新型プリウスが走り出した方向性を考察する

スタイリングばかり注目される新型「トヨタ プリウス」の目指した方向性をグローバル視点で考察

これまでとは一線を画するスタイリッシュなスタイリングで登場した新型「トヨタ プリウス」。発表会自体も異例づくしの内容で、現状ではスタイリングと簡単な技術のみが明らかとなっただけだが、はたしてハイブリッド車のトップランナーは、新型に生まれ変わってどういった方向性となったのか? マーケティング戦略面から考察する。

プレゼンテーションは英語で日本語は字幕

11月16日、5世代目となる新型プリウスが東京で発表された。現在のトヨタの看板車種のひとつであるプリウスがどのようなモデルチェンジを果たすのか、興味津々で会場に向かった。

発表会は「発表会」も、そして「新型プリウス」も意外性のあるものだった。まずプレゼンテーションを行ったのはデザイン統括部長のサイモン・ハンフリーズ氏ひとりで、それ故か技術に関する説明は一切なかったのだ。またプレゼンテーションはスピーチ、スライドともすべて英語で、日本語はスクリーン端に表示された字幕のみだったのである。プレゼンテーションも今までのプリウスの実績と新型プリウスのコンセプトの説明という内容だった。

プリウス自体も今までの歴代プリウス発売時のポジションとは大きく異なる。プリウスといえばトヨタハイブリッドシステムの象徴であり、トヨタハイブリッドステムの進化は常にプリウスが先頭を走っていたのである。しかし5世代目プリウスに搭載されたシステムは5代目のTHSで、最新ではあるものの、すでに今年の夏にノア/ヴォクシーで初採用され、10月にはカローラシリーズ(カローラクロスを除く)にも既に搭載済みのシステムである。またホイールも燃費には不利に働きそうな19インチを採用している(但しタイヤ幅は195と細め)。

燃費ではなく走り

発表会のあと開発者に聞いたところ「新型プリウスは燃費ではなく走りに振った」ということだった。そのため、最新のハイブリッドシステムを搭載しているにもかかわらず燃費は現行モデルと大きく変わらないという。そのかわり動力性能は高く、PHEVモデルはシステム最高出力223馬力、0-100km/h加速は6.7秒だという。HEVモデルも2.0リッター版は193PS、7.3秒と十分以上に快速だ。先代プリウスのシステム最高出力は122PSだから、その変貌ぶりはすごい。

スタイリングも極端にスポーティに振っている。フロントウインドウの傾斜角など、ランボルギーニに匹敵するほどに思える。新型プリウスは一般的なユーザーを対象としたクルマではないことは明かだ。普通の人には性能は過剰だし、このサイズならもっと居住性や積載性の良い車はいくらでもあるからだ。

一般的にハイブリッド車を求める人は燃費を重視し、走りを求める人はフィーリングを重視するため走りにやや違和感を覚えるハイブリッドは避ける傾向がある。そう考えると新型プリウスはどのようなターゲットを想定して開発されたのかが非常にわかりづらい。

トヨタのCセグメント車としては様々なボディバリエーションを揃えるカローラシリーズがあり、すべてのボディタイプにハイブリッドがラインナップされている。燃費や実用性、コストパフォーマンスを求めるユーザーには明らかにカローラの方が向いているし、実際販売面でもカローラの方が圧倒的に多くなっている。

新型プリウスのターゲット

そしてハイブリッド最大のベネフィットである燃費という側面ではヤリスハイブリッドが今やリーダーで、販売台数でもヤリスがトヨタのトップである。そう、もはやプリウスは量的な面でも質的な面でもトヨタのハイブリッドを代表する車種とは言えないのだ。

今までのプリウスは「先進の象徴」だった。現行プリウスも、デビュー時の2015年では最新のハイブリッドシステム、最新のプラットフォームTNGAを擁してスタイリングも先進感を思い切り演出するものだった。しかし2015年と2022年では、時代は大きく変わったのである。世間的な認識ではもはやハイブリッドは先進ではなく、これからの時代はEVであるという空気が蔓延している。

このような状況の中でのプリウスのモデルチェンジである。もはやプリウスを先進の象徴とはポジションできない。Cセグメントではカローラが主役として完全に復活している。それではプリウスをどうポジションするのか。

ハイブリッドは燃費が良いというメリットは世界的に広く知られているが、今までの多くのハイブリッドは燃費を優先していたため、特に海外では退屈というイメージも強い。自動車愛好家でハイブリッドが好きという人は極めて少ないだろう。EVは加速性能も良く、環境イメージだけでなく高性能イメージもできつつある。そこで目指した方向性がスポーティな高性能ハイブリッドというものではないだろうか。

ハイブリッドの象徴として

単に燃費や環境といった実質的なベネフィットだけでなく、ハイブリッドでも環境を重視しながらエモーショナルな魅力を持つことができる。これを世界的にアピールするための戦略的な、広告塔的なモデルとしてプリウスを位置づけたのではないか。ハイブリッドの象徴たるプリウスが変われば、ハイブリッドのイメージも変えることができる……。だからスタイリングも先進感というより、わかりやすいスポーティさを表現したのではないだろうか。そう考えると発表会の内容が「HYBRID REBORN」というコンセプトの説明が中心で、かつ英語だったことも理解できる。

いっそのことクラウンで採用されたデュアルブーストハイブリッドシステムを搭載しても良かったのでは思うが、燃費データの悪化はプリウスにおいては避けたかったのであろう。とにかく、どのような走りを見せるのか、試乗が楽しみである。

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著者プロフィール

山崎 明 近影

山崎 明

1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。1989年スイスIMD MBA修了。…