マセラティ グラントゥーリズモを3.0リッターV6とBEVで試す

EV版「マセラティ グラントゥーリズモ」が自然な荷重移動を生む革新的な理由とは?

新型グラントゥーリズモにはエンジン車とEVの2タイプがある。写真はEVのフォルゴーレだ。
新型グラントゥーリズモにはエンジン車とEVの2タイプがある。写真はEVのフォルゴーレだ。
マセラティのGTモデル“グラントゥーリズモ”がフルモデルチェンジした。3.0リッターV6ターボ搭載モデルとBEVの2本立てとなったグラントゥーリズモを、モータージャーナリスト大谷達也がモデナでのツーリングで真価を測る。

Maserati GranTurismo

EVを含めた全モデルが4WDを採用

新型に生まれ変わったマセラティ・グラントゥーリズモを、1日も早く味わってみたいと願っていた。幸運にも、今回は私のために2台のグラントゥーリズモが特別に用意され、それらを1日中、自由に試乗して構わないという。そこで私は、春まだ浅い北イタリアをグラントゥーリズモで“旅”することにした。

朝いちばんでモデナのマセラティ本社を訪れた私は、まず“トロフェオ”に試乗した。新型グラントゥーリズモにはエンジン車とEVの2タイプがある。このうちトロフェオはエンジン車のフラッグシップモデルで、MC20でデビューしたネットゥーノV6エンジンをウェットサンプにコンバートして搭載。3.0リッターの排気量から550PSと650Nmを発揮する。ここで生み出されたパワーはトルコン式8速ATと電子制御式トルクスプリッターを経て前後のアクスルに伝達。なお、フロントのディファレンシャルギヤはエンジンの前端に固定されているので、レイアウト的には完全なフロントミッドシップとなる。ちなみに、新型グラントゥーリズモはEVを含めて全モデルが4WDを採用している。

エンジンを始動すると、90度V6特有のサウンドとバイブレーションが心地よく伝わってきた。MC20を彷彿とするユニークなエキゾーストノートは、走り始めてからもコンスタントに聞こえてくる。ただし、決してうるさくもなければ、物足りなくもない。絶妙のボリューム設定といえる。

まるで自分の身体の一部のように操れる

ドライビングモードはデフォルトのGTでスタートしたが、乗り心地は比較的ソリッド。ただし、サスペンションやボディの剛性ならびに減衰特性が優れているので、路面から伝わるゴツゴツとした振動は瞬時に収束し、まるで不快には思えない。それでも、私はさらなる心地よさを求めてドライビングモードをコンフォートに切り替えてみたが、しばらく走っていると、不思議とGTに戻したくなった。グラントゥーリズモがもともと持っているリズム感というか躍動感には、歯切れのいいGTのセッティングのほうがマッチしているようだ。

モデナ周辺の一般道は決して道幅が広いとはいえない。しかも、その狭い道を対向車がお構いなく突進してくる。そこでグラントゥーリズモの右タイヤを路肩いっぱいまで寄せることになるのだが、不思議とこれが怖くない。同じことはグレカーレでも経験したが、自分の狙った進路をピタリとトレースできる正確なステアリングをグラントゥーリズモは持ち合わせているのだ。しかも路面の不整に強く、ボディの見切りも優れている。おかげで、いつでも正確に、まるで自分の身体の一部のように操れる。だから、どれほど長く走り続けても疲れるということがない。マセラティらしいグランドツーリング性能が、早くもその真価を発揮し始めたといえるだろう。

このためワインディングロードを駆け抜けるのは悦楽以外のなにものでもない。その際、正確なステアリングを駆使すれば自信をもってタイヤの限界を試すことができるのだが、必ずしもそこまで攻め立てなくとも、たとえば限界の7〜8割程度のペースでさえ深い満足感を味わえる。この辺の懐の深さが、ピュアスポーツとは異なる、グランドツーリング特有の世界観なのである。ほどよく快適でロングツーリングも苦にならず、市街地でのドライバビリティも文句なしに良好だが、いざとなればピュアスポーツカー並みのコーナリングも堪能できる。そんな、まさにオトナのためのハイパフォーマンスモデルが新型グラントゥーリズモといって間違いなかろう。

新型グラントゥーリズモの世界観

一方、“フォルゴーレ(イタリア語で雷の意味)”と名付けられたEV版は、試乗した段階ではまだプロトタイプとのことだったが、回生ブレーキの制御に詰めの甘い部分があったことを除けば、その完成度はトロフェオに匹敵する。

フロントに2基、リヤに1基の合計3基のモーターは、理論上1200PSの最高出力を生み出せるが、主にバッテリー出力の関係で実質的なパワーは761PSに留められている。過剰ともいえるモーターの性能は、2基のフロントモーターでトルクベクタリングを行ううえで必要となるものだ。

例えばコルサ・モードでフルスロットルを試みれば、1350Nmのトルクが一気に開放されて軽い恐怖を覚えるが、コンフォートもしくはGTであれば、フォルゴーレは市街地から高速道路に至るまで十分に扱い易い。そして、それ以上に印象的なのがコーナリング時の自然な振る舞いだった。フロア下にバッテリーを敷き詰めた一般的なEVは荷重移動を起こしにくく、これがコーナリング時のある種の違和感につながることもあるが、フォルゴーレはセンタートンネル内にバッテリーを積み重ねて搭載することで自然な荷重移動を生み出し、不安感の少ないコーナリングを実現しているのだ。この発想は革新的といっていい。

モデナの名門にもたらされた新たな息吹

限界の7〜8割程度のペースでさえ深い満足感を味わえる懐の深さが、ピュアスポーツとは異なるグランドツーリング特有の世界観だ。

ボディ剛性、ハンドリング、そして快適性のどれをとっても完成度が高い新型グラントゥーリズモは、旧型に比べてクオリティ感が格段に向上しているうえ、プレーンなデザインは品のいい美しさを備えている。MC20のデビューを機に、マセラティは新たな黄金期を迎えたと私は捉えているが、グラントゥーリズモの試乗を終えて、その思いは揺るぎない確信に変わった。北イタリアの春は、モデナの名門に新たな息吹をもたらしたようだ。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/Maserati S.p.A.
MAGAZINE/GENROQ 2023年6月号

SPECIFICATIONS

マセラティ グラントゥーリズモ フォルゴーレ

ボディサイズ:全長4959 全幅1957 全高1353mm
ホイールベース:2929mm
車両重量:2260kg
電気モーター最高出力:560kW(761PS)
電気モーター最大トルク:1350Nm
駆動用バッテリー容量:92.5kW
トランスミッション:シングルスピード
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
タイヤ&ホイール:前265/35ZR20 後295/30ZR21
0-100km/h加速:2.7秒
最高速度:325km/h
※欧州仕様

マセラティ グラントゥーリズモ トロフェオ

ボディサイズ:全長4966 全幅1957 全高1353mm
ホイールベース:2929mm
車両重量:1795kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCターボ
排気量:2992
最高出力:410kW(550PS)/6500rpm
最大トルク:650Nm/3000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
タイヤ&ホイール:前285/35ZR22 後325/35ZR22
0-100km/h加速:3.5秒
最高速度:320km/h
※欧州仕様

1984年トリノ・ショーで発表されたビトゥルボ スパイダー。

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…