BMWのフラッグシップEV、i7のNVH開発プロセスに迫る

BMW i7は「究極の静音性能」を目指す。EV特有のノイズを解消する方法とは?

BMW i7の音響テスト風景。気候テストルーム
「BMW史上最高レベルの快適性」を実現するべく開発が進められているピュアEVのi7。乗員を不快なノイズで煩わせることのないよう、最先端の試験設備を駆使してNVH性能を鍛え上げた。
BMWはピュアEVモデルのラインナップを急加速で拡充している。iX、i4、iX3と様々にバリエーションを増やしているが、その頂点に君臨するのがフラッグシップのi7だ。フルサイズのラグジュアリーセダンであり、ショーファードリブンとしても使用されるi7だけに、快適性の作り込みは一頭地を抜くはず。なかでも、EV特有の“ノイズ問題”への対策は徹底している模様である。

BMW i7

EVは静かだからこそ「騒々しい」

BMW i7の音響テスト風景。風洞実験
BMW i7の音響テスト風景。EVでは内燃機関の音で“ごまかす”ことができない分、様々なノイズ源が乗員の耳に入りやすい。ロードノイズや風切り音、内装のきしみなど、様々な音を最小限に抑えるべく、BMWは広範な開発プログラムを導入した。

BMWは、EVファミリーのフラッグシップモデルとなるi7を2022年中にリリースするべく開発を進めている。今回、その開発プログラムの一部を公開。EVだからこそ気になる“ノイズ”を可能な限り低減する、徹底的な対策方法の一端を紹介した。

一般的には「EV=静か」というイメージが浸透しつつあるものの、内燃機関由来のノイズが存在しないからこそ、かえって騒音対策が難しい。風切り音やロードノイズ、インバーター音、内装材のきしみ音といった他の騒音源が目立ってしまうため、NVH(騒音、振動、ハーシュネス=舗装路の継ぎ目や段差、突起などの凹凸を通過したときに発生する衝撃音と振動)性能に関しては、さらに厳しい対策が必要となっている。

「BMW史上最高の快適性を実現する」ために

BMWのEV向けサウンド「IconicSounds Electric」の開発に協力しているハンス・ジマー
i7にふさわしい音景を作り上げるにあたっては、世界的作曲家であるハンス・ジマーが協力。新しいサウンド環境として「BMW IconicSounds Electric(アイコニックサウンズ エレクトリック)」を共同開発している。

BMW製EVのフラッグシップモデルとなるi7は、「BMW史上最高の快適性を実現する」ために、空力や防音材、振動対策などあらゆる方面からNVH性能の向上を図ってきたという。ドイツ ミュンヘンにあるGMWグループの研究開発センター(FIZ=Forschungs- und Innovations zentrum)ではテストエンジニアや開発エンジニアが日々、騒音の発生源や侵入源について徹底的な実験を実施。同時に、車内サウンドや歩行者に車両の接近を知らせる独自の警報音も作り込んだ。電動ドライブユニットはマウントをモデル別に特別設計とするとともに、モーター用のカバーも新たに開発。ボディ前端の剛性アップや、内部に吸音材を仕込んだタイヤの採用などにより驚異的な静けさと低振動を実現した、と公式資料では謳う。

また、サウンド環境については、世界的作曲家であるハンス・ジマーと共同で「BMW IconicSounds Electric(アイコニックサウンズ エレクトリック)」を開発。軽快で透明感のあるサウンドが、イグニッションスタート時やドアオープン、走行時など色々な場面でキャビンを未来的なムードで満たす。

世界中の交通環境を再現できるシャシーダイナモ

BMW i7の音響テスト風景。シャシーダイナモ
BMW i7の音響テスト風景。シャシーダイナモは、世界中の路面を再現できるよう様々な表面材に交換できるようになっている。

BMWグループ肝煎りの先進研究開発機関であるFIZに設置されたのが、電動モビリティの性能要件を満たすべく設計した最先端の音響用テスト施設。ここでは、現実世界でテストドライバーが検知したあらゆる騒音を再現することができる。それらの“源”に、ひとつずつ対策を施していくのがエンジニアの仕事だ。シャシーダイナモメーター(もちろんこれ自体も特別な静音設計である)は、様々な路面での騒音やタイヤノイズを再現できるよう、世界中の交通環境を想定した表面材に交換できる仕様となっている。

さらに、極端な天候下でも性能レベルをキープできるよう、FIZでは様々な気候を再現できるテスト施設も用意している。エアコンやベンチレーションシステムを駆使して、極寒地帯から灼熱地帯まで、世界の様々な地域の天候をシミュレーションできる環境を整えている。

トラックの通過音など“日常の騒音”をリアルに再現

BMW i7の音響テスト風景。気候テストルーム
BMW i7の気候テストルームにおける音響テスト風景。極寒のエリアから灼熱地帯まで、あらゆる天候を再現しながら様々なシチュエーションでの“音”をチェックする。

車両が発生するノイズへの対策はもちろん、i7では車外から侵入するノイズにも徹底的に対処した。風洞実験棟では綿密な空力テストを実施。フラッシュサーフェイス化したハンドルやサイドミラー、アンダーボディの形状に至るまで、騒音を最小限に抑える造形とした。もちろん優れた空力性能は、静粛性だけでなく、電費面においても大きな効果を発揮する。

道路工事や通過するトラックなど、現実世界に生じる様々な騒音を再現できるシミュレーター室には多数のスピーカーを設置。ここでは車両の全方向から日常世界にあふれている種々の騒音を流して、キャビンの静粛性を検証している。

吸音材や遮音材も最新の設計思想に基づき素材を厳選し、位置や分量を決定していった。ピラーのトリムやシート、ルーフライナー、後席のシェルフに採用した吸音材も、効果的な車外騒音対策のひとつであるという。もちろんウインドウも不快なノイズを防ぐ仕様となっており、ドアやシル、ホイールアーチにもロードノイズを抑えるフリース素材を配している。

現代製品にとって極めて重要なEMC試験用設備も

BMW i7の音響テスト風景。EMC アブソーバー ホール
「EMC アブソーバーホール」でテスト中のBMW i7。現代では「外部に強い電磁波を出さない=エミッション(電磁妨害)」と「外部からの電磁波の影響を受けない=イミュニティ(電磁感受性)」は重要な製品品質のひとつとなっている。

EMC(electromagnetic compatibility=電磁両立性。製品が電磁的妨害源とならない、かつ、電磁的な干渉を受けない、あるいは受けても正常に動作する能力のこと)が極めて重要な商品品質とされている現代は、その対策に向けた試験設備も必須である。FIZ内の「EMC アブソーバーホール」では、プロトタイプを強力な電磁界にさらしながら、車両が外界と相互にどのような影響を及ぼしあうのかを検証可能。

エンジニアは光ファイバーを通じてリアルタイムで送られてくる車両の診断結果を分析できるようになっている。サスペンションコントロール、ドライブアシスト機構、オンラインデータ、電話やラジオやTVにナビゲーションなど、すべての機能をいついかなるときも正常に動作させるために、EMCは現代車に欠かすことができないテスト要件なのである。

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著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…