BMWの既存エンジンをベースにハイブリッド化した「BMW M ハイブリッド V8」

BMWのLMDh規定用ハイブリッド・パワートレイン完成! 7月末にイタリアでシェイクダウン

BMW M ハイブリッド V8に搭載される「P66/3」ハイブリッド・パワートレイン
2023年のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権でデビュー予定の「BMW M ハイブリッド V8」に搭載される「P66/3」ハイブリッド・パワートレイン。
BMW M モータースポーツは、LMDh規定新型プロトタイプレーシングカー「BMW M ハイブリッド V8」のハイブリッド・パワートレインが完成し、シェイクダウンを7月末に行うことを明らかにした。BMW M ハイブリッド V8は、2023年シーズンのIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権参戦を目指して開発が続けられている。

BMW P66/3 Hybrid V8 

6月末にテスト車両に搭載しエンジンを始動

BMW M ハイブリッド V8に搭載される「P66/3」エンジンを含むハイブリッド・パワートレインは、すでに6月末にテスト車両に搭載され、点火を済ませている。
BMW M ハイブリッド V8に搭載される「P66/3」エンジンを含むハイブリッド・パワートレインは、すでに6月末にテスト車両に搭載され、点火を済ませている。

BMW M ハイブリッド V8は、4.0リッターV型8気筒「P66/3」ガソリンターボエンジンに、電動モーターを組み合わせたハイブリッド・パワートレインを搭載。6月末にはテスト車両に搭載され、システムの始動にも成功している。

「P66/3」ガソリンターボエンジンは、2017~2018年シーズンにBMW M4 DTMマシンで使用された自然吸気「P66/1」エンジンをベースに開発。LMDhハイブリッド・ドライブシステム規定の厳しい要件を満たすため、包括的な再調整が行われた。

完成したハイブリッドパワートレインは最高システム出力640hp、最大トルク650Nmを発揮。シェイクダウンは7月末にイタリア・パルマのヴァラーノ・デ・メレガリで予定されており、その後、ロングランも含めた集中的なテストプログラムが開始される。

ベースとして選ばれたDTM用「P66/1」エンジン

時間的な制約に加えて、厳しいLMDh規定に対応すべく、BMW M モータースポーツは2017年~2018年にDTMで使用された4.0リッターV型8気筒「P66/1」自然吸気エンジンをベースに選んだ。
時間的な制約に加えて、厳しいLMDh規定に対応すべく、BMW M モータースポーツは2017~2018年にDTMで使用された4.0リッターV型8気筒「P66/1」自然吸気エンジンをベースに選んだ。

BMW M モータースポーツのウルリッヒ・シュルツ率いる開発チームは、2021年6月にBMWグループの経営陣がLMDhカテゴリーへの参戦にゴーサインを出す前から、高性能ハイブリッドシステムへの転換に最適なレーシングエンジンの調査・評価を行ってきた。

時間的な制約、さらにモータースポーツ活動とは言え無視できない持続可能性を考慮し、LMDh規定のために多額の費用をかけて新規エンジンを開発するという選択肢はなかったという。そのため、LMDh規定の厳しい要求と仕様を満たすには、どのレースエンジンが最も適しているかを見極める必要があった。

これを受けて、2017年から2018年にかけて「M4 DTM」で使用された4.0リッターV型8気筒「P66/1」自然吸気エンジンが、ハイブリッド・パワートレインのベースエンジンに選択された。DTM用エンジンだったことから、サブフレームを追加することなくモノコックに搭載できる上、ターボやハイブリッドの追加にも適していると判断されたかたちだ。

様々なレーシングエンジンを検討・評価

BMW M モータースポーツにおいて、集中的に開発・製作が行われた「P66/3」エンジン。
ハイブリッド・パワートレインのベースエンジンとして、様々なエンジンが評価されたが、最も適していると判断されたのが、DTM用の自然吸気ユニットだった。

評価段階では、2019年から2020年に使用されたM4 DTMの2.0リッター直列4気筒「P48」ターボエンジンや、BMW M8 GTEの4.0リッターV型8気筒「P63」ターボエンジンも検討されたが、P48は耐久性、P63は重量に問題があったという。開発を主導したシュルツは、最終的に「P66/1」を選んだ理由を次のように説明する。

「BMWがかつてF1で使用していたスチールやアルミニウムなどの既存素材を、エンジンのベースとなる部分や、シャフト、ハウジングなど様々なパーツを『P66/1』に流用できたことは大きなプラスになりました。その結果、時間とコストを大幅に削減することができましたし、効率的かつ持続可能なプログラムになったと言えるでしょう」

「今回のプロジェクトは、開発スタートからデビュー戦となる2023年のデイトナ24時間レースまで時間が限られているため、効率性は特に重要なファクターです。ただ、自然吸気の『P66/1』エンジンをツインターボ化し、さらに電動技術のプロフェッショナルと共にハイブリッド・パワートレイン化するのは、非常に複雑な作業になりました」

「そして、専門知識、最高のコラボレーション、そしてあらゆる部門の高いモチベーションのおかげで、つい数週間前にドライブユニット全体の点火を完了させることができました。今では、テストに向けて、障害は一切なくなったと断言できます」

段階を踏んだハイブリッド・パワートレイン化

BMW M モータースポーツにおいて、集中的に開発・製作が行われた「P66/3」エンジン。
開発チームは、自然吸気エンジンをベースにツインターボ化した「P66/2」を開発。様々な検証やテストを行い、ハイブリッド化される「P66/3」を製作した。

開発の第一段階では、自然吸気の「P66/1」DTM用エンジンに2基のターボチャージャーを適合させるべく、「P66/2」と名付けられた中間エンジンに改造。この時、開発の焦点はエンジンの耐久性、性能向上、温度管理にあった。

「P66/2」は、テストベンチやレーストラックを想定したシミュレーションを含む数多くのテストを完了。これを受けて、開発チームは第二段階となる「P66/3」レースエンジンの製作へと進む。この段階でツインターボの最終仕様決定、ダラーラ製シャシーに合わせた微調整、エキゾーストシステム、オイルタンク、ケーブル配線、高電圧環境への統合などが行われている。

シリンダーブロックとシリンダーヘッドはドイツ・ランツフートのBMWグループ鋳造工場で再鋳造され、インジェクションシステムは直噴式に変更。フォーミュラEプロジェクトにおいて電動パワートレイン・システムの豊富な経験を積んでいるエンジニアたちが、電動モーター、インバーター、高電圧バッテリーの開発と「P66/3」への統合を同時進行で行っている。

こうして完成した「P66/3」ハイブリッド・パワートレインはテスト車両に搭載し、エンジンの点火にも成功。BMW M ハイブリッド V8への搭載に向けて、準備が整うことになった。

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