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2022年10月から始まった『DIY派はこれを揃えてお工具!』は今回で6回目を迎え、読者のみなさんのおかげで無事に年を越せることが決まった。今回は2022年の最後の回ということで、これまでの総集編と、筆者が気に入っている手持ちの工具5選を紹介することにしよう。
マイベスト・その1「DEEN クィックツイストラチェット」
ファクトリーギアのオリジナルブランド・DEENから販売中の3/8sq&1/4sqドライブのラチェットハンドル。店頭で見かけてギミックの面白さに惹かれて購入した。この製品のユニークなところは、グリップを回すと連動してドライブが回転するダイレクトアクション機構にある。
これによりラチェットが振れないような場所でもボルト&ナットを苦もなく回せるというのが最大の長所だ。さらにグリップを左右どちらに回転させてもドライブは一方向にしか回らないため、左右にガチャ回しをすることで早回しもできる。もちろん、本締めも可能だ。
このラチェットハンドルの特徴はそれだけではない。
ドライブ部分はビットによる差し替え式になっており、3/8sqとしても、1/4sqとしても使うことができる。そして、ドライブを抜けばビットラチェットハンドルとしても使える。1/4sqビットはグリップ後端に収められており、エキステンションバーを装着して延長したり、スライドハンドルを装着して早回ししたりと、いろいろなシチュエーションでマルチに使える。さすがはアイデア工具で定評のあるDEENの製品だ。
じつはダイレクトアクションは、ずいぶん前にFacom(ファコム)の高速アクションツイストラチェットハンドルを手に入れていたのだが、3/8サイズにしては大柄で重く、サイズ感としては1/2sqと変わりがなかった。「これは便利そうだ!」と衝動買したものの、いざ手元においてみるとそのデカさ故に使い勝手が悪く、工具箱の肥やしになっていた(先日ついに担当編集Oのもとへ旅立った)。
それに比べるとDEEN クィックツイストラチェットはよくできている。ただ、筆者の場合はもっぱらイジるのは、エンジンルームがスカスカの旧車ばかりで、思ったほどこの製品の機能を活かせていない。それでもオートバイの車体メンテなどハンドルで何度か重宝したが、メカがギチギチに押し込まれた最近のクルマならもっとこの工具の長所を活かすことができるとは思う。
総じて評価すれば便利な道具なのだが、いくつか改善点を挙げるとすれば、回転方向の切り替えはドライブビットを抜き取り、反対側のホールにはめ直す構造が少々めんどくさいことと、ソケットをつけ外ししようとするとビットごと引き抜けてしまって外すのに難渋することくらいか。個性の光る優れた製品なので全長の長いロングタイプなどの展開もぜひお願いしたい。
マイベスト・その2「ツノダ DBP-200ダックビルプライヤー」
工具にハマるとやれSnap-on(スナップオン)だ、やれKNIPEX(クニペックス)だと、身のほども弁えずに高価な舶来工具についつい手を出してしまいがちだ。だが身近な日本製品にも優れた工具はたくさんある。そのことをあらためて思い知らされたのが、ツノダのダックビルプライヤーだった。
昭和の東京五輪が開催された1964年に個人工場として創業したツノダは、工具の町・新潟は燕三条を代表する「掴みモノ」を得意とする工具メーカーだ。国内では比較的安く売られているが、その実力は本物で海外ではSnap-onと並び称されることもあるほど。
ある日、筆者がバイクをいじっている際、奥にある割りピンを引き抜くために、細かなパーツを引き抜くかの作業をするはめになり、ニードルノーズプライヤー(ラジペン)を使おうとしたら先端が細すぎて上手く対象物を掴めず、コンビネーションプライヤーを持ち出してきたらくわえ部に厚みがあってアクセスできずにもどかしい思いにさせられた。そこで作業を一時中断し、気分転換を兼ねてクルマで昼食に出たときに、ついでにと立ち寄ったホームセンターの店頭でこのプライヤーを見かけて購入した。
使ってみるとこれがなかなか具合が良い。パーツはガッチリと掴んでくれるし、カシメ部からくわえ部までは絶妙な太さで直線的に伸びているので意のままに作業することができる。作りも丁寧で金属部分はエッジが落としてあり、不用意に触れても痛い思いをすることがない。黄緑色のグリップはよく目立つし、なかなか洒落ている。
筆者は海外通販で購入したCHANNEL LOCK(チャンネルロック)のプライヤーを日頃愛用しているが、タフでゴツくデリカシーさのかけらもないCHANNEL LOCKの製品に対して、ツノダの製品は少々華奢に見えるが、繊細かつ優美、上品ささえも感じられる。こういうところにもお国柄とかもの作りの考え方の違い、文化が現れるのかもしれない(だから工具は面白いとも言える)。ちなみに母国での販売価格はどちらも差はないようである。
マイベスト・その3「Wera マルチカラーHEX-PLUSレンチセット」
長年愛用しているWera(ヴェラ)のヘックスレンチセット。ヘックスレンチと言えば今はもうこれしか考えられない。今年は中古で大型バイクのカワサキZX-9Rを購入したので使用頻度が高く、取り上げることにした。
この製品の何が優れているかと言えば、レンチ部分に面接触機構が採用されており、接触面積が大きくトルク伝達率に優れ、6角穴に対する食つきも良いことから多少ナメかけたボルトでも回すことできるのだ。そして、軸が短いほうは通常のヘックスレンチとなるが、長いほうは先端が球状になっており、25度まで傾けて回すことができるので、狭い場所での作業や早回しにも適している。
ハンドル部分の剛性も極めて高い。通常のヘックスレンチは焼入れをしてから引抜き加工で仕上げるためハンドル断面は先端と同じく6角となるのだが、HEX-PLUSのハンドルは太い棒材を切削加工することにより断面を丸く仕上げている。ハンドルはレンチ部分よりも径が大きく、強いトルクを掛けてもレンチがしなることなく、柄が丸いため力を込めても手が痛くならない。そして、その上からビニールの被膜により、サイズをひと目で確認できるよう色違いのカラーグリップが装着されている。作業時に必要なサイズを簡単に見つけられるのも大きなメリットだ。
工具については個々人によって好みがあることは重々承知だが、ことヘックスレンチに限って言えば、Wera マルチカラーHEX-PLUSレンチセットが世界最高の道具だと筆者は信じて疑わない。
実売価格は販売店によっても異なるが、だいたい5000~8000円程度。たしかに高い買い物だが、サンデーメカニックレベルならおそらく一生不満なく使え、残りの人生はこれ以外のヘックスレンチの存在を忘れていられる。まさしく筆者イチオシのヘックスレンチである。
マイベスト・その4「ARMSTRONG TOOLS 18mmコンビネーションレンチ&Snap-on 18mmコンビネーションレンチ」
とくにこの製品に何かこだわりがあって取り上げたわけではないが、今年は18mmという日頃あまり使わないサイズのレンチを使う機会が多かったので紹介する。
その機会とはホンダ・スーパーカブ110(JA44)とスズキGN125Hのチェーン交換作業のことで、新たに購入したチェーンカッターのハンドルボルトが18mmだったため、コネクトピンを引き抜くときにカッター本体のハンドルだけでは力不足で、ハンドルボルトにコンビネーションレンチをかけて作業した。また、ジュリアクーペのミッションオイルを補充する際にも、ドレンが18mmだったので使用することになった。
かつては国産車をDIYで作業するときは「8、10、12、14、17、19mmの工具を揃えておけば必要にして充分」などと言われたものだが、昔に比べて輸入車は身近な存在になっているし、国産車もグローバル化の影響でこれまであまり使わなかったサイズの工具を使う機会が増えている。さらに言えば、今や社外パーツの多くに海外製が含まれている。
作業をしていて「サイズがない!」と慌てて工具店に走らないように、日頃あまり使わないようなサイズでも、最低でも8~19mmまでのサイズはコンビネーションレンチもしくはスパナ&メガネを揃えておいたほうが良いといことを筆者の実例を話してみた。
マイベスト・その5
「Snap-onラチェットドライバー&Williames Toolsラチェットドライバー」
ここに取り上げたふたつのラチェットドライバーをよく見てほしい。とても似ていると思わないだろうか? じつはWilliames Tools(ウィリアムズ・ツールズ)はSnap-on傘下のグループ企業で、製品や使用部材に共通するものが結構ある。
両者の違いはシャンクにあるローレットの有無とグリップ形状の違い、あとは製造元を表したロゴだけでそれ以外はほぼ同じ。使い勝手や機能にもまったく変わりはない。
写真上のSnap-onの製品は今年はじめにネット通販の特売で8000円くらいで購入したもの。店によっても異なるが現在の販売価格は1~1万2000円くらいだろうか。そして、下のWilliamesの製品は昨年北米のAmazonで購入した。細かな金額は忘れたが、たしか送料を含めて4000円程度で手に入れたと記憶している(円安になる前の話)。
両者の違いを端的に言い表せば、ブランド料ということになるかもしれない。これをどう捉えるかは人ぞれぞれだろう。
筆者はどちらの製品も相場よりだいぶ安く買えたので大変満足している。良い工具をなるべくリーズナブルに買うためには日頃からの情報収集が欠かせない。工具店や通販サイト、メーカーのセール情報をマメにチェックし、Amazon(ときどき高級工具を信じられない価格で売っている。当然早い者勝ちになることも多い)や海外通販サイト、ヤフオク、ebayなどにも目を光らせる。工具は必要になってから購入するだけでなく、ときには将来を見越して先行投資として買うことも必要なのだ。そうした日々の積み重ねこそが、限られた予算の中で工具箱の中身を充実させる近道となる。工具が揃うということはできる作業の幅が広がるということを意味するわけで、それこそがDIY作業や工具趣味の醍醐味となるのだ。
DIY派はこれを揃えてお工具! 総集編 2022
2022年10月から始まったこの連載も今回で6回を数え、さまざまな工具について紹介してきた。ここでは、これまでの連載分を一気に見やすいようにまとめておこう。DIY派、サンデーメカニック必見!
■第1回「ラチェットレンチ&ソケット」
■第2回「スイベルラチェット」
■第3回「ソケットレンチは6角or12角」
■第4回「ドライバー」
■第5回「コンビネーションレンチ」