ミッドシップスーパースポーツ対決! マセラティ MC20 vs ホンダ NSX

純内燃機関のMC20とハイブリッドのNSXを比較試乗! ミッドシップスーパースポーツカー2台に見えた先見の明

マセラティ MC20とホンダ NSXの走行シーン
プレチャンバー付き3.0リッターV6ツインターボエンジンという純内燃機関を搭載するMC20。惜しくも生産中止となったが3モーターのハイブリッドスポーツの先駆者、ホンダ NSX。好対照の2台だ。
マセラティが放つミッドシップスーパースポーツ、MC20。カーボンコンポジットボディにF1由来のエンジンを積む自信作だ。対するは生産が終了したものの未だに色褪せないホンダNSX。日伊のミッドシップ対決は、果たしてどちらに軍配が上がるのか。

Maserati MC20 × Honda NSX

異彩を放つ2台を比較試乗

マセラティが久々に放つミッドシップスーパースポーツ、MC20(左)と日本の誇るミッドシップスーパースポーツホンダ NSX。

マセラティは1910年代に創業し、シトロエン、デ・トマソ、フェラーリと時代ごとに異なる母屋の軒先で、数々のスポーツカーやラグジュアリーサルーンを開発してきた。言い換えれば、いつの時代も必ず手に入れたがるパトロンが出てくるだけのネームバリューと技術力をもったブランドであり続けた。現在はステランティスの一員で、長年のライバルであったアルファロメオと同じディビジョンに所属し、ラグジュアリー部門を担う。

彼らが、台数限定のモデルを除けば実に久しぶりに手掛けたミッドシップスポーツがMC20だ。

クルマを受け取り、ドアを開けて運転席に乗り込む。斜め上に跳ね上げるバタフライドアはダンパーのおかげで軽く持ち上がる。サイドシルまでがドアにくっついて持ち上がるため、シート近くまでえぐられた状態となり、乗り降りがしやすい。

MC20は初対面の相手をジェントルに出迎えてくれた

簡単な操作説明を受けた後、エンジンを始動。あっけないほど静かで、振動も少ない。マセラティが久しぶりにミッドシップスポーツを手掛け、そのクルマのために専用開発した3.0リッターV6ツインターボエンジン、しかも電動化されていない純粋な内燃機関と聞き、雄叫びとともに始動するのかと思いきや、低くくぐもったアイドリング音を響かせるのみ。MC20は初対面の相手をジェントルに出迎えてくれた。

最新のスーパースポーツらしく、センターコンソール前方の一等地にスマホを置くスペースが確保されており、置くとワイヤレス充電が始まる。その上にある横長のディスプレイをタッチしてカープレイのワイヤレス接続とエアコンの温度設定を済ませ、目的地を目指す。

カーボンモノコック特有の乗り味

630psの後輪駆動車をウェット路面で走らせる。緊張感と共にエンジンのポテンシャルの高さに舌を巻いた。

雨の中、おとなしいほうから順にウェット、GT、スポーツ、コルサとあるドライブモードのうち、まずはGTを選んで首都高速、東名高速、小田原厚木道路を進む。プレチャンバーを備えることで注目されている最高出力630ps/7500rpm、最大トルク730Nm/3000-5750rpmを発揮するエンジンは、適度に混んだ自動車専用道路のペースでは、ただ低回転を保って求められたトルクを発するだけ。集合場所に到着した時点、つまり山道を駆け回る前の段階での燃費は9.4km/リッター。駆け回った後では5km/リッター台と。それでも我々の想像よりも大食いではなかった。

よいのは燃費だけでない。乗り心地も快適。「スーパースポーツにしては」という但し書きは不要。当然のことながら高剛性なのだが、一般的なスチールやアルミのモノコックを用いたクルマの高剛性とは違ってガチガチな印象ではなく、カーボンモノコック特有の、しなってはいけない方向には決してしならないが、しなってもかまわない方向にはしなる、そんな柔軟さを感じさせる。あくまで体感的な印象だが。

山道でペースを上げる。「ネットゥーノ(ネプチューンを意味するイタリア語)」と名付けられたエンジンは、回転を上げれば上げるほどパワーが伴うのはもちろんのこと、吹け上がりも軽やかになっていく。そして本来ならば、ここから先の領域でこそ真価を発揮するのだろうが、あいにくの雨。持てるパワーをほとんど解き放ってやることはかなわなかった(晴れてても一般道じゃ無理か・・・)。

気分を盛り上げるMC20の音質はV6エンジンの中ではベスト

点火に副燃焼室方式を用いた3.0リッターV6ツインターボエンジン(ネットゥーノ)を積む。装着タイヤはブリヂストン・ポテンザスポーツだ。

それでも雨の中で630psの後輪駆動車を走らせる際に求められる、感覚を極限まで研ぎ澄ませながらの刺激的なドライビングを楽しむことができたのは、ペダル操作にひたすら忠実でレスポンシブなエンジンのおかげだろう。

6気筒のスポーツカーとしてベストのエンジンサウンドだと思う。長らく生産されたグラントゥーリズモやひと世代前のクアトロポルテが積んでいたフェラーリ由来のV8エンジンほど甲高く官能的ではないものの、野太く腹に響くような音は間違いなくドライバーの気分を上げる。

MC20には目立った空力パーツがなく、600ps超クラブのメンバーのなかでは最もエレガントなスタイリングといえるが、空気を味方につけようとしていないわけではない。ボディに空力パーツを装着するのではなく、ボディ全体を空力パーツととらえ、底部を中心にエアロダイナミクスを追求しているのだ。

そのおかげで雨の一般道での限られたペースであっても、ある程度速度が高い領域のほうが安定していると感じた。撮影のためにゆっくりと走らせている時のほうが滑るんじゃないか不安だったほどだ。

色褪せぬ3モーターの万能感を披露するNSX

フェラーリがSF90で示したPHEVミッドシップスーパースポーツの方程式は、NSXも一定の影響を与えただろう。

V6エンジンを搭載したミッドシップのスーパースポーツという共通点から、編集部がMC20の相手に選んだのはホンダ NSX。依頼を受けた段階では、出たばかりのモデルとすでに生産中止になったモデルを一緒にテストすることにやや違和感があったが、いざ取材してみたら好対照で興味深かった。グッジョブ、編集部・石川君。

NSXに乗るのは、2017年に発売された直後以来だった。その前年にクローズドコースで最終に近いプロトタイプに試乗した際、初めて体験する3モーターのハイブリッドスポーツの経験したことのない挙動に興奮したのを覚えている。

ライバルの進化を見てホンダの先見性を見直す

低回転から高回転まで気持ちの良い回転フィールを味わえる3.5リッターV6エンジン。装着タイヤはコンチネンタル・スポーツコンタクト6だ。

特に左右前輪にそれぞれモーターを組み込み、後輪だけでは路面に伝えきれないパワーを引き受けるとともにベクタリング機能も持たせたSH-AWDシステムは斬新だった。数年後に登場したフェラーリ SF90(こちらはPHVでモーター容量が大きくシステムパワーは1000psに達していた)がSH-AWDによく似た構成で登場した際、ホンダの先見性を見直した。

その後、ライバルの進化を受けてSH-AWDの制御変更をはじめ、サスペンション剛性向上、専用タイヤ変更など、大幅に改良されて19年に登場した後期モデルに乗る機会を逸していたのだが、今回、生産中止となってから初めてMY20モデルを試すことができた。

雨天だからこそ実感したハイレベルな安心感と信頼感

そしてその進化はこの日が雨だったことで、速度を上げずとも感じることができた。雨だと後輪駆動のMC20では630psを路面に伝え切るのが難しい。これに対しNSXは581psのほとんどを路面に伝えられる。この日、発進時のトラクションはもちろん、コーナー出口でアクセルペダルを早く、深く踏めるのは圧倒的にNSXのほうだった。雨の山道をここまでの安心感と信頼感で走行できるスーパースポーツを他に知らない。

ただしこれだけのパフォーマンスを発揮すると、ハイブリッドだからといって燃費面で有利というわけでもないようだ。車載燃費計の数値はMC20のそれと似たようなものだった。

時代に抗うか受け入れるか

去る者と来る者。電動化の進む現代にあって、ハイブリッドスーパースポーツNSXがその生産を終了する一方で、純内燃機関車のMC20が登場するというのは、単なるメーカーの戦略や開発タイミングの違いでは括れない大きな意味すら感じてしまう。

同じステージで交互に試して感じたのは、この2台が実に対比的だということ。MC20が、イタリアの老舗が多くのエキゾティックカーブランドを代表し、2022年に内燃機関としてできる限りのことをした、これまでの価値観の集大成のようなスポーツカーだとしたら、NSXは、第二次世界大戦後に勃興したスポーツカーブランドを代表し、老舗が産み育ててきたスポーツカーの価値を受け継ぎ、時代に合ったかたちでこの先も人々に提供しようという決意のあらわれとしてのスポーツカーではないか。

時代に間に合わせるために駆け込むように登場したMC20と、電動化を受け入れ、むしろ好機ととらえ、これからもクルマ好きを満足させ続けるという覚悟のNSXという印象を得た。

それだけにNSXが生産中止になってしまったことは残念だ。苦しい時期はどのスポーツカーブランドにもある。というかスポーツカーブランドはたいていいつも苦しい。それでもやめないから尊敬され、応援されるのだ。

REPORT/塩見 智(Satoshi SHIOMI)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2022年 7月号

マセラティ MC20の走行シーン

マセラティ MC20、国内初試乗! 色気漂う伊達男のパフォーマンスに酔いしれる

新生マセラティが放つスーパースポーツ、MC20がついに日本上陸を果たした。カーボンコンポジッ…

【SPECIFICATIONS】
マセラティ MC20
ボディサイズ:全長4669 全幅1965 全高1221mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1475kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3000cc
最高出力:463kW(630ps)/7500rpm
最大トルク:730Nm(74.4kgm)/3000-5500rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR20 後305/30ZR20
車両本体価格:2664万円

ホンダ NSX
ボディサイズ:全長4490 全幅1940 全高1215mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1780kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ+3モーター
総排気量:3492cc
最高出力:427kW(581ps)※
最大トルク:646Nm(65.9kgm)※
トランスミッション:9速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後305/30ZR20
車両本体価格:-
※電気モーターの出力を含むシステム出力

【問い合わせ】
マセラティコールセンター
TEL 0120-965-120

Hondaお客様相談センター
TEL 0120-112010

【公式ウェブサイト】
マセラティジャパン公式ウェブサイト

HONDAホームページ

キーワードで検索する

著者プロフィール

塩見 智 近影

塩見 智

1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社、2000年に『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』…