「富士 SUPER TECH 24時間レース」に山田弘樹が参戦。BMW M2 CS RACINGをインサイドレポート

BMW M2 CS RACINGで24時間耐久を走ったアラフィフモータージャーナリスト、アマチュアレースの醍醐味を語る

「富士 SUPER TECH 24時間レース」参戦記
「富士 SUPER TECH 24時間レース」レースシーン
BMW M2 CSをベースにM社が作り上げたレーシングカー、その名もずばり「M2 CS RACING」を、アジア唯一のワークスであるBMW Team Studieが今年2台導入。そのうちの1台を5月21~22日にかけて開催されたスーパー耐久「富士 SUPER TECH 24時間レース」に参戦させ、筆者はその5人のドライバーのうちのひとりに選ばれた。そして24時間を無事に走りきり、ST-1クラスで3位表彰台を獲得。総合順位でも格上となるSTXやSTZ車両の間に割って入り、51台中12位というリザルトを得た。ここではそんなM2 CS RACINGの、秘められたポテンシャルについて詳しく述べていこう。

モータージャーナリスト、山田弘樹の挑戦

「富士 SUPER TECH 24時間レース」参戦記
2021年スーパー耐久シリーズの第3戦「富士 SUPER TECH 24時間レース」に、モータージャーナリストの山田弘樹氏が参戦。BMW Team Studieからエントリーし、24時間の長丁場をアマチュアレーサーとして走り抜いた。

GENROQ Webでもかつて紹介しているが、このM2 CS RACINGはBMWが提唱する入門用のカスタマーレーシングである。そのルーツは「M235i RACING」から始まり、「M240i RACING」へと受け継がれ、現在に至っている。

BMWは現在M4 GT3を頂点に、M4 GT4、そしてこのM2 CS RACINGの3台でカスタマーレーシングのピラミッド層を形成している。ご存じの通りGT3車両は日本のスーパーGTや、今季から装いを新たにするDTM、そして「GTワールドチャレンジ」など世界中のGTレースで活躍するマシンであり、GT1/GT2クラスの消滅から事実上GTレースの頂点を担うレーシングマシンとなっている。

GT4車両はその直下に位置しており、近年は多くのプライベーターやアマチュアドライバーから注目を集めるようになった。スーパー耐久で言うとST-Zクラスに出走が可能であり、今回の24時間レースではTeam Studieも♯20 SS/YZ Racing With Studie M4 GT4(山口智英/荒 聖治/坂本祐也 組)を走らせ、堂々クラス2位を獲得している。

ハイレベルな「入門用」マシンでST-1クラスに参戦

「富士 SUPER TECH 24時間レース」参戦記
BMW Team Studieより、木下隆之/大井貴之/砂子塾長/東風谷高史の各選手と共に参戦した筆者(写真左からふたりめ)。エントリーしたのはST-1クラスで、車両はBMW M2 CS RACING。

対してM2 CS RACINGは、FIAカテゴリーへの出場を狙ったレーシングカーではない。その目的は若手ドライバーの育成や、GT3/GT4レースへのステップアップ、そして筆者のようなアマチュアドライバーがモータースポーツを楽しむことにあり、ニュルブルクリンクの24hレースをはじめとした耐久レースではワンメイククラスが作られ、今季からはDTMのサポートレースがスタートする。

つまり今回筆者が、木下隆之、大井貴之、砂子塾長、東風谷高史選手という経験豊かなドライバーたちと共に24時間レースを戦ったのは、M2 CS RACINGのアマチュアドライバーに対する懐深さを、証明するためだったのである・・・というわけで、BMWはこのM2 CS RACINGを「入門用」と謳うわけが、だとしたらそれは、非常にレベルの高い入門用レーサーだと言えるだろう。

まず筆者が感激したのは、そのクオリティの高さだ。レースに不要な装備が全て剥ぎ取られたボディには、ロールケージがこれでもかというほど張り巡らされており、乗り込むにはジャングルジムを潜り抜けるかのような、アクロバティックな姿勢が求められる。しかしその乗り込みにくさこそ、BMWがドライバーの命を何より大切に考えているという証だ。M社のレーシングカー製作における姿勢はGT3もGT4も、そしてこの入門用レーサーも、まったく同じであるという部分には大いに感銘を受けた。

レースを戦うために様々なインフォテインメントがあふれる車内

「富士 SUPER TECH 24時間レース」参戦記
BMW M GmbHが手掛けたM2 CS RACINGは、アマチュアレーサーを対象としたワンメイクレースにも供される。ボディを固めるロールケージの数々やステアリングホイールに集約された各種操作系など、ツーリングカーレースのトップクラスにも引けを取らない装備が与えられている。

コックピットに滑り込むと、様々な情報が一斉に目に飛び込んでくる。メーターはレーシング用の液晶モニターに変更されており、ラップタイムからレブカウンター、数字表示のエンジン回転数、各種温度、ガソリン消費量といった情報が、細かく仕切られて表示されている。ドライバーとしての本音を言うともっと情報は厳選して、走る時に必要なものだけをメインに置き、あとの情報は切り替えて確認できるようにして欲しい。

ステアリング上で特殊なのはチームと交信するためのラジオボタン、ピットレーンを規定速度(今回は50km/h)で走るためのリミッターボタン、メーターの切り替えスイッチ、ドリンク用ボタンといった所だろうか。あとはウインカーやワイパースイッチが付けられており、全ての操作がステアリングから手を離すことなく行えるようになっている。

センターコンソール最上段にはトラクションコントロールを司るMDM(Mダイナミックモード)とFDS(クラッチミートスピード変更)のトグルスイッチ、そしてスターターボタンが並び、中2段にはライト類と空調類のスイッチが並ぶ。そう、このマシンにはエアコンも完備されていて、これが驚くほど涼しいのだ! そして下段にはメインスイッチとキルスイッチ、ハザードスイッチとなる。

ただでさえ余裕のない状態でこれだけのスイッチ類を見せつけられると一瞬頭が混乱しそうになるが、よくよく見れば馴染みのあるものばかり。シフトノブの形状も同じなら、スマートキーでイモビライザーを解除させるのも、実は市販車と同じであった。

市販のM2より高められた剛性による乗り味は「ファンタスティック!」

「富士 SUPER TECH 24時間レース」参戦記
3.0リッター直6ツインパワーターボを搭載し、最高出力450psのアウトプットをモータースポーツ専用ソフトウェアを用いた7速DCTで伝達。角度調節可能なモータースポーツリヤウイングが強力なダウンフォースを発生する。

M2CS RACINGを走らせた印象は、ひとこと「ファンタスティック!」だった。ベースとなったM2クーペは、そのコンパクトなボディに3.0リッター直列6気筒「S55」ユニットを搭載する、どちらかと言えばじゃじゃ馬的なスポーツカーだ。

しかしM2 CS RACINGは前述したロールケージの影響で、市販車と比べて段違いに高いボディ剛性を得た。その足まわりには減衰力調整が1way(伸び/縮み同時調整式)の、極めてシンプルなダンパーしか装着していないのだが、これを素直に伸び縮みさせながら285幅のスリックタイヤがもたらすグリップを受け止め、450psにまで高められたエンジンパワーを、無駄に発散させることなくトラクションに変えてくれるのである。ボディ剛性がここまでクルマを変えるのかと、本当に驚いた。

またこのシャシーにMDMの制御の組み合わせは、抜群の安全装置となる。ある程度のスリップアングルを許容しながらも、ドリフトアウトを絶妙に補正してくれるのだ。それでも不安だというのなら、完全にトラクションコントロールを効かせることも可能である。

ある程度の経験者なら緊張感を強いられずに走らせられるM2 CS RACING

「富士 SUPER TECH 24時間レース」参戦記
ABSやDSCなどの運転支援システムはモータースポーツ用のチューンを施して採用。ビギナーでも安心してレースを戦えるのもM2 CS RACINGの大きな特徴だ。

だからドライバーは、安心してそのアクセルを踏み込んでいくことができる。たとえばM2でサーキット走行をしたことがあるオーナーなら、きっとその安心感の高さに驚くことだろう。富士のストレートエンドで軽く250km/hを超えるそのスピードとサウンドに、感激するはずである。

つまりM2 CS RACINGは、ある程度の経験者であれば誰もが必要以上の緊張を強いられずに走らせることができるレーシングカーだと言える。M2 CSが持つポテンシャルを安心して、フルに発揮できるという意味でもその存在意義は大きい。ただしそれを「速く走らせられるか?」はまた別問題だ。そしてここからがM2 CS RACINGの、クラブスポーツとしての本領発揮といえる部分だった。

特に今回筆者はプロフェッショナルなドライバーたちとレースに臨んでいたから、その走らせ方を、レースウィークを通して存分に学ぶことができた。標準装備されるロガーからデータを抽出し、それを見ながらブレーキングポイントやアクセルの踏み方を精査して、最終的には遜色ないアベレージタイムを刻むことができるようになったのである。

素直な操縦性により周回ごとに習熟が高まる

「富士 SUPER TECH 24時間レース」参戦記
プロレーサーのアドバイスを聞きながら24時間を走る。M2 CS RACINGは走るたびに習熟が進み、アマチュアレーサーに最適なモデルだと筆者は語る。

またそのシャシーセッティングが、速さに振ったものではなかった部分も良かった。M2 CS RACINGはコーナリングスピードよりも、操縦性の素直さに重点を置いている。だからこそ周回を重ねるほどにマシンへの習熟が進み、そのドライビングスキルを向上させることができたのである。

習熟を重ねるという点では、マシンの造りもここに一役買っている。本来であればM2 CSはその速さを研ぎ澄ますために、カーボン製のフロントリップスポイラーやボンネット、ディフューザーといった空力パーツを採用しているのだが、M2 CS RACINGではボンネットをスチール製とし、それ以外は樹脂製パーツで材料置換を行っているのだ。こうすることでその車重は約1500kgとなってしまったが、万が一クラッシュした場合でもパーツ交換コストを抑えることができる。だからユーザーは安心して、走りに集中できるのである。

ちなみに我々がそのエンジン排気量から編入されたST-1クラスは、FIA-GT3/GT4クラスが創設されるまで、スーパー耐久のトップカテゴリーだった。そしてM2 CS RACINGがここで速さを見せるには、少しだけポテンシャルが足りなかった。クラス的にはST-1とST-2の、ちょうどその間といったところが正直な印象だ。

クラス3位、全体でも12位のリザルトを達成

「富士 SUPER TECH 24時間レース」参戦記
ディーラーから発売される状態、つまり吊るしのままで24時間を走り切ったBMW Team Studie。長丁場をトラブルなく終えたことは、M2 CS RACINGのポテンシャルの高さを物語る。

しかしTeam Studieが、今回ST-1クラスで許される改造を一切行わず、ディーラーから販売されるそのままの姿でレースを戦ったのは、M2 CS RACINGが持つポテンシャルの高さを広くアピールするためである。そう、このM2 CS RACINGは日本のBMWディーラーで発売されるのである。そしてこの大役を、♯8 BMW M2 CS RACINGとTeam Studieは、見事に果たした。一発の速さはなくともノーミスでこれを走りきり、トラブルと言えるトラブルもなくタフに24時間を走りきったのである。

M2 CS RACINGは、間違いなく高いポテンシャルを持った入門用クラブスポーツだ。これで今後はスーパー耐久でも参加できるクラスができたり、メーカー主導のワンメイクレースが開催されたら、間違いなくいいレースができるだろう。またサーキット走行を楽しむBMWが目指す、ひとつの大きな目標にもなってくれるはずである。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)

著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…