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Peugeot 9X8 Hybrid Hypercar
最新プジョーの美学を全て盛り込んだフォルム
2011年を最後に耐久レースから撤退したプジョーは、新たに導入された「ル・マン・ハイパーカー(LMH)」規定に則り、9X8を開発。ハイブリッドパワートレインを搭載する新型ハイパーカーの開発では、マティアス・ホッサン(Matthias Hossann)率いるプジョーのデザインチームが、そのクリエイティビティを発揮することになった。
スリムかつリヤウイングを持たない独自のスタイルを持つ9X8は、挑みかかるネコのようなスタンス、スポーティさを強調した流麗なライン、なめらかで構造的なボディサイド、そしてライオンの3本爪をイメージした発光サインなど、プジョー・ブランドが持つデザイン的な美学がすべて盛り込まれた。
レーシングカー全体をデザインすることは、自動車デザイナーにとって究極の夢でもある。しかし、これまでマティアス・ホッサンが手掛けたのは、ディテールやカラーリングにとどまることが多く、その夢が実現する可能性は限りなくゼロに近かった。従来のレーシングカーではそのスタイルやアイデンティティよりも性能が重視され、遠目ではその個性が発揮されることはほとんどなかった。
デザイナーとエンジニアによる共同作業
9X8プロジェクトでは、プジョー・スポールのエンジニアとデザイナーが非常に緊密に協力。スタイルとテクノロジーを融合させた競技車両を作り上げた。「議論のレベルは、まったく前例のないものでした。私たちデザインチームは、言葉通りプジョー・スポールと手を取り合って仕事をしたのです」と、ホッサンは振り返る。
「未来のレーシングカーのテーマを決めるために、まずデザイナーによるコンペを実施しました。近い将来、自分たちの作品が世界の名だたるブランドと歴史あるサーキットで競い合う日が来るかもしれないという大きな熱意を感じさせるプロジェクトだったため、多くの応募がありました」
「その後、プジョー・スポールのエンジニアと共同でテーマを決め、開発に取り掛かりました。妥協のないパフォーマンスと革新的なレギュレーションのもと、エンジニアはハイパーカーのデザイナーに自由な創造性を与えるために、可能な限りの余地を残してくれたのです」
新エンブレムやコクピットなど市販モデルとのリンク
9X8は新型308への採用に先立ち、2021年初頭に発表された新しい「ライオン」エンブレムを初めて採用した車両となった。このエンブレムは今後のプジョー全モデルで見られる予定となっている。また、9X8のキャビンには、レーシングカーでありながらもプジョーの最新インテリアデザインを反映。プジョーの特徴である「i-Cockpit」コンセプトをベースにしている。
「9X8のテクノロジーは完全にプジョー・スポールの創造物であり、それをデザインで示す必要がありました。性能に妥協することなく、前世代の非常に幾何学的な耐久レース用プロトタイプレーシングカーとは対照的な流線型のボディを維持しながら、独自の姿勢を与えたいと考えたのです」と、ホッサンは指摘する。
リヤウイングレスという歴史への挑戦
9X8のデザインコンセプトで最大の特徴となるのが、プロトタイプレーシングカーではお馴染みとなった巨大なリアウイングがないことだろう。それこそがこのハイパーカーのユニークな個性を際立たせている。
リヤウイングは1967年のル・マン24時間レースで初めて登場し、今では一般的なスタイルとなった。1971年のル・マン以来、50年以上にわたってリヤウイングのないマシンが勝利したことはなく、プジョーのデザイナーとエンジニアによる大胆な選択は、歴史への挑戦となる。
パワートレインは、リヤに500kW(680hp)を発揮する2.6リッターV型6気筒ツインターボ、フロントに200kW(270hp)の電動モーター/ジェネレーターを搭載。4輪駆動にハイブリッドシステムを組み合わせたという点で、「3008 ハイブリッド」や 「508 プジョー・スポール エンジニアード コンセプト」など、市販モデルとの共通項を見出すことができるモデルになっている。