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Jaguar E-Pace S D200×Volvo XC40 Recharge Plug-in Hybrid T5 Inscription
新プラットフォームを得て生まれ変わったジャガー Eペイス

この企画、ひと昔前だったらとても成立しなかっただろう。なにしろスポーティな走りが売り物のジャガーと、人に優しくスローテンポで走るのが得意なボルボの比較テストなんて、乗る前から答えはわかりきっているからだ。ところがジャガーもボルボも最新世代となり、意外にも好敵手となっていることが今回の試乗で明らかになった。
ジャガーの末っ子SUV、Eペイスが生まれ変わった。その目玉は、レンジローバー・イヴォークやディスカバリースポーツと同じ新プラットフォーム“PTA”を採用したことにある。ところが、今回もメーカーはこれがマイナーチェンジだと主張している。よくよく調べると、PTAの特徴は、1.高張力鋼板やアルミを活用して軽量・高剛性を実現、2.エンジン搭載位置(=重心位置)の低下、3.電動ドライブトレインへの対応、の3点にあるが、プラットフォーム自体は先代のD8をベースに開発されたため、メーカーも遠慮気味に“ビッグマイナーチェンジ”と称しているようだ。
ハンドリングと乗り心地を高い次元で両立

ただし、その効果はテキメンで、快適な乗り心地を失わずに正確なハンドリングを手に入れたほか、静粛性も大幅に改善されたことがディスカバリースポーツでは確認できた。
この点はEペイスもまったく同様で、デビュー当時のちょっとやり過ぎとも思えるハードなサスペンション設定は影を潜め、路面からの衝撃を優しくいなす特性を得た。もちろんフラット感も言うことなし。それでいながら、わずかなステアリング操作にもビビッドに反応するダイレクト感を備えており、ハンドリングと乗り心地を高い次元でバランスさせたシャシーと評価できる。
XC40の安定したコーナリングフォームは驚異的

一方のXC40は、新世代ボルボがCセグメント用に開発したCMPと呼ばれるプラットフォームを用いる。このCMP、そして同じボルボの上級セグメントに用いられるSPAは、デビュー当初、足まわりに少し突っ張ったような感触があって、しなやかさに欠けていた。ハーシュネスの処理にもぎこちなさが残り、快適性が優れているとはいいがたかったのだが、その後、CMPもSPAも矢継ぎ早に改良を受け、今ではボルボらしい優しい乗り心地を手に入れるまでになった。
XC40リチャージ・プラグインハイブリッド T5 インスクリプションという長い名前が与えられた試乗車もその恩恵に預かっており、乗り心地は実にマイルド。もっとも、今回それ以上に驚いたのがロールの小ささで、ハードコーナリングを試した際の安心感はEペイスに肉薄するほどだった。かつてのボルボを知るクルマ好きにとって、その安定したコーナリングフォームは驚き以外のなにものでもないだろう。
しなやかな乗り味を実現するサスペンションセッティング

ただし、ボルボのシャシーにも弱点はある。直進時のステアリングの座りが、あまりよろしくないのだ。よくよく観察すると、サスペンションストローク初期のダンピングが不足しているようで、このため路面の不整にあわせてボディが軽くふらついていることに気づく。おそらく、しなやかな乗り味を実現するには、このダンパーセッティングが必要だったのだろう。高速巡航時にアクティブレーンキーピングを活用する向きには問題にならないはずだが、ワインディングロードでEペイスから乗り換えたときにまず気になったのが、この点だった。
これとは対照的にEペイスはびしっと直進してくれる。また、この状態でもしっかりダンパーが機能しているためか、ステアリングを通じて路面の感触がはっきりと伝わってくる。おそらく、スポーツドライバーであればその感触を好ましく思うはずだが、アスファルトの感覚が常に伝わってくることを煩わしく思うドライバーもいるかもしれない。この辺は好みの問題といえるだろう。
ディーゼルとハイブリッド、両モデルのパワートレインを比較

パワートレインはどうか?
Eペイスのディーゼルエンジンは新たにマイルドハイブリッドが装備され、洗練度が格段に高まった。おかげで始動時にディーゼル特有の身震いを起こさないほか、低回転域でスロットルペダルを深く踏み込んでも“キンキン”というノッキング音を響かせなくなった。パワーのリニアリティも増し、レスポンスも向上したように思える。
それでも、ワインディングロードではディーゼルエンジンのおっとりとしたテンポ感が足かせになるため、タイヤをギリギリまで使うような走り方は苦手。言い換えれば、スポーツ性の高いシャシーのポテンシャルを活かし切れないことになる。
80km/h巡行時の燃費は両者譲らず互角の数値を記録

この点では、XC40のガソリンエンジン+プラグインハイブリッド・システムのほうが明らかに一枚上手。排気量1.5リッターのエンジンは3気筒とは思えないほど滑らかに回り、レスポンスもシャープ。
しかも60kW/160Nmのモーターがエンジンをアシストしてくれるので、パフォーマンス的にも優れている。意外にもコーナリング向きのパワートレインだ。
80km/h巡航時の燃費はEペイスの20.7km/Lに対してXC40は20.6km/Lでまったく互角。ただし、燃料代という意味では軽油を用いるEペイスのほうが有利である。
キャラクターがまったく異なる2台。どちらを選んでも後悔はないだろう

ハンドリングとドライブトレインのそれぞれで拮抗した戦いを演じてみせた2台だが、試乗を終えて強く印象に残ったのは、Eペイスのダイレクト感溢れるステアリングフィールであり、リラックスしたクルージングが心地いいXC40の乗り味だった。内外装のデザインも、そうした2台のキャラクターを反映しているように思う。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
MAGAZINE/GENROQ 2021年 11月号
【SPECIFICATIONS】
ジャガー EペイスS D200
ボディサイズ:全長4410 全幅1900 全高1650mm
ホイールベース:2680mm
車両重量:1900kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1997cc
最高出力:150kW(204ps)/3750rpm
最大トルク:430Nm(43.8kgm)/1750-2500rpm
モーター最高出力:-
モーター最大トルク:-
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーレンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
燃料消費率(WLTC):14.3km/L
車両本体価格(税込):576万円
ボルボ XC40リチャージ・プラグイン ハイブリッドT5インスクリプション
ボディサイズ:全長4425 全幅1875 全高1660mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1810kg
エンジンタイプ:直列3気筒DOHCターボ
総排気量:1476cc
最高出力:132kW(180ps)/5800rpm
最大トルク:265Nm(27.0kgm)/1500-3000rpm
モーター最高出力:60kW(82ps)/4000-11500rpm
モーター最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0-3000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FWD
サスペンション:前マクファーレンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
燃料消費率(WLTC):14.0km/L
車両本体価格(税込):649万円
【問い合わせ】
ジャガーコール
TEL 0120-050-689
ボルボお客様相談室
TEL 0120-922-662
【関連リンク】
・ジャガー 公式サイト
https://www.jaguar.co.jp/
・ボルボ 公式サイト
https://www.volvocars.com