップカテゴリーのレースで自らステアリングを握ってきたVTホールディングスの代表取締役社長である高橋一穂氏も、イギリスの小メーカーの現状を良く把握している。

今回はイギリスのケータハム・カーズを訪ねている、エスシーアイのジャスティン・ガーディナー氏に、ケータハムの詳しい現状を聞いてみることにした。

ジャスティン・ガーディナー氏に訊く

ケータハム・カーズインタビュー
長らくケータハムの日本総代理店・エスシーアイにて、ケータハムに携わってきたジャスティン・ガーディナー氏。ユニークな軽自動車規格のセブン 160はガーディナー氏がプロデュースしたものだ。

イギリス人であり、長く日本に滞在しケータハムに関わっている彼は660ccのスズキ・エンジンを搭載した軽自動車規格のセブン160の発案者としても知られている。

イギリスにいるジャスティン氏に質問を投げかけてみる。日本の資本になったことでケータハムはどう変わるのだろうか?

「何も変わりません。私は今回、ケータハムの120人いる社員のみなさんに『何も変わらない』ということを伝えに来た感じですね。最近のケータハムには色々な噂がありましたから。イギリス以外の国で作るとか。でもケータハムのファンはみなさんイギリス製であることにもプライオリティを感じてくれています。もちろん、全く変わらないというわけではなく、いくつかの改善は必要だと思っています。例えばサプライヤーとの連携をもっとスムーズにするとか、そういったことです」

セブンのEVは進捗しているのか?

ケータハム・カーズインタビュー
英国の小規模生産メーカーであり、バックヤードビルダーとしての姿を色濃く残すケータハム。一貫して生産してきたセブンもEV化は免れない。

今年に入って、ケータハムのグラハム・マクドナルドCEOがEVセブンについてコメントしていた。それによると彼はすでにプロトタイプを試乗済みであり、実車の発売も5年以内に行えるといった内容だったが?

「それはちょっと大げさかもしれません (笑)。モーターを積んだセブンは、これまでも作った人がいました。グラハム社長はそのどれかに少し乗ったことがあるという話だと思います。ケータハム社にプロトタイプがあるわけではないので、発売も5年後では難しい。コンセプトカーなら今すぐにでも作ることができますが、問題はまだEVのコンポーネンツが高いことです。イギリスでは2030年以降はICE(内燃機関)車両の新車販売ができなくなる。だからその直前くらいになるとほとんどの自動車メーカーのEVが出揃って、部品が安くなるはずです。ケータハムが動くのはそれからだと思います」

2駆のEVはリヤにモーターを置くレイアウトが一般的になっているが、EVセブンの場合もそういったレイアウトになる?

「リヤにモーターを置いたセブンのEVも見たことはありますが、我々が作るモデルはフロントにモーターを縦置きすることになると思います。そうすることで車体の前後に重量物がうまく配分され、セブンらしいハンドリングが再現できます。ミッドシップのように重量物の中央に集めるとラップタイムは速くなりますが、必ずしもドライビングの楽しみが増すわけではないと思います」

今から新車をオーダーしても1年以上の納車待ち

ケータハム・カーズインタビュー
現在、セブンの新車をオーダーした場合、1年から1年半の納車待ち状態だという。また、年間生産台数約550台のうち約80台はサーキットユースに用いられている。

 EV化はまだ先だとするケータハム。彼らの当面の課題は何なのだろうか?

「ケータハムとしては内燃機関にまだまだ可能性を感じています。それは例えばシンセティック・フューエルのような解決策だったりするかもしれない。それ以外にも世界を見渡せばまだまだガソリン車を販売できる市場も残されています。今後はコンティニュエーションルールにより北米でも本格的にセブンを販売できるようになる可能性が出てきています。また東南アジアやインドも可能性があります。だからサプライヤーも、あと10年きっかりでガソリン・エンジンの生産を終わらせたりはしないはずです」

ケータハムが1年で生産するセブンは550台程度。この数字は長年変わっていないという。また現在新車をオーダーすると1年から1年半待ちの状態だという。

「550台の中の80台くらいはレースカーです。セブンのレースは、ヨーロッパではフォーミュラ・フォードよりもコストが安いため、ステップアップを目指すドライバーにも人気があります。だから例えばイギリスであれば、セブンをサーキットのためのクルマとして楽しむ選択肢もあります。そしてもちろん、ユーズドカーもたくさん出回っていて、これは2030年のルールとは無関係です」

ニッチ・ブランドと相互連携を強化

ケータハム・カーズインタビュー
モーガンやアリエルのように、ケータハム同様の少量生産メーカーは英国に数多い。今後ケータハムはこうしたニッチ・ブランドと提携して生き残りを図っていくという。

グラハム・マクドナルドCEOは同じくイギリスの小規模メーカーであるモーガンとも協力していくようなことを話していましたが、それは具体的にはどのようなことですか?

「イギリスの小規模メーカーはNVN(ニッチ・ビークル・ネットワーク)という団体に加入しています。この団体を通して政府と交渉したりしているわけです。だからこれまでもモーガンやアリエルといったメーカーとは協力関係にあるのです。大きな自動車メーカー同士のプラットフォームの共有のような話ではありません(笑)。どちらかといえば生き残るための術を模索している感じです。今後EVがメジャーになってくると、ケータハムのようなクルマがより重宝されるはずです。今は難しい時代ですが、将来の可能性も大きいと思っています」

自らの価値をよく理解しているケータハム・カーズ。彼らはこれから先の大きな時代の変化にもうまく適合し続けていけるに違い。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…