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RENAULT ARKANA
ルノー初のハイブリッドSUV、アルカナ誕生の背景
EVシフトが確実に進行しているヨーロッパでは、昨年87万8432台ものEVが販売された。
これは前年を約34万台も上回る数値で、新車全体に占めるEVの比率は2020年の5.4%から9.1%へと跳ね上がった(欧州自動車工業会の発表による)。つまり、欧州では「新車10台に1台はEV」という時代がすでに到来しているのだ。
その最大の理由が、地球温暖化に端を発するCO2削減の動きにあることは間違いないが、EV推進だけでカーボンフリーな社会が実現するのは難しい。
つまり、将来的にゼロエミッションカーの普及が欠かせないとしても、そこに至るまでの現実的な手段としてハイブリッドカー(HV)やプラグインハイブリッドカー(PHV)が重要となるのは疑いのない事実なのだ。
その意味でいえば、各自動車メーカーにはハイブリッド技術のさらなる進化が期待されているともいえるだろう。
ただし、CO2削減効果がもっとも大きいとされるフルハイブリッド方式の多くは、大きなモーターやバッテリーを必要とするため、必然的に高価格モデル中心のラインナップとなりがち。
一方で我が国のコンパクトカー市場では同じフルハイブリッドでもシリーズ式が注目を集めているが、こちらは中低速域でのCO2削減効果は高くても、モーター本来の特性のため高速域で熱効率を高めるのが難しいとされる。
つまり、高速道路を多く利用するコンパクトカーユーザーにぴったりのハイブリッドシステムは、これまで存在しなかったといっても過言ではないのだ。
そのコンパクトカークラスでここ数年、急激に存在感を強めているのがSUVである。もともと路上の専有面積が小さなコンパクトカーで広い室内空間を求めれば、全高が高くなるのは当然のなりゆき。しかも、いわゆるハッチバックカーとは異なり、どちらかといえば新ジャンルのSUVは見栄えもよく、若者を中心に幅広い支持を得ている。
その結果、いまや自動車メーカーにとってB、CセグメントのSUVがもっとも手堅いビジネスとなっていることは周知のとおり。そこに、さらに高効率なハイブリッドシステムが加われば、まさに鬼に金棒。
限りなくCセグメントに近いボディサイズのBセグメントSUVに革新的なハイブリッドシステムを搭載したルノー アルカナが誕生したのは、こうした背景によるものだったと考えればわかりやすいだろう。
こだわり抜かれたハイブリッドパワートレイン
もっとも、これまでも常にユニークなテクノロジーで自動車業界をあっと驚かせてきたルノーが、すでに市場に出回っているごく当たり前のハイブリッドシステムに満足できるはずもなかった。「われわれが得意とするコンパクトカー向きで、高速道路を走り続けても燃費のいいハイブリッドシステムをどうにかして作れないだろうか・・・」。そんなことを日々考え続けたとあるルノーの技術者が、オモチャの「LEGO」を使って構想をまとめたのが、アルカナに搭載されたまったく新しいハイブリッドシステムのE-TECHだったという。
E-TECHの原理は、こうだ。
高速道路の連続走行でも高い熱効率のハイブリッドシステムを実現するなら、もともと熱効率の高いエンジンが必要不可欠となる。しかも、コンパクトカー用であれば小排気量の自然吸気エンジンがスペース面でもコスト面でももっとも有利。
そこでルノーは1.6リッターの4気筒NAエンジンをチョイス。最新のテクノロジーが盛り込まれたこのパワーユニットは最高出力94ps/5600rpmと最大トルク148Nm/3600rpmという必要にして十分なパフォーマンスを発揮する。
画期的な技術が実現したハイブリッド走行
コンパクトカーに搭載するハイブリッドシステムであればモーターもコンパクトなほうが都合がいい。ただし、ただ小さいだけではモーターのパフォーマンスが低くなり、大きな燃費改善効果は期待できない。
そこでルノーは、最高出力36ps、最大トルク205Nmという比較的コンパクトなモーターに2速の変速機を組み合わせることで、高速域でも優れた燃費改善効果を実現しようとした。これと同じ発想から、エンジンにも4速ギヤボックスが組み合わされている。
これと同時に、システムがパラレルハイブリッドとしてもシリーズハイブリッドとしても機能できるギヤボックスが考案された。その開発には、前述した「LEGOを使った検証」も含まれていたはずだ。
こうしたシステムの切り替え機構には、動力を断続する何らかのメカニズムが必要不可欠となるが、もしも摩擦を利用した一般的なクラッチを搭載すればシステム全体が必然的に重く大きくなってしまう。
ここで件の技術者が選択したのが、ドグクラッチの採用だった。歯車に似たふたつの金属部品をかみ合わせることで動力を伝達するドグクラッチは、レーシングカーのギヤボックスに広く用いられるほど小型軽量で伝達効率も高い。この辺のアイデアは、F1に参戦するルノー・スポールのメンバーからもたらされたものだったに違いない。
一方でドグクラッチの弱点といえるのが、接続時に大きなショックを発生すること。そこでルノーの技術者たちは、エンジンの始動にも用いられるスターター・ジェネレーターでエンジンとモーターの回転数を正確に同調させ、そのうえでドグクラッチを接続することにより、過大なショックの問題を解決した。
こんな手法は前代未聞。まさにコペルニクス的な発想と言えるだろう。
搭載される技術と高い運動性能
発売前のルノー アルカナに、とあるクローズドコースで試乗した。
印象的だったのは、エンジンがかからずにモーターだけで走行する領域が驚くほど広いこと。市街地を走るイメージでスロットルペダルを踏み込む限り、発進してから40km/hに到達するくらいまでエンジンがかかることはない。
その後、スピードメーターが50km/hに到達するあたりでエンジンが初めて始動したのだが、動力の切り替えに伴うショックは皆無と言って差し支えのないレベル。
しかも、アルカナは遮音性が高いのか、エンジンがかかってもさほどうるさいとは感じない。この辺も、モーターからエンジンへの移行がスムーズに行われていると感じる一因になっている。
SUVの機能美とクーペのエレガントを掛け合わせたデザイン
その後もアルカナは軽快に車速を伸ばしていった。もっとも、高速域での加速感はあくまでも必要にして十分といった範囲で、「スロットルペダルを踏み込んだ途端、背中を蹴飛ばされたかのような加速感」が味わえるわけではない。
この辺は「1.6リッターNAエンジンなり」のパフォーマンスだが、スロットルペダルの踏み方次第ではモーターがエンジンを力強くサポートし、スムーズでレスポンスのいい加速感をもたらしてくれる。ドグクラッチを採用したおかげで、ドライブトレイン全体からソリッドな印象が伝わってくるのも嬉しいところ。
それは、ハイブリッドシステムでときおり話題になるラバーバンドフィール(ゴムが伸び縮みしているかのような、節度感のない加速感のこと)とは無縁の、爽快なドライブフィーリングといっていいものだった。
ルノーとルノー・スポールの独創性が息づくE-TECHは、コンパクトクラスのハイブリッド市場に新風を吹き込むテクノロジーといっていいだろう。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
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