アストンマーティンDBX707の雪上性能を試す

「アストニッシュなSUV」アストンマーティンDBX707はRWDスポーツカーのように遊べるプレミアムSUV

最高出力707PSというスーパーSUVの名に恥じぬ性能を発揮するDBX707。最高速300km/hを超えるモンスターSUVを試乗するべく訪れた富士スピードウェイはしかし、コースを覆い尽くす雪景色となった。それを逆手にとって得たDBX再考の時間を報告しよう。

Aston Martin DBX 707

DBX707をサーキットで試乗するはずが

SUVの試乗会がサーキットで行われることは珍しい。だがアストンマーティンDBX707の性格を知っていれば、そこに驚きはないだろう。なにしろ搭載される4.0リッターV8ツインターボエンジンの最高出力は車名の由来となった707PSで、最大トルクは900Nmという途轍もない性能の持ち主だ。これは標準となる550PS仕様のDBXよりも30%近い性能向上である。

だが、冒頭の写真をご覧いただいたとおり、当日はあいにくの雪となった。数十年訪れて初めて見た雪景色の富士スピードウェイはなかなかロマンチックだが、サーキット試乗は当然中止だ。そこでアストンマーティンジャパンの粋な計らいで、DBXの雪上性能の端緒に触れる機会を得たので報告したい。インストラクターの助手席同乗だが、そのポテンシャルを垣間見れた。

その前にDBX707の素性をおさらいしておこう。アストンマーティン初のSUV、DBXを守旧派は堕落だと言うかもしれないが、それはDBXに乗ったことのない人の意見だ。中身はほぼスポーツカーである。だが、その挑発に応えるかのように、DBXをさらに強化したのがDBX707だ。その核心はV8エンジンである。550PS仕様同様のAMG製4.0リッターV8ツインターボはECUのマッピングを変更し、大径ターボのブースト圧を25%高めただけでなく、アルミ製フロントグリルの開口部を27%拡大し、二重化されたラジエーターコアによって50%以上冷却性能を向上し、アストニッシュト(アストン的工夫をこう言うらしい)した。その結果707PS&900Nmという性能を実現している。

スポーツカーの如き仕上げ

変速機はZF製9速ATだが、トルクコンバーターではなく湿式多板クラッチが採用される。構成はAMGスピードシフトMCT 9Gと同一だが、いずれにせよこのスターティングデバイスがSUVに採用されることは珍しい。トルコンより小型化でき、変速スピードも40%速く、冷却性能も高いという。3.27へとローギヤード化されたファイナルギヤ(550PS仕様は3.07)とあいまって、0-100km/h加速で3.3秒(550PS仕様は4.5秒)を達成した。この差は550PS仕様にはないローンチコントロール機構を備えていることも貢献しているだろう。なお最高速は310km/hで550PS仕様より19km/hも速い。ちなみにこの最高速と加速はフェラーリ・プロサングエと同値で、加速はウルス・ペルフォルマンテと同じだが、ウルスの最高速は306km/hに留まる。

その高性能を受け止めるべくカーボンセラミックブレーキを標準装備する。バネ下重量はDBXと較べフロント20kg、リヤ13kg、合計33kgも軽量化された。このほかカーボンパーツを多用して軽量化に腐心したが、車重は550PS仕様と同じ2245kg。これはソフトクローズ・ドアなど快適装備が充実しているためだそうだ。

フロントスプリッターは低く構えたスタイリングというデザイン的な要素だけでは無く、550PS仕様比で20%リフトを抑える機能もあるという。フロントバンパー左右下部に配置されたフロントエアロウイングレットによるドラッグ低減で最高速を向上しつつ、リヤウイングドディフューザーと相まって前後のリフトバランスを整える。その一方でオフロード性能で重要なアプローチアングルも保っているから驚きだ。なお標準装備のリヤカーボンファイバーウイングスポイラーもまた550PS仕様と707の見分けポイントだ。

優れた重量配分もまた魅力

しんしんと降る雪の中、DBX707のドアを開けて、改めて驚くのはサイドシルが低いこと。フロアがフラットで乗降性に非常に優れている。しかもドアはサイドシルまで覆う形状で、雪上走行の後にズボンの裾を汚さずに済むのも良心を感じる。

ニュージーランド出身のインストラクターの運転で閉鎖された富士スピードウェイの場内を走る。ピレリ製ウインタータイヤは気の利いたAWD制御もあって、深雪をものともせず加速していく。ドライブモードは一般道向けのGTからスポーツを飛び越えスポーツ+モードにセットし、武闘派の顔を見せた。15mm車高が低くなり、フロントへの駆動力配分とESPの介入が少なくなるという。本来雪道ではオフロード走行用のテレインモードを選択するのがベターだろう。これは逆に車高が上がり、トラクション重視の駆動力配分となる。

ちなみにESPはワンクリックでトラックモード、長押しで解除される。前後駆動力配分はテレインモード以外はほとんど0対100の配分だという。550PS仕様が時に0対100の配分になるのに対して、通常0対100で路面や運転状況、ドライビングモードによって550PS仕様同様に47対53に変化する。ちなみに前後重量配分は52対48(550PS仕様は54対46)で、これは多くのSUVが60対40であることを考えると、かなり優れた数値だ。

雪上ではRWDスポーツカーのよう

レーシングコースは走れないが、駐車場やパドックでドライブモード毎に挙動を確認することができた。挙動を観察すると、興味深いのはスポーツ+では、アクセルオンでフロントにほとんど駆動力が配分されないことだ。まるでRWDスポーツカーのように振り回して、遊ぶことができる。加速にもたつきがないのでわずかにフロントに駆動力を配分しているか、前後バランスの良さもあって、リヤのグリップが高いのかもしれない。

そこでインストラクターに頼んでテレインモードに切り替えてもらうと、アクセルオンで明確に前輪の向きに引っ張られラリーカーのように加速した。フロントへの駆動力配分を可変する速度は非常に速いと感じた。DBXは専用プラットフォームだが、今後このプラットフォームをセダンなど異なる車形や電動化モデルへ転用することを期待してしまう。

SUVの多用途性とスポーツカーの性能を併せ持つDBX707。アストンマーティンらしく仕上げることを前述のようにアストニッシュトと言うそうだが、まさにアストニッシュトを極めた1台と言える。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/服部真哉(Shinya HATTORI)、AstonMartin
MAGAZINE/GENROQ 2023年4月号

SPECIFICATIONS

アストンマーティンDBX707

ボディサイズ:全長5039 全幅1998 全高1680mm
ホイールベース:3060mm
車両重量(DIN):2245kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:520kW(707PS)/4500rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/6000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後カーボンセラミック・ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/40YR22 後325/35YR22
最高速度:312km/h
0-100km/h加速:3.3秒
車両本体価格:3119万円

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja

フェリシティ・ジョーンズが、アストンマーティン DBX707と邂逅するショートムービーが制作された。

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吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗

ゲンロクWeb編集長。趣味はクルマを用いたラリーやレースなどモータースポーツ活動だったが、現在はもっぱ…