ロールス・ロイスの次期型EV「スペクター」の開発現場に迫る

ロールス・ロイス初のピュアEVが北極圏へ! マイナス40度の極寒地でテスト

ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターのプロトタイプ。寒冷地テストの様子。フロントビュー
ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターのプロトタイプ。この冬には、北極圏近くのスウェーデン・アリエプローグで寒冷地テストを実施した。
ロールス・ロイスは、同社初となるピュアEVモデル「スペクター」の開発を進めている。この冬に行われた寒冷地テストでは、北極圏からわずか55kmの距離にあるスウェーデン・アリエプローグをプロトタイプが疾走した。

Rolls-Royce Spectre

走行テストの「25%分が完了」

ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターのプロトタイプ。寒冷地テストの様子。サイドビュー
ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターのプロトタイプ。100%電気で走る初のロールス・ロイスは、ファントムクーペのスピリットを受け継ぐ“エレクトリック スーパー クーペ”になるという。

ロールス・ロイス初のEV、スペクター(Spectre)の開発が佳境を迎えている。この冬には、スウェーデン・アリエプローグにある専用の拠点で寒冷地テストを実施。マイナス26〜40度という極寒の環境で、その耐久性と信頼性を徹底的に検証した。

初めての電気自動車といえど、ロールス・ロイスのバッジを冠する以上は、それにふさわしいクォリティを約束しなければならない──そのような理由から、彼らは史上最も厳しいテストプログラムを構築。世界各地で行うテストで想定している総走行距離は250万kmにのぼり、ロールス・ロイスの平均使用距離に鑑みると、じつに400年以上分の走行距離に相当する。今回の寒冷地テストをもって、その25%分が終了したという。

ファントムクーペの精神を継ぐ“エレクトリック スーパー クーペ”

ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターのプロトタイプ。寒冷地テストの様子。フロントビュー
ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターのプロトタイプ。カモフラージュには、チャールズ・ロイスの電気自動車にまつわる文言がデザインされている。

アリエプローグでは、極限の環境下にあってもスペクターのあらゆる部分が正常に、かつ「ロールス・ロイスらしく」機能するかどうかがチェックされた。エアコンやベンチレーションシステム、冷却機構はもちろん、電動パワートレイン、各種制御デバイスの類が正しく稼動するかどうか。雪や氷といった低μ路でも安定したハンドリングと的確なコントロール性を確保できるかどうか。また、ドアのラバーやブッシュ、接着剤といった経年劣化しやすいパーツについても綿密な検証が繰り返された。

新生ロールス・ロイスとして2003年にリリースした最初のファントムのアーキテクチャーを「ロールス・ロイス 1.0」とするならば、現行のファントム、カリナン、ゴーストのそれは「ロールス・ロイス 2.0」ベースである。そして、スペクターが採用するのは、最新のオールアルミニウムスペースフレームを使ったEV用アーキテクチャー「ロールス・ロイス 3.0」だ。デザイナーはスペクターを、ファントムクーペのスピリットを受け継ぐモデルとして捉えており、独創的な“エレクトリック スーパー クーペ”としてデザインしたという。

フライングレディも新デザインへ

ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターから採用する新デザインのスピリット オブ エクスタシー
ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターから採用する新デザインのスピリット・オブ・エクスタシー。より低く構えた姿勢は、電気自動車にとって大切な空力性能の向上にも貢献する。

ロールス・ロイスのアイコンであるスピリット・オブ・エクスタシーも新デザインとなる。彫刻家のチャールズ・ロビンソン・サイクスが20世紀初頭に描いた原画をもとにしつつ、より低くダイナミックなフォルムに生まれ変わった。全高は前作の100.01mmから82.73mmと低く設定。スピリット・オブ・エクスタシーが纏うローブも、よりリアルな表現に改められている。姿勢も大きく変化しており、これまでは足を揃えて、まっすぐに伸ばして腰を傾けていた女神は、片足を前に出し、体を低く構え、視線を前方へ注いでいる。

今回の変更はスペクターの優れたエアロダイナミクス特性にも寄与している。初期プロトタイプのCd値はわずか0.26を記録しており、現時点でもロールス・ロイス史上最もエアロダイナミクスに優れた車両となっている。この数字は2022年に実施される徹底的なテストプログラムを経て、さらに改善されると思われる。

デリバリー開始は2023年第4四半期を予定

ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターのプロトタイプ。寒冷地テストの様子。リヤビュー
ロールス・ロイスの次期型EV、スペクターは2023年第4四半期のデリバリーを目標に開発が進められている。電気ならではの静かでパワフルな走りは、ロールス・ロイスの言う“waftability(ロールス・ロイス車の独特の浮遊するような乗り味を表現する言葉)を体現するものになるという。

フロアにフラットマウントしたバッテリーはキャビンに広大な空間をもたらすだけでなく、低重心化にも貢献。また、「“700kgの防音材”としても機能する」というエンジニアの説明も、いかにもロールス・ロイスらしい。

寒冷地テストを終えたスペクターは、引き続き世界各地での走行テストを行っていく。先進のエレクトリック スーパー クーペのデリバリーは、2023年第4四半期にスタートする計画である。

ロールス・ロイス初のフルEV「スペクター」に採用される新デザインの「スピリット・オブ・エクスタシー」。

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著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…