Mercedes-Benz ESF 22
初代Sクラス「W116」をベースに開発

メルセデス・ベンツでは、シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムで楽しむことができる様々なトピックに関する「クローズアップ」企画を展開中。車両や展示物、建築やデザインの特徴にスポットライトを当て、驚きや興奮、舞台裏のストーリーを紹介している。今回取り上げられたのは、1973年に開発された安全実験車両「ESF 22」だ。
メルセデス・ベンツ・ミュージアムの「レジェンド・ルーム5」には、様々な研究開発車両が並ぶ。その中でもひときわ重要な1台が「ESF 22」だ。1972年にデビューした初代Sクラス「W116」型をベースに製作された安全実験車両は、特に前面衝突に対する安全性が追求された。
フロントセクションの一番の特徴となるのが、大きく張り出したプラスチック製コンポーネントだろう。当時の開発コンセプトは「歩行者保護」。メルセデスらしいクロームメッキ製ラジエーターグリルが廃止され、ヘッドライトやメルセデスを象徴するスリー・ポインテッド・スターを含むフロントセクションを、プラスチック製衝撃吸収材でカバーしたのである。さらに、バンパーも前方からのエネルギーを吸収するよう設計されている。
米国運輸省が立ち上げた「ESV」

そもそも、1970年代初頭、欧米諸国における交通事故統計は目を覆いたくなる状況にあった。交通密度が高まるにつれて、交通事故による犠牲者数が激増していたのである。
メルセデス・ベンツに関しては、1959年にいち早く安全ボディシェルを標準装備するなど、自動車の安全性に関する技術革新が進み、状況は改善されつつあった。しかし、すべてのメーカーがパッシブセーフティやアクティブセーフティをさらに向上させようと、開発に力を注いでいたわけではなかった。
そこで、アメリカ合衆国運輸省(DOT)は「安全実験車プログラム(ESV:Experimental Safety Vehicle)」を立ち上げた(ドイツ語では「ESF」)。ESVは全自動車メーカー対象で、新たな自動車安全基準の策定を目的としていたが、これを受けてメルセデス・ベンツは、1971年以来、30台以上の安全実験車両「ESF」を開発してきた。
1971年10月に「ESF 05」、1972年5月に「ESF 13」が登場。今回紹介する「ESF 22」は、メルセデスによる3台目のESFとして発表され、1973年3月13〜16日に、日本・京都で開催された第4回国際ESV会議において初公開された。現在もメルセデスはESFの開発を続けており、直近では4年前の2019年に「ESF 2019」が発表されている。
現在も絶え間なく続く安全性への追求

ESFは、メルセデス・ベンツの安全技術を大きく後押しすることになった。エアバッグを含むレストレイント・システム、インテリアの衝撃吸収エリア、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)、ヘッドライト・ワイパーなどは、最初期に登場した「ESF 05」と「ESF 13」の段階で、すでに装備されていた。
3番目のESVとして登場した「ESF 22」は、この2台をさらに発展させ、前面衝突・歩行者保護のコンセプトが加えられている。ベースとなったのは、ボディ後半を見れば分かるようにW116型Sクラス。ESFでテストされたすべての対策が、後に実用化に至った訳ではないが、現在のカスタマーは間違いなく、過去よりも安全にクルマをドライブできているのである。
安全性に関しては、終わりのない研究開発が現在も続けられている。例えば、電気自動車はボディシェル内のスペース活用に様々な可能性や課題が残されており、安全システムに新しい要求を突きつけているという。メルセデス・ベンツのエンジニアは「ESF 22」の発表から50年経った今も、安全に対する解答を探し続けているのである。