ロールス・ロイスがピュアEVを2023年に発売! 2030年以降は全モデルを電気自動車に

ロールス・ロイス初の市販フルEV発表! その名は幽霊を意味する「スペクター」

ロールス・ロイス初の市販EV、スペクターの擬装車両。正面ビュー
ロールス・ロイス初の市販EV、スペクターの擬装車両。
ロールス・ロイスがついにピュアEVの導入に踏み切った。2023年に発売を予定している新型車の名前は「Spectre(スペクター)」。しかも、2030年までにブランドすべてのモデルを100%電気自動車にすると宣言した。各自動車メーカーが電動化戦略へと舵を切るなか、満を持しての名門の参戦。高級車を象徴するロールス・ロイスが作るEVはどんなものになるのだろうか。

Rolls-Royce Spectre

初の電気自動車は2023年に発売へ

ロールス・ロイス初の市販EV、スペクターの擬装車両。フロントビュー
ロールス・ロイス初の市販EV、スペクターの擬装車両。伝統的な後ろヒンジのドアを採用していることが分かる。ボンネット上のスピリット オブ エクスタシーも健在。

ロールス・ロイス モーター カーズは2021年9月29日、ピュアEVの新型車「Spectre(スペクター)」を2023年に発売すると発表した。同社にとって初の量産電気自動車となる期待のモデルで、間もなく公道でのテストを開始するという。同時に、2030年までに同ブランドで扱うプロダクトのすべてを完全電動化することも宣言した。

同社のトルステン・ミュラー-エトヴェシュCEOは次のように説明する。

「今日は、1904年5月4日から続くロールス・ロイスの歴史上、最も重要な日となりました。まさしくその日、我々の創始者であるチャールズ・ロールスとサー・ヘンリー・ロイスは初めて出会い、“世界最高のモーターカー”を作ることになったのです」

「彼らは、当時最先端のテクノロジーと、自らの卓越したエンジニアリング魂とを組み合わせ、黎明期の内燃機関車を進化させた2人のパイオニアとなりました。騒々しく、とても快適とはいえず、未発達の交通手段であった自動車に、まったく新しいベンチマークを打ち立てたといえるでしょう」

そして、ロールス・ロイスは自動車の頂点に位置づけられる、真の贅沢を体現したクルマを作ってきた。1世紀以上にわたり、彼らの作る内燃機関車は、高級車の代名詞ともいえるものであり続けた。

EVの可能性を予言していたチャールズ・ロールス

ロールス・ロイス初の市販EV、スペクターの擬装車両。サイドビュー
ロールス・ロイス初の市販EV、スペクターの擬装車両。カモフラージュにチャールズ・ロイスの電気自動車にまつわる文言を使っているのがユニーク。

「(我々の始まりから)117年経ったこの日に、ロールス・ロイスが類い希なる新しいプロダクト、すなわち電気自動車界に革命をもたらす、我々にとっては初めての、かつ最高のスーパーラグジュアリーなEVの公道テストをスタートすることを、私は誇りをもってお知らせいたします。これはプロトタイプではありません。現実世界で目に見える形でテストを行い、2023年第4四半期には最初のお客様へと車両をお届けできることでしょう」 。トルステン・ミュラー-エトヴェシュCEOはそう表明した。

電動モーターを使うというのは、ロールス・ロイスにとって決して新しいコンセプトではない、とCEOは主張する。サー・ヘンリー・ロイスは電気を使ったあらゆるものに興味を惹かれており、実際に彼の最初の事業である「F. H. Royce and Company」ではダイナモや電動モーターを製造し、バヨネット式のライトバルブ取り付け部品の特許も取得していた。

しかし、自動車の電動化について本当に未来を予見していたのはチャールズ・ロールスであった。1900年4月、彼はコロンビア(アメリカで19世紀末〜20世紀初頭に存在していた自動車ブランド)製の電気自動車に出合い、電気駆動は理想的であると断言したという。

ロールス曰く、「電気自動車は騒音が一切なくクリーンである。臭いもなければ振動もない。充電ステーションさえ設置されればとても実用的なクルマになるだろう。しかし現時点では、実用化ができるとはいえない。少なくともこの先しばらくは」

400年分に相当する250万kmをテストで走る

ロールス・ロイスが2011年に発表した実験車、102EX
ロールス・ロイスが2011年に発表した実験車、102EX。ファントムをベースに試作したEVで、実際に100名ほどの顧客が試乗体験したという。

そしてロールスの予言は、1世紀以上を経て現実になろうとしている。現在のCEOは語る。

「電気による駆動は、他のどんな自動車ブランドよりも、ロールス・ロイス モーター カーズにこそぴったりマッチします。静かで、優雅で、瞬時にトルクが生まれ、強大なパワーも発揮する。これこそロールス・ロイスの言う“waftability(ロールス・ロイス車の独特の浮遊するような乗り味を表現する言葉)です」

ロールス・ロイスが2016年に発表したEVコンセプト、103EX
ロールス・ロイスが2016年に発表したコンセプトカー、103EX。100年後のショーファードリブンの姿を提案する完全自動運転EV。

すでにロールス・ロイスは、2011年に公開したEV版ファントムの実験車「102EX」や、2016年のEVコンセプト「103EX」で電動パワートレインの可能性を模索してきた。実際、それらに対する顧客の反響は好評だったという。そして過去10年にわたり、ミュラー-エトヴェシュは自身にこう問い続けてきた。「ロールス・ロイスはいつ電動化へ舵を切るべきか?」「初めての電気自動車をいつ送りだすのか?」と。

もちろん、電気自動車であったとしても、世界中で待つ目利きのロールス・ロイスの顧客層を満足させるものでなくてはならない。確実なクォリティを確保するために、彼らは史上最も厳しいテストプログラムを構築することにした。世界各地で行うテストで想定している総走行距離は250万km。ロールス・ロイスの平均使用距離に鑑みると、じつに400年以上分の走行距離に相当する。

2030年までに内燃機関モデルの製造・販売を終了

ロールス・ロイス初の市販EV、スペクターの擬装車両。トップビュー
ロールス・ロイス初の市販EV、スペクターの擬装車両。これから250万kmもの走行を伴うテストプログラムを敢行。2023年第4四半期にはデリバリーをスタートする計画だ。

スペクターのプラットフォームについて、ミュラー-エトヴェシュCEOは次のように言及している。

「2017年、我々は自社製のアルミニウムアーキテクチャーを採用したファントムを発表しました。フレキシブルなスペースフレームは、それ以降のロールス・ロイス車すべてを支える車台となるものでした。ロールス・ロイスがロールス・ロイスのために開発したこのユニークなテクノロジーは、カリナンやゴーストのような、いくつかの内燃機関モデルだけのために作られたわけではありません。完全に異なるパワートレインの土台にもなるのです」

ちなみに車名の「Spectre」は、ロールス・ロイスの慣例に従い、幽霊を意味する単語。ゴーストに比べると、やや恐ろしげなニュアンスをもつ言葉だが、静々と知らぬまに目の前に現れて、気付く間もなく消え去っていく高性能な電気自動車の姿を想像すると、なるほどぴったりなネーミングといえるかもしれない。ちなみにイギリス式のスペリングをあえて採用しているが、「意味合いは世界共通です」とミュラー-エトヴェシュCEOは付け加えている。

今回のステートメントで、ロールス・ロイスは2030年までにラインナップのすべてをピュアEVにすると発表。それまでに、内燃機関搭載車の生産、及び生産を終了することも明言している。

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著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…