自動車業界へ新型コロナウイルスが落とす影

COVID-19とプッチンプリンシェイク 【渡辺慎太郎の独り言】

連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第14回。トビライメージ
連載コラム「渡辺慎太郎の独り言」第14回。トビライメージ。
COVID-19感染拡大の影響はあらゆる業界に及んでいる。自動車メーカーは生産の一時中止を余儀なくされ、従業員や関係者含めて、すべての人々が今はそのウイルスの行方を気にせずにはおられない。コロナ禍のもと、今私たちにできることはなんだろうか。

リーマンショックを上回る非常事態

世の中が相当やっかいな有様となってしまった。新型コロナウイルスの影響をまったく受けていない個人や企業や団体や業界なんて、もはやひとつもないだろう。自動車業界にとっても事態は深刻だ。この時期「ちょっとクルマでも買ってみるか」なんて呑気な気持ちになる人は稀だろうし、ディーラーの時短営業や工場の休業などにより、自動車メーカーはリーマンショックを上回るほどの危機に直面している。そこへ部品を供給しているサプライヤーまで含めると、裾野が広い自動車業界はまさに数十万数百万規模の企業を巻き込んだ“非常事態”である。

「そうはいってもメーカーほどの大企業がそう簡単につぶれたりしないでしょ」と思われるかもしれない。売上高や営業利益や粗利に「億」とか「兆」なんて単位が躍っているのを目にすると、確かにそこそこ盤石な経営状態なんだろうなと思ってしまっても仕方ない。ただ、飲食店が休業しても家賃や給与といったランニングコストは黙って出ていくのと同じように、自動車メーカーの日々のランニングコストもまた膨大な金額なのだ。

新型コロナがプロダクトに落とすかもしれない“影”

日本と同じように、自動車製造販売業が国の基幹産業であるドイツでは、財務大臣が2020年3月末に「包括的新型コロナ支援パッケージ」を発表し、その中に「最悪の場合には、自動車メーカーを一時的に国有化して存続させるという準備もしないわけではない」との文言もあったという。これに対してダイムラーのケレニウスCEOはBBCのニュース番組に出演し「いまはまだそういう段階ではない」と語っていたけれど、その表情や口調は現状を楽観視しているようには見えなかった。自動車メーカーの大幅な減収による危機的状況は、国や地域を問わずどこも同様だろう。

個人的に心配しているのは新型車開発である。リーマンショックの時、いくつかの自動車メーカーでは商品企画を見直し、新規のエンジン/プラットフォーム開発やニューモデル開発の凍結に踏み切った。結果として、不十分な商品ラインナップや時代に追い付いていないパワートレインなど、現在も問題を抱えているところが少なくない。新型コロナは約2週間で発症すると言われているけれど、開発期間が5年前後もかかる新型車への影響は数年後に表面化してくるかもしれない。

「外出しない」という社会貢献

自動車に携わる自分は、他の業界や分野のことはよくわからないし、星野 源さんのように歌を唄うことも出来ず、なんの社会貢献も出来ないなあと少ししゅんとなっていた。マクドナルドのプッチンプリンシェイクが猛烈に気になるけど我慢して、いまの自分に出来る唯一の行動である「外出自粛」を徹底しようと意気込んではみたものの、iPhoneの歩数計をなんとなく見てみたら週間の平均歩数がたった588歩だった。

「これはさすがにちょっとマズイな」と焦り、生涯買うことはないだろうと確信していたヨガマットなんかを購入。休業になったスポーツジムのアプリにある「TVを見ながらちょいトレ」「腹筋にたて線!見せるくびれ」「素敵な二の腕」「風呂待ち10分エクササイズ」などいろんな動画を見ながらトレーニングを始めた。中には綺麗なお姉様が出てきて「これ女性向けじゃんか」というのもあったけれど、慣れない屋内運動と格闘している。

医療従事者の彼が吐露したこと

そんな折、総合病院に勤める知り合いの看護師から電話があった。以前にここでも書いた事故のときに大変お世話になった方で、いまでもたまに「その後どうですか?」と連絡をくれる。

「いやいやこっちはおかげさまでどうにか暮らしているけれど、そっちこそいま大変でしょう」
「ウチにもついに、コビッドの患者さんが運ばれてくるようになったよ」
「あーやっぱり」
「隔離用の陰圧室がないから、病棟の一部を隔離してコビッド用として使ってる」
「医療機器とかも足りないんでしょう」
「いまはまだ大丈夫だけどまあ時間の問題だよね。それよりも人材配置のほうが大変」
「そうらしいね」
「で、ついにオレも交代制でコビッド担当になることが決まったんだ・・・」

そう言うと彼は思わず声を詰まらせ、自分は彼にかける言葉が見つからなかった。

「ごめんごめん、なんか張り詰めてた糸が切れちゃった。医療従事者なんだから、自分がコビッド担当になること自体に何の躊躇もないんだけど、もし罹患して、それが家族にも広まったらと考えるとちょっと弱気になってしまった」
「それは当然の心情だと思うよ」
「みんな外出自粛してくれて、家庭内でもやっぱりストレスは溜まると思うから、きっとシンドイはず。でも、本来なら家族で自宅にいるっていうのは何ものにも代えがたい最高の環境なわけで、その“安全地帯”を自分が汚してしまうかもしれないっていうのはいかんともしがたいよ」
「そうだよね。こんなときに、なんか自分が出来ることはあるかしら」
「ありがとう。もしいま、シンタローさんがあの事故に遭って運ばれてきたとしても、当時とまったく同じ医療を提供するのは難しいかもしれない。なんだかクルマで外出するなら大丈夫みたいになってるけれど、交通事故のリスクも背負うって当たり前のことをみんな忘れてるみたい。いくら運転に細心の注意を払っていても、もらい事故だってあるし、運転せずに歩いてたって、一歩外に出たら交通事故に巻き込まれる可能性もある。実際、交通事故の件数や負傷者数のほうがコビッドよりも全然多い(参考資料:警視庁資料による2019年の交通事故発生件数は381002件、負傷者数は46715人、死者数は3215人)。万が一、事故に遭っても近くの病院はコビッドの患者で溢れていてすぐに搬送先が見つからないって事例が残念ながら最近増えてるんだ」

それぞれに出来ることがきっとある

「あと、どうせ病気になるならいまはやめて(苦笑)。世間では、病院はコビッド最優先で対応するみたいな風潮になってるけど、いまでもそれ以外の患者さんのほうが多いし、コビッドじゃない症状で重篤な患者さんもたくさんいる。事故や病気で病院のお世話になることを避けてくれるだけでも、医療従事者にとって、いまはいつも以上にメチャクチャありがたいんだ。外出自粛はコビッドのためだけじゃなくて、事故や病気で病院へ行かずに済むためでもあると思って、当分の間は家にこもってて欲しいかな。大変だと思うけど」

「すごくよく分かった。コビッドばっかり気になって、事故に遭わない、病気にならないって意識が薄くなってたと思う。やっぱり外出しないようにするよ」

「そういえば、いま唯一のストレス発散ていうか、癒やしの時があるんだけど何だかわかる?」
「分かんないよ(笑)。なになに?」
「病院の帰りにマックに寄って、ドライブスルーでプッチンプリンシェイクを買うこと(笑)」
「あーっ!それいま自分が一番したいヤツ!」
「最初はどんなもんだろと思ってSサイズを買ったんだけど、家に着く前になくなってた(笑)。だからいまは迷わずMサイズ!」
「ねえ、で実際どうなの? おいしいの?」
「プッチンプリンシェイクはうまい。ただ、自分でかけるシロップが結構な頻度で品切れなんだよね。それだけが残念」

いまはとにかく、彼に好きなだけ飲んで欲しいと思った。自分はもう少し我慢しようと思った。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/峯 竜也(Tatsuya MINE)

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著者プロフィール

渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…