マセラティ MC20の国際試乗会トラベルログ【前編】

コロナ禍、イタリアへ行く。厳戒態勢下の海外渡航顛末記:前編【渡辺慎太郎の独り言】

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。トビライメージ
連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。トビライメージ。
マセラティは2021年5月、最新モデル「MC20」の国際試乗会をイタリアで実施。コロナ禍で海外渡航が制限される中、自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎は異例づくしの出張へ。検査や隔離、種々の規制など、様々な壁が待ち受けていた海外渡航記を、ルポルタージュ形式でお届けする。今回は5月10日深夜の羽田空港出発から、5月14日の羽田空港到着までの前編。

マセラティ MC20の国際試乗会へ出発

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。出発前羽田空港イメージ
いつもなら、別れを惜しむ場面もちらほら見られる出国ゲートもご覧の通り。この後の荷物検査も出国審査もガラガラだった。

これは、世界的にコロナ禍で厳しい状況下にある現在、イタリアで開催されたマセラティの国際試乗会に参加したトラベルログです。実際に体験し、そして目で見て耳で聞いて感じたことを時系列で書き連ねてみました。なお、渡航期間は出国が2021年5月10日深夜(5月11日午前0時過ぎ)、帰国が同5月14日午前です。国や地域の規則や規制は時々刻々と変化していますので、今後渡航をされる際には出国前に必ずあらためてお調べいただくようお願い申し上げます。

■出国まで

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。出発前羽田空港イメージ
フランクフルト行きの乗客は写真に写っている方々がほとんどすべて。これでも一時期よりは多くなったそうだ。

現時点で渡航するには出国直前のPCR検査の英文の陰性証明書が必要となる。ここで陽性だと肝心の仕事ができず元も子もないので、4月末から基本的に外出も外食もせず家に籠もっていた。その間に、コロナ禍の出入国に関する情報を色々と探ってみたけれど、国の所轄の文言は例によって極めて難解かつまわりくどいものばかりだし、渡航経験者のSNSなどは期間や渡航先が自分とは微妙にずれていたりしてほとんど役に立たなかった。「トラベルログでもつけてみよう」と思ったのはそんな理由もある。

5月9日にPCR検査を受けた。あらかじめ、英文の陰性証明書を発行してくれるクリニックを調べて予約。国によっては証明書の原本が必要で、原本がもらえるのはたいていのクリニックが翌日となる。今回はドイツ経由でのイタリア行きだったが、ドイツではトランジットであっても陰性証明書の提出が必要で、検査結果が出た日時ではなく、検体採取(検査を受けた日時)から48時間以内の証明書しか有効ではない。自分のフライトは現地時間の11日午前5時過ぎにフランクフルト着だったので、そこから逆算した。

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。フランクフルト空港のラウンジイメージ
フランクフルトのラウンジ。食べ物や飲み物の提供は基本的になし。

検査は唾液だろうと思って油断していたら鼻に綿棒で涙が出た。検査と英文の証明書発行あわせて2万2000円。これが妥当な金額なのかどうかさっぱりわからないけれど、決して安くはない。いや、やっぱり高い。その日の22時頃にショートメールで「陰性」の結果だけ先に知らされた。

翌10日の17時に陰性証明書を受け取りに再びクリニックへ。受け取り専用のカウンターにはすでに5名ほどが並んでいた。家に戻り軽い夕食を済ませて羽田空港へ。最後に飛行機に乗ったのは(国内線も含めて)去年の2月だから、1年3ヵ月ぶりである。しばらく来ないうちに、ホテルと覚しき巨大な建物が完成していた。国際大運動会の準備はここでも着実に進んでいるようだ。

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。フランクフルト空港のラウンジイメージ
ラウンジ内での飲食禁止の忠告。

思っていた通り、ターミナルビル内はかつて見たことがないくらい閑散としていた。一方で、自分が今回お世話になるANAのチェックインカウンターには思っていた以上に人が並んでいる。たとえお上から渡航自粛が呼びかけられていても、(自分も含めて)人にはさまざまな事情や理由があるのだ。

荷物検査も出国審査もガラガラで待ち時間ゼロで通過。22時を回っているので免税店はすべて閉まっている。23時45分に搭乗開始。シートには機内誌や免税品カタログはなく、安全のしおりとエチケット袋のみ。映画や音楽のプログラムも簡素化されていた。CAさんによれば今日の搭乗者数は約30名。「これでも昨日より少し多いです」とのこと。ほぼ定刻にNH203便は離陸。閑散とした空港と閑散とした飛行機は、自分がすっごく悪いことをしているようなそこはかとない罪悪感を抱かせる。

■5月11日火曜日(現地時間)

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。フランクフルト空港の待合スペースイメージ
フランクフルト空港でも羽田と同じように、シートの一部にはテープが貼られていた。

定刻より10分早くフランクフルト空港に到着。入国審査では、泣きながら手に入れた陰性証明書のチェックはチラ見程度、一緒に提出したビジネスレターのほうは穴が空くほど見られ、渡航目的などを詮索された。ビジネスレターとは、仕事先の企業(今回ならマセラティ)が身元保証をしてくれるといったような内容。これは出国前にもらっていたので、プリントアウトして持参していた。

ターミナルを移動してラウンジに入室。いつものようなたくさんの飲み物や食べ物はなく、ペットボトルの水やサンドイッチだけ置いてあった。ミネラルウォーターをもらって飲んでいたらスタッフが来て「いま、ラウンジ内での飲食は禁止されているので、水を飲むなら一度ラウンジを出てコンコースで飲んでからまた戻ってきてください」と言われた。ラウンジ内の全員がマスクを着用しているけれど、マスクをずらして鼻が出てたりするとすぐに注意される。かなり厳しい。

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。マセラティMC20試乗会会場イメージ
互い違いに着席するようセットされた、マセラティのオフィシャルディナーのテーブル。彼らの感染症対策は終始完璧だった。

8時30分の定刻通り、LH248ミラノ・マルペンサ行きの搭乗開始。飛んでいる飛行機の数が少ないから離陸待ち渋滞がなく、ゲートを離れたら一度も止まることなくそのまま離陸。コロナ禍で飛行機のオンタイム率は上がっているかも。機内でイタリア入国に際しての書類が配られる。どこから来たとか何しに来たとか。これは機内で回収。現時点でイタリアは、滞在が5日以内なら到着後の隔離が免除される、らしい。今回は2泊3日で実質72時間以下の滞在なので隔離なしのはず。

10時10分の定刻に到着。降りる際には前から5列ずつ、ソーシャルディスタンスを保ちながらゆっくり慎重に。でも、降りたらみんな1台のバスに乗せられた。ターミナルに入っても検温とか陰性証明書の提出とかがまったくなく、するりと外に出られてしまった。どうやって隔離の必要ある人とない人を把握してるのだろう。機内で回収された書類は誰がいつなんのためにチェックしてるのか不明。

送迎車に2時間ほど揺られて試乗会会場に到着。受付であらためて陰性証明書を提出。同時に18時にPCR検査がある旨が伝えられた。マセラティがドクターをホテルに招いて出張検査をするという。唾液かと思って油断していたら、また鼻から綿棒でまた泣いた。で、プリントアウトして持ってきた日本国指定の書類に検査結果を書いてもらうよう説明。「明日渡すよ、チャオ」。果たして漏れなくきちんと記入して明日、届けてくれるか心配になってきた。

翌12日の試乗会当日の模様は試乗記にも書いた通り。感染症予防対策は完璧だった。陰性証明書も日本国指定のものとイタリア語のものと2通もいただいた。疑ってごめんなさい。

■5月13日木曜日(現地時間)

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。ボローニャ空港
ほとんどの店が休業する中、はりきって営業中だったフェラーリショップ。

午前9時、ボローニャ空港。やっぱり閑散。ほとんどのお店は休業しているのに、フェラーリショップは営業中。流石です。10時10分、LH283フランクフルト行きはまたしても定刻通り搭乗開始。バイバイ、イタリア。今度来るのはいつになるのだろう。フランクフルトには20分早着。ターミナルAに着いたので、長い長い地下通路を歩いてターミナルBへ移動。

NH204便羽田行きのゲートに到着。陰性証明書の確認。今回、ここが1番長く待たされた。かなり厳密にチェックしている模様。自分の陰性証明書は問題なかったが、後ろの人はプリントアウトしておらずちょっともめていた。

加えて厚労省の質問票webにアクセスして回答するよう求められる。すべて記入するとQRコードが表示されるので、それを写メ(スクショ?)しておき、羽田で提示するらしい。乗客は往路より明らかに多め。お子様連れの家族が目立つ。13時00分、定刻に搭乗開始。今回はすべての便が定刻搭乗だった。こんなことは初めてかも。コロナ禍も悪いことばかりではない。

■羽田までの機内

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。フランクフルト空港
羽田への帰国便のカウンターで、ひとりずつ陰性証明書のチェックを受けた。

羽田までの機内ではいつもの細長い税関申告書の他に、4枚の紙が渡された。1、検疫所支所長のサインの入った書類。入国する際に指定のアプリをダウンロードすることや、スマホを持ってない場合はレンタルすることなどへの同意書。サイン必須。指定のアプリは3つあって、Cocoa、SkypeかWhatsApp、OELと呼ばれる帰国者専用の位置情報確認アプリ。持っていなかったOELだけ出国前にダウンロードしておいた。

2、たくさんの国名が記された書類。よく見ると上半分は検疫に関することなので厚労省、下半分は渡航規制にかかわることなので国交省。自分はイタリアに滞在歴があるから上半分の「2」に該当する。つまり「検疫所が確保する宿泊施設で待機をし、入国から3日目に再度検査を受け陰性なら退所」で、これをさらに翻訳すると「入国した日から3泊4日はホテルに強制隔離で、再検査が陰性ならチェックアウトできます」ということらしい。「入国から3日目」という表現がややこしく、つい2泊3日と思ってしまうが、入国した日が0日で翌日が1日目、と数えるから「3日目」は入国当日から3泊4日目。羽田に着いてもすぐに帰れないというのはやっぱり本当だった。

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。陰性証明書
これが日本国指定の陰性証明書。「採取検体」と「検査法」が合致していて、医師のサインがないと入国を拒否される可能性がある。実際前日にひとり、搭乗できない方がいたそうだ。

3、14日間の過ごし方について(表裏あり)。自宅かホテルで待機し外出はしないとか、他者と接触しないとか。ちなみにこちらは14日「目」ではなく14日「間」だから、自分の場合は14日金曜日に入国なので28日金曜日までとなる。

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。入国に際しての書類
左は羽田行き機内で配られた書類その1。滞在歴によって帰国後の行動制限が変わってくる。右は書類その2。ご丁寧に「東京空港検疫所支所長」のサインがある。
連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第18回。入国に際しての書類
左は羽田行き機内で配られた書類その3。帰国後14日間の過ごし方について。右は書類その4。厚生労働大臣と法務大臣に宛てた、「書類その3」を厳守するという誓約書。

4、誓約書(表裏あり)。これは出国前にプリントアウトしてサインしたものと同じ。要するに「14日間の過ごし方」に書かれた事項を必ず守ります、という誓約に署名し、住所やメールアドレスなど個人情報の記入も求められる。

後編へつづく。

REPORT&PHOTO/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

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著者プロフィール

渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…