A110 パイクスピーク・プロジェクトを率いる「フランソワ・レトール」インタビュー

「アルピーヌ A110 パイクスピーク」が6月にコロラドスプリングスで最終テストを実施

フランスでのテストを終え、米国へと送られる「アルピーヌ A110 パイクスピーク」。現在の状況について、プロジェクトマネージャーを務めるフランソワ・レトールがインタビューに応えた。
フランスでのテストを終え、米国へと送られる「アルピーヌ A110 パイクスピーク」。現在の状況について、プロジェクトマネージャーを務めるフランソワ・レトールがインタビューに応えた。
2023年6月25日にアメリカ合衆国・コロラド州パイクスピークで開催されるパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(Pikes Peak International Hill Climb)に、専用開発された「A110 パイクスピーク」を投入するアルピーヌ。A110 パイクスピーク・プロジェクトマネージャーとして、チームを率いるフランソワ・レトールが、現在の開発状況に関するインタビューに応えた。

Alpine A110 Pikes Peak

プロジェクトは2022年11月にスタート

フランスでのテストを終え、パイクスピーク本番に向けて米国へと送られる「アルピーヌ A110 パイクスピーク」。
アルピーヌと協力関係にあるシグナテックにおいて、2022年11月にA110でのパイクスピーク挑戦プロジェクトが立ち上がった。

2022年11月にスタートした、フランスを拠点とするレーシングコンストラクターの「シグナテック(Signatech)」とアルピーヌによるA110 パイクスピーク・プロジェクト。マシンはフランス国内でのテストの後、米国へと送られ、6月中に現地での実走テストを行う予定だ。

アルピーヌ A110 カップ、A110 GT4 Evo、A110 ラリーなど、アルピーヌのカスタマーレース活動を統括してきたシグナテックのフランソワ・レトールにとって、「A110 パイクスピーク」は新たな挑戦となる。今回、レトールが米国でのテストを前に、現在の状況を説明してくれた。

そもそも、どのようなきっかけでパイクスピーク・プロジェクトは立ち上がったのでしょうか?

「パイクスピークは、モータースポーツのランドマークのひとつです。私のエンジニアとしてのキャリアの初期には、ジャン・フィリップ・デイローとセバスチャン・ローブのプロジェクトに関わる幸運にも恵まれました。シグナテック社内では、2022年初期にこのアイデアが浮上したのですが、当時は他の優先事項がありました。2022年の11月、アルピーヌからの強力なサポートにより、ようやくすべての話がまとまったのです。すぐにデザインスケッチを描き、重要なサプライヤーたちとのミーティングを開始しました」

アルピーヌにとっては、初挑戦となるパイクスピークですが、どのようなアプローチを採りましたか?

「テクニカルディレクターを務めるリオネル・シュバリエを中心にオペレーションチームを結成しました。私はエレクトロニクス関係を担当しながら、プロジェクトマネージャーに任命され、エティエンヌ・ミュロンがデザインを担当しています。さらに、アルピーヌのデザインオフィス、エンジンパートナーのオレカ、そして様々なサプライヤーと役割分担をしながら、必要に応じてサポートを行なっています」

「時系列的には、まず様々な解析データの分析と、ラリーステージのアプローチを組み合わせた予備調査を実施しました。ヒルクライムに関するデータを集めようとしましたが、うまくいかなかったので、多くの動画素材を研究しています。パイクスピークに求められる要素を精査するため、様々なインプレッションを集めたのです」

「A110 GT4 Evo」をベースに選択

フランスでのテストを終え、パイクスピーク本番に向けて米国へと送られる「アルピーヌ A110 パイクスピーク」。
多くの自動車メーカーがエキサイティングな車種を送り込むパイクスピーク。アルピーヌが今回のベースモデルに選んだのは、カスタマー用レーシングカー「 A110 GT4 Evo」」だった。

アルピーヌのデザイン部門とはどのように作業を行いましたか?

「アルピーヌのデザイン部門とのコラボレーションは、アルピーヌ本社が持つ専門知識を生かし、迅速に同じ方向へと進むことができました。例えば、今回、アルピーヌのデザイナーはダイナミックな形状のルーフエアインテークを提案しました。このシュノーケルはアグレッシブな印象を与えるので、周辺コンポーネントを調整して採用を決めています。私たちはデザイン部門のアイデアに素早く対応したのです。この対応力が今回のコラボレーションを成功させた、多くの理由のひとつだと考えています」

「アルピーヌ A110 GT4 Evo」をベースに選んだ理由を教えてください。

「私たちはアルピーヌがカスタマー向けに開発したすべてのレース/ラリーマシンを誇りに思っています。パイクスピークのタイムアタック1カテゴリーには多くのメーカーが参加しており、マシンバリエーションに富んでいました。それもあって、私たちはエキサイティングなフォルムのGT4マシンを、ベースマシンに採用することを決めたのです」

標高4400メートルを走るためのエンジン

フランスでのテストを終え、パイクスピーク本番に向けて米国へと送られる「アルピーヌ A110 パイクスピーク」。
リヤミッドに搭載される1.8リッター直列4気筒ターボエンジンは、パートナーのオレカと協力し、高い標高でもパワーダウンせずに走れるように最適化された。

A110 パイクスピークの技術的な特徴はどこにありますか?

「アルピーヌのDNAを残すために軽量化を重視しました。パイクスピークに不必要なコンポーネントをすべて取り除き、徹底的な重量削減を実施したのです。実際、アルピーヌA110 GT4 Evoの1080kgから950kgまで軽量化されています。足まわりのダンピングを見直しつつ、エンジンとギヤボックスを急勾配での走行に適合させるため、オレカと広範囲に渡る開発作業を行なっています」

パワーユニットをパイクスの高い標高に合わせる必要があるわけですね。

「パイクスピークは標高2800メートル地点をスタートし、4400メートル地点でフィニッシュします。1000メートル上昇すると100mbも気圧が下がり、1.8リッター直列4気筒ターボエンジンへの影響は甚大です。山頂に登りきるまで必要なパワーを維持し、オーバーフローさせないことが目標となりました」

「けして大きくない排気量から、大幅にパワーアップしたこのエンジンに、多くの工夫を加える必要がありました。特に大径ターボチャージャーはターボラグをなくし、スロットルレスポンスを維持するため、特別意識を払っています。最後にパートナーのエルフが、どんな標高でも最適なパフォーマンスを維持できるよう、専用燃料とオイルを供給してくれたことも大きかったです」

パイクスの経験を持つラファエル・アスティエ

ドライバーを務めるラファエル・アスティエは、パイクスピークの参戦経験を持ち、アルピーヌ A110 ラリーでFIA R-GTカップで王者獲得経験を持つ。
ドライバーを務めるラファエル・アスティエは、パイクスピークの参戦経験を持ち、アルピーヌ A110 ラリーでFIA R-GTカップで王者獲得経験を持つ。

タイヤに関してはいかがでしょうか?

「シグナテックが主催するアルピーヌのカスタマーレースプログラムでは、ミシュランと緊密に連携してきました。さらにミシュランは、すでにヒルクライム用のスペシャルタイヤを供給しています。今回、A110 パイクスピークはフロントに17インチ、リヤ18インチの『ミシュラン Pilot Sport H S5C+』を選びました。A110 パイクスピークのポテンシャルを最大限に引き出すため、車重を減らした上でフロントのタイヤのサイズを小さくすることをミシュランと決定しました」

ドライバーにラリードライバーのラファエル・アスティエを選んだ理由は?

「ラファエルは様々な路面における豊富な経験を持ったドライバーです。また、パイクスに参戦した経験もあり、パイクス初心者の我々に貴重なフィードバックをもたらしてくれました。今回、私たちは初挑戦ですし、このイベントを知っている人が必要だったのです。パイクスピークはマシンだけでなく、ドライバーの力量が非常に重視されます。ラファエルの貢献は非常に大きいのです。しかも、彼はアルピーヌを熟知していますからね」

現地テストに向けて、現在の仕上がりに満足していますか?

「A110 パイクスピークは、プロジェクト初期のプランをはるかに超えて、我々の想像力を超えてきました。最初のテストは非常にスムーズに進行し、予定していた目標をすべてクリアしています。このエキサイティングなフォルムを持ったA110で、伝説的なイベントに挑戦できることが今から本当に楽しみです」

最高出力500PSオーバー、大迫力の空力パーツを纏った「アルピーヌ A110 パイクスピーク」。

「最も過激なアルピーヌ A110」がパイクスピーク・ヒルクライムに参戦「シャークフィン&分割式大型リヤウイングを装備」

アルピーヌは2023年の「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(Pikes Pe…

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