フェラーリ 499Pの51号車をドライブするジェームス・カラド

「フェラーリでWECを戦って10年」開幕戦セブリングで「499P」をデビューさせるジェームス・カラドの素顔

フェラーリ 499Pの51号車をドライブする、ジェームス・カラド。
WECトップカテゴリーにワークス体制で参戦するフェラーリ。開幕戦セブリングを前に、51号車をドライブするジェームス・カラドに話を聞いた。
2023年シーズンのFIA世界耐久選手権(WEC)開幕戦セブリング1000マイルレース(3月16〜17日)において、ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定で開発されたプロトタイプレーシングカー「フェラーリ 499P」がデビューする。2台体制で耐久レースにワークス復帰するフェラーリ、51号車の499Pをアレッサンドロ・ピエール・グイディ、アントニオ・ジョヴィナッツィと共にドライブするのが、英国出身のジェームス・カラドだ。

Ferrari 499P

念願のWECトップカテゴリーへ

2023年シーズンのWECに、ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定で開発された499Pを投入するフェラーリ。長くGTカテゴリーを戦ってきたジェームス・カラドは、51号車をドライブする。
2023年シーズンのWECに、ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定で開発された499Pを投入するフェラーリ。長くGTカテゴリーを戦ってきたジェームス・カラド(写真中央)は、51号車をドライブする。

 1989年6月13日、英国出身のジェームス・カラド(James Calado)は、カートでレースキャリアスタートし、シングルシーター中心に経験を積み上げてきた。GP3やGP2参戦経験を持ち、2013年にはフォース・インディアのF1テストも行っている。そして、2014年にはフェラーリでGTレース活動を行うAFコルセに加入。フェラーリ 488 GTE/488 GTE Evoを駆って、3度のWEC王座を手にしている。

「私は2輪だろうが、4輪だろうが、エンジンが搭載されている“マシン”が大好きなんです」と語るカラドに、WECをトップカテゴリーで開幕戦を前に話を聞いた。

家族と苦労を分かち合ったカート時代

フェラーリ 499Pの51号車をドライブする、ジェームス・カラド。
カートを戦った10代は、資金が厳しいなかで家族と共に戦ったと振り返るカラド。当時の経験が、今に活かされていると語る。

どのようなきっかけでレーシングドライバーを目指したのでしょうか。

「父が私にレースへの情熱を与えてくれました。父自身はレーシングドライバーになる夢を叶えられませんでしたが、私にはその機会を作ってくれたのです。私が初めて生で見たレースは、1999年にシルバーストーンで開催されたF1英国GP。ミハエル・シューマッハーのアクシデントがありましたが、あれは魔法のような1日でした。ミハエルは私のヒーローのひとりです。もうひとりはアイルトン・セナ。スピードとドライビングスタイルに憧れています」

カートからキャリアをスタートしたんですよね?

「1999年にカートへの参戦をスタートし、2008年にようやくシングルシーター(フォーミュラカー)にステップアップしました。フォーミュラ・ルノー UKで成功できて、2010年から英国F3に参戦しています」

「カート時代のことは忘れることができません。家族は大変なサポートをしてくれましたから……。ホテルに泊まる余裕もなく、週末は古いバンの荷台に寝泊まりしていたほどです。当時はウエットタイヤも買えませんでした。雨のレースをスリックで走りましたから、どんなコンディションにも素早く対応できるようになりましたけどね(笑)」

若い頃の苦労が、現在のキャリアを助けているんですね。

「モータースポーツは、私生活に多くの犠牲を強いる世界です。でも、勝利を収めれば、その犠牲が報われます。だからこそ、勝利を目指すことこそが、私のすべてだったと言えるでしょう。フィニッシュ前の数秒間、チームメイトがチェッカーフラッグを受けるまでの数秒間、私は何とも言えない感覚になります。チームのみんなの喜ぶ顔を見て、勝者の一員であることを実感できるのは本当に素晴らしいです」

フォーミュラからGTレースの世界へ

2014年シーズンから、フェラーリで戦うAFコルセに加入。以来、フェラーリ製GTマシンで、数々の栄光を掴んできた。
2014年シーズンから、フェラーリで戦うAFコルセに加入。以来、フェラーリ製GTマシンで、数々の栄光を掴んできた。

2014年からは、活動の中心をフォーミュラから、GTレースにスイッチしていますね。

「レースの世界で高いレベルに達するには、時間がかかります。ドライバー個人としての成長だけでなく、クルマを共有するチームとして考えなければならないからです。それを理解するまでが、私にとって最初のハードルになりました。これをクリアして、GTの世界でトップを目指せるようになったのです」

「ル・マン・ハイパーカーへのアプローチも同じように考えています。新しい挑戦、新しい体験が待っています。自分達より遅いスピードのGTマシンによるトラフィックをどう処理するのか。落とし穴はそこら中に待ち構えているでしょう。私は勝利を目指すフェラーリ・チームの一員ですし、そのために必要なことは何でもするつもりです。究極の目標は、499Pででル・マン24時間レースの表彰台に上ることです」

WECの LMGTE Proカテゴリーでは、ル・マン24時間レースを制しています。

「ル・マンでは何度も痛い目にあわされてきました。2019年にようやく初優勝できた時は、レース後に喜びすぎて叫ぶ声が出なくなりましたから(笑)」

ティフォシのためにル・マンとモンツァで勝利を

フェラーリで10年目のシーズンを迎えるカラド。これまで彼を後押ししてくれたティフォシのために、ル・マンとモンツァで総合優勝を目指している。
フェラーリで10年目のシーズンを迎えるカラド。これまで彼を後押ししてくれたティフォシのために、ル・マンとモンツァで総合優勝を目指している。

耐久レースとスプリントレースには、どのような違いがあるのでしょう?

「WECのような耐久レースでは、スピードだけでなく、レース戦略、レースマネージメント、忍耐も重要な要素となります。初めて参戦したル・マンでは、興奮と緊張を感じていて40時間も起きていました(笑)。ただ、その疲れが長期的に考えると、パフォーマンスに悪影響を及ぼしたんです。24時間でレースは、ミスをしないことはもちろんですが、休む時間も必要なのだと学びました」

チームメイトに任せることは任せて、休憩を取ることも重要な訳ですね。

「2スティント走ったら、モーターホームへと戻り、スマートフォンやタブレットの電源をオフにして、眠ろうと努力します。これまでのル・マンでは、アレッサンドロ(ピエール・グイディ)と数多く組んできました。私たちは互いを知り尽くし、常に尊敬し合ってきました。強い絆で結ばれている感覚があります。お互いにサポートし合うことは、フェラーリ・チームの特徴です」

「レース前の数日間は、緊張感が高まり続け、スターティンググリッドでレーシングカーに乗り込むと、プレッシャーはピークに達します。そんな時、チームのみんなが自分を見ていて、私を信頼してくれていることが分かります。緊張がほぐれるのは、最初のスティントを終えてから、ようやくですね」

フェラーリのドライバーにとって、熱狂的なファン“ティフォシ”の存在も力になっているのでは?

「あの熱狂を目の当たりにすると、フェラーリのドライバーであることの幸せを実感します。私自身、ずっとフェラーリのファンでしたからね。イタリア人のフェラーリに対する情熱は最高です。特にスターティンググリッドでは、ドライバーにアドレナリンが噴き出してくるような、不思議な雰囲気をファンが作り出してくれるんです。私の夢は、待ち望んでいたル・マン24時間、もしくは本拠地のモンツァで、最高の勝利をティフォシにプレゼントすることです」

今回、2台体制でWECに参戦するフェラーリ・AFコルセが、初めてセブリングで499Pを走らせた。

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