2022年のFIA WECに挑むプジョーのHVレースカー

プジョーの最新マシン「9X8」が近未来的に見える理由。WEC参戦を目指す次世代ハイパーカーの革新性を探る

プジョーが発表した最新レースカー 9X8のフロントビュー
プジョーが発表した最新レースカー 9X8のフロントビュー。
プジョーは2022年のFIA世界耐久選手権のデビューを目指し、最新世代のHVレースカー「9X8」の開発を進めている。1992年と1993年にル・マンで優勝した905、そして2011年のル・マンで2-3-4フィニッシュを決めた908の血統を受け継ぐコンペティションモデルであり、スタイリング・メカニズムいずれにも革新性を盛り込んだ注目のマシンだ。

Peugeot 9X8

“ラリーのプジョー”をサーキットの雄にした905

プジョー 905のサイドビュー
プジョーの最新世代ハイパーカー、9X8の原点といえるのが、1990年に発表された905。

プジョーが同社初のグループCマシン「905」を発表したのは、1990年2月のこと。仏航空機メーカーのダッソーと共同開発したカーボンファイバー製シャシーを採用し、そこにF1レギュレーションに近い650hpの3.5リッターV型10気筒40バルブエンジンを搭載した905は、1993年までの期間、ポルシェやジャガーといった古豪、そしてトヨタ、マツダなどの強力なライバルたちとしのぎを削りあった。

1992年には世界スポーツカー選手権の王者に輝くとともに、ル・マン24時間耐久レースで総合優勝、及び3位の座を獲得。ル・マン参戦時にはフロントウイング及びフロントウイングのルーバーを取り外し、リヤウイングの配置を見なおすなど、マシンへいくつかの変更を施していた。

さらに1993年には、ル・マンで1-2-3フィニッシュという快挙を成し遂げている。ラリーの雄として名を馳せてきたプジョーに、隅々まで舗装されたサーキットでの栄光までもたらした905は、同社のモータースポーツ史におけるマイルストーンといえる。

HV+AWDの次世代ル・マンレースカーが誕生

プジョーが発表した最新レースカー 9X8のサイドビュー
プジョーが発表した最新レースカー 9X8。プジョー 9X8のボディディメンションは、全長5000×全幅2080×全高1180mm。ホイールベースは3045mm。

それから30年、プジョーは新しいル・マン・ハイパーカー(LMH)、9X8を発表した。905、そして2007年〜2011年に活躍した908から「9」の数字を受け継ぐとおり、最高峰の耐久レースで勝利することを目指して生み出された。

ちなみに「8」は現行モデル(208、2008、308、3008、5008、508)すべてに共通する最新プジョーを象徴する数字だ。一方「X」は、全輪駆動であることはもちろん、エンジン×モーターを組み合わせるハイブリッドパワートレインを搭載する電動化モデルであることを意味する。

レースカーなのに“あれ”がない

プジョーが発表した最新レースカー 9X8のコクピット
プジョーが発表した最新レースカー 9X8のコクピット。オンボードカメラが映ったときにすぐプジョーのマシンと分かるよう、インテリアにはプジョー車に共通するコンセプトである「i-Cockpit」を採用。

9X8のスタイリングは、一見して画期的だ。「今にも跳びかかりそうな猫」が描かれていたというオリジナルのスケッチから形づくられていったエクステリアは、ライバル勢とは一線を画す存在感を放つ。今までに感じたことのない新鮮な印象を受ける最大の理由は、“あれ”がないことにある。

そう、プジョー 9X8は「リヤウイングを持たない」。近年のレーシングカーには必須と思われてきたエアロパーツのひとつを、あえて採用しなかった理由について、プジョースポールのWECプログラム・テクニカルダイレクターのオリヴィエ・ジャンソニは次のように説明している。

「9X8の設計は、情熱に突き動かされるような経験でした。私たちはマシンのパフォーマンス、とりわけエアロダイナミクスを最適化するために、発明や革新的な思考についてまったく自由かつ常識にとらわれない方法を探ることができたのです」

「(新しいル・マンハイパーカーの)レギュレーションでは、調整が可能な空力デバイスはひとつだけと規定されており、リヤウイングについては規定されていませんでした。そして試算とシミュレーションの結果、リヤウイングがなくても高いパフォーマンスを実現することが可能であることが分かったのです」

24時間のスプリントレースを勝ち抜くために

プジョーが発表した最新レースカー 9X8のリヤビュー
フロントに搭載するドライブトレインは、200kWの電動モータージェネレータ+1速減速機という構成。9X8は2022年のFIA世界耐久選手権でのデビューを目指し、目下開発が進められている。

パワートレインには、680馬力を発揮する2.6リッターV型6気筒エンジンと、フロントに積んだ200kWのモーター ジェネレーター ユニット、7速シーケンシャル ギヤボックスを組み合わせる。V6エンジンは2021年4月からベンチテストでマイレージを重ねているという。900ボルトの高電圧・高密度バッテリーは、プジョースポールとトタルエナジーズの子会社サフト(Saft)が共同開発した。

ル・マンはいまや“24時間のスプリントレース”の様相を呈している。極限状態のもとでおよそ5000kmの距離を走り抜くために、マシンは高効率であり、しかもタフでなければならない。わずか24時間、されどクルマとエンジニア、レーサーにとっては長く厳しい24時間。その1日のために9X8を通して学んだ様々の知見は、プジョーの電動化テクノロジーに多くの恩恵をもたらしてくれるはずだ。

コロナ過によってスケジュールを変更した2021年のル・マン24時間耐久レースは、もう間もなく(日本時間で8月22日の0時)スタートする。今年も様々なドラマが生まれるだろう伝統の耐久レースに、来シーズンはプジョー 9X8が参入し新たなヒストリーが刻まれるはずだ。

著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…