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ホームページや販売店のデザインを一新
CI(コーポレート アイデンティティ)は、ロゴやシンボルマーク、広告、PR誌、看板、社屋など、自社のイメージを発信するあらゆる媒体において、文字や絵、写真、色、レイアウトなどの諸デザイン要素をもとに構成した同一性のある表現により「自社のキャラクター」をメッセージとして伝えるものだ。その思想の原点はバウハウス、レイモンド・ローウィにあるともいわれるし、1947年にジョバンニ・ピントーリがデザインしたオリベッティのロゴタイプが各国企業のCIに大きな影響を与えたともいわれている。
クルマの世界でも、販売店の内外装からTVCM、カタログ、ダイレクトメールに至るまで、CIを徹底されるのがすっかり通例となっている。プレミアム感なのか親しみやすさなのか、はたまたアバンギャルドな雰囲気なのか、各メーカーは自身のブランドイメージが店舗の空気やホームページの隅々から伝わるよう徹底している。
フランスの孤高のハイパーカーブランドというイメージをすっかり確立しているブガッティが、2022年7月にCI/CDの変更を発表した。ロゴをはじめ、ホームページなどで使用するフォント、配色、デザインのテイストなどをアップデート。同日より、ホームページやSNSチャンネル、報道関係者向けのサイトデザインもがらりと趣を変更している。すでに一部の販売店舗にも新CIの採用が始まっており、順次浸透させていくという。
「ハイパーカーメーカー」から「ラグジュアリーブランド」へ
このタイミングでのCI変更について、ブガッティで販売&マーケティング担当役員を務めるヘンドリック・マリノフスキーは次のようにコメントしている。
「我々は単に見た目や雰囲気のみを刷新しただけではありません。私達がどこから出発したのか、そしてヴェイロンを導入してブランドを再構築した2000年代に、集中的に掘り下げた歴史的なつながりについて分析したのです。さらに、シロンがいかにしてブガッティの立ち位置とブランドアピールを変えていったのか、この10年に世界はどう変わっていったのかについて改めて評価しました。思い出していただきたいのですが、ヴェイロンが誕生したとき、iPhoneはまだこの世に存在していなかったんですよ」
“iPhone以前”にヴェイロンという大胆なプロダクトを世に放っていた。それこそブガッティというメーカーの革新性を象徴するひとつの出来事であるとマリノフスキーは語る。
そして、そのブガッティは、世界と産業の変化を見据え、「孤高のハイパースポーツカーの製造企業」から「より広範囲にわたるラグジュアリーブランド」へ生まれ変わろうとしているという。今回のCI/CD変更はそのための一歩なのだ。
ロールス・ロイスもロゴやフライングレディを一新
ちなみに、同じく孤高の高級車ブランドであるロールス・ロイスも2020年に「モーターカンパニーからハウス・オブ・ラグジュアリーへの転身」を表明している。クルマ以外に、あらゆるラグジュアリーな体験を提供するブランドへと生まれ変わる、というのがその主張。
英国のデザイン会社「ペンタグラム」へ依頼し、新ロゴを作成。シンボルであるスピリット・オブ・エクスタシーのデザインさえ変更し、シグネチャーカラーとしてパープルを設定したことも話題となった。ちなみにスピリット・オブ・エクスタシーはよりフラットでシンプルな表現となり、従来左を向いていたものを右向きに変更している。これは、タブレットやスマートフォンなど端末のアプリケーション上で表示する際、アイコンは右を向いていたほうが自然、というのがその理由。今や、ロールス・ロイスもデジタル世界に背を向けて生き残ることはできない時代なのである。
ルイ・ヴィトンやブルガリがリゾートを手掛けるように、ランボルギーニはヴィラやヨットを、ポルシェがホテルを、ベントレーが家具を、アストンマーティンがレジデンスをプロデュースするなど、ラグジュアリーメーカーは軒並みクルマ以外の「製品」を提供し始めている。モノづくりを生業としてきた自動車メーカーが、コト(体験)をつくるという新しい動きは、これからどんな展開を見せるのだろうか。