目次
自動車と機械式時計、両者に共通する高い趣味性

クルマ好きは時計が好き。
そう一言で片付けてしまうのは少し乱暴かもしれないが、あながち外れてはいないだろう。特にこの10年ほどの歳月は、「メカニカル」なクルマや時計の魅力が、大きく見直されている。いや見直されるどころか、今やそのニーズが爆発的に拡大している。
その歴史的な背景には、クルマでいうと「ヤングタイマー」(※)の興隆があった。そしてその火付け役となったのが、「ポルシェの空冷911」だと筆者は感じている。
年々そのサイズを増幅・増長し、600馬力や700馬力が当たり前となったプレミアム・スポーツカーたち。そんな、もはや乗り手の能力を遙かに超えたパフォーマンスへのアンチテーゼとして、空冷時代のポルシェ 911が見直された。
空冷時代のポルシェの精緻なメカニズムが時計に通ずる

いまやポルシェのエントリーモデルである718 ケイマン/ボクスターよりもひと回り小さなボディに、バサバサと乾いたサウンドを奏でるフラット・シックスを搭載したtype993以前の911たちは、サーキットで鞭打てば無論のこと、オープンロードをただ走らせるだけでも、そのダイレクトな乗り味と甘酸っぱいノスタルジーでドライバーを再び魅了したのである。
その結果およそ10年ほど前から空冷911の市場価格は空前の高騰を見せ、これに引っ張られるかのように1980年代後半から2000年代初頭までのクルマたちの価値までもが、急激に跳ね上がっていった。
そして今なお、その状況は続いている。
空冷ポルシェとロレックス・デイトナ

ちなみにこれは時計で言うと、ロレックスの現象にとてもよく似ている。そしてその中心に据えられているのが、第6世代「デイトナ」(Ref.116500)だ。
2016年に登場したこのモデルは完全自社製となったムーブメント(Cal.4130)を変わらず40mm径×12.5mm厚の小さなケースに収め、なおかつセラミックベゼルによってその印象を引き締めることで、誰もがその名を知るほどのモンスター・ウォッチへとまさに“化けた”。
911とデイトナの共通点を述べるのはまたの機会に譲るが、ともかくこうしたクラシカルさを、セラミックベゼルという現代的な技術のたった一筆(ひとふで)で、延命させるどころか新生させたロレックスのセンスには脱帽だ。それはまるで、type964のクラシカルなボディをベースに、最新の技術を投入して仕上げる「シンガーポルシェ 911」の、“レストモッド”を彷彿とさせる。いや、それよりもミニマルで、洗練された再生である。
“計器”として機能美を突き詰めた機械式時計
そしてこうしたロレックス・デイトナの躍進は、自社製品のブランディングを確固たるものとするだけでなく、他のプレミアムブランドの価値さえも引き上げた。時を知るだけなら、スマートフォンやスマートウォッチが一番正確である。しかし趣味人は時計に、様々な“何か”を求める。
香箱の中に巻き上げられたゼンマイが、4つの歯車を回して動力を伝え、脱進機がチクタクとこれを振幅運動に変換する。こうした古典的な機械のビートで、どこまで正確に時を刻めるのか? どこまで精度を追い込めるのか? そんなことが、たまらなく面白いというわけだ。
ネジを巻き上げるときに、指先に伝わる感触。時刻合わせのときに、ピタリと止まる針の動きの心地よさ。ケースやダイヤルの造り込み。こうした機械との触れあいが、ヤングタイマーと同様に、我々の心をつかむ。人は効率だけでは、満足できない生き物なのである。
欲しい1本を手に入れるための最短ルート「Chrono24」

そして今や、こうした面白さをも通り超して、機械式時計はある意味加熱したブームとなっている。人気が人気を呼んだその価格は投機対象という側面をも確立して、マニアのみならず投資家や、あまつさえ時計にさほど興味を持たなかった人々をも巻き込んだ、ビッグマーケットを形成するに至っている。
機械式時計やクルマを投機対象と見なすことの是非は、ここでは言及するつもりはない。マニアからすれば「自分だけの宝物」を市場から見つけ出すことはひとつの喜びであり、幼い頃のカード集めよろしく高価なレアモデルを揃えたくなるのは、いわば性である。
自分が持つコレクションの市場価値が上がることは密かな喜びであり、先を読みながらコレクションを増やして行くことが醍醐味であることは、抗いようもない事実だ。そして、時計の世界ではこうした状況を、それこそ世界の視点から捉えることができるホームページとアプリケーションが存在する。
それがこれから紹介する「Chrono24」であり、そのひとつのアプリケーション機能「ウォッチスキャナー」である。
つづく
TEXT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
※ヤングタイマー:戦前や1970年代までのクラシックカーたちを「オールドタイマー」と呼んだことに対する造語。主に80年代から90年代にかけて作られた、「クラシックカーほど古くないクルマたち」がその範疇にあるが、2000年代も20年以上を過ぎた現在は、2000年代初頭までその幅が広がっていて、特にその定義はない。
【関連リンク】
・Chrono24
https://www.chrono24.jp