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Porsche Mission R
ブーストモードなら1088ps!
ポルシェは2021年9月6日にコンセプトカー「ミッションR(Mission R)」を発表した。最高出力1088ps、最高速度300km/h超を誇るピュアEVマシンは、「カスタマーレースの未来を見据えたGTレーシング」をコンセプトに掲げる。
ミッションRは、前後に1基ずつ電動モーターを搭載する電動4WD。走行モードには「レース」と「予選」の2種類を設定し、後者はいわゆるブーストモードといえるもの。予選モードでの最高出力は1088ps、レースモードでの連続出力680psを実現する。大容量バッテリーを積むピュアEVながら車重は1500kgと軽量で、0-100km/h加速は2.5秒を下回るという。最高速度は300km/h超。
5〜80%の充電がわずか15分で可能に
ミッションRは、急加速・急制動を繰り返すスプリントレースでの使用を前提にしている。そのため、過酷な環境下でも一定の出力を保てるように、バッテリーや電動モーターを直接油冷する革新的な冷却機構も搭載している。
また、ブレーキの回生出力は最大800kWと超高効率。さらに、900Vテクノロジーの急速充電機能により、15分でバッテリーを5〜80%までチャージすることが可能。これならレースの合間でも余裕をもって“給電”を行うことができる。
CFRP製の新概念ロールケージ
ミッションRは全長4326×全幅1990×全高1190mmと、ケイマンをわずかに短くし、さらにぐっと低く抑え込んだ体躯をもつ。ホイールベースは2560mm。ボディの大部分には「Natural Fiber Reinforced Plastic=天然繊維強化プラスチック」を使用し、生産時に排出するCO2量の削減にも配慮した。
なにより目を惹くのが、「exoskeleton(エクソスケルトン、外骨格)」と呼ぶロールケージ構造。ルーフと一体化したCFRP製のケージは、透明なポリカーボネート製パネルと組み合わせることで、まったく新しい見栄えのルーフを作り出している。これは、ポルシェ伝統のタルガルーフの概念を再解釈したシステムといえる。ちなみに、パネルの一部分はFIA要件に基づき、着脱式エスケープハッチになっている。
ピットクルー専用の警告システムも
高電圧を扱うピットクルーのリスクに配慮し、専用の警報システムも用意する。フロントウインドウ後方とルーフに備えた専用のLEDが、高電圧システムの作動状態を表すサイン。
ここが赤く点灯した場合は、高電圧を扱う特別なトレーニングを受けた作業員のみが担当するなど、状況に応じて対応することが可能になる。また、衝突が発生した場合には、車両と高電圧電装品へのバッテリー接続を自動的に切断するという。
シートを取り外せばシミュレーターに変身
様々な新概念を投入する意欲的なマシン、ミッションRだが、他に類を見ない特徴がコクピット周りの設計だ。なんと、ドライバーセルが丸ごと“脱着可能”なのだという。
ミッションRのフルバケットシート、ステアリングホイール、スイッチ類、アジャスタブルペダル、ディスプレイはひとつのユニットセルとしてまとめられている。じつは、このセルを車体から取り出せば、レーシングシミュレーターに変身するという仕組み。しかも、先進的な電制システムにより、制動時やコーナリングなどの重力もシミュレートすることができるようになっている。この画期的なモジュールシステムにより、ユーザーはサーキットに出向かずとも自分の慣れ親しんだ環境で練習をすることが可能になる、とポルシェは主張する。
レース中のドライバーに「いいね!」
コクピットには、速度やラップタイム、タイヤ空気圧、充電状態などを表示する6インチのOLEDディスプレイをはじめ、車両側方及び後方カメラの映像を投影するセカンドディスプレイを配置。さらに、ドライバーの右側にも3番目のコンロトールパネルを搭載。ここには、シートセンサーによって測定される体温など、ドライバーの生体データが表示される。
いかにも今どきなのが、ルーフフレームと助手席上のレールに装着した2台のカメラ。前述の、ドライバー右脇に備えたコントロールパネルで「ライブストリーム」スイッチをONにすると、コクピットのオンボード映像がライブ配信される仕組みだ。この映像を通じて、ファンがドライバーに「いいね!」や「がんばれ!」などのアクションを伝えることもできるそうだ。インタラクティブなSNS隆盛の今、メーカー側が純正でこういうシステムを用意する例も増えていくかもしれない。
「現行911 GT3 カップカーに匹敵するラップタイムを実現する」とポルシェが謳うフル電動GTレーシングコンセプト。そのキャビンには、新しいカスタマーレーシングの世界を垣間見せてくれるヒントが散りばめられていた。ミッションRを使ったワンメイクレースが世界中のサーキットで開催される日は、もしかしたらそんなに遠い未来ではないのかもしれない。
PHOTO/山本佳吾(Keigo YAMAMOTO)