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1トン切りの車重で大人気だった990S
マツダは2021年12月16日に行なったロードスターの商品改良で、特別仕様車の990S(キュー・キュー・マル・エス)を設定した。最軽量グレードのSをベースにさらなる軽量化を図ったグレードで、「990」の名称はもちろん、990kgの車両重量に由来している。1トン切りにこだわったグレードだ。
6MTのみを設定するSは軽さや軽快感を重視し、スタビライザー(リヤ)やLSDを未装備としている。さらに、「軽いことによる楽しさ」を追求するため、ダンパー、コイルスプリング、電動パワーステアリング、エンジン制御は専用セッティングとされた。
990SはRAYS社製鍛造16インチアルミホイールを採用することにより、1本あたり800g(4本で3.2kg)の軽量化を実現。爽快感やピュアなイメージを表現するため、フロントに装着するBrembo社製対向4ピストンキャリパーのロゴをブルーにしたのに加え、エアコンルーバーのベゼルやフロアマットにもブルーの差し色を施した。ソフトトップはダークブルーである。これが、スノーフレイクホワイトパールマイカのボディカラーに良くマッチしていた(他のボディカラーも選択可能だった)。
990Sは一時期、販売の3割を占める人気を誇ったという。ところが、2023年10月5日に大幅商品改良が実施されたロードスターのラインアップに、990Sは存在しない。ベースに位置づけられるSの車両重量は1トンを超え、1010kgである。
990Sがなくなった理由
チーフエンジニアを務める齋藤茂樹氏は、最新のロードスターから990Sがなくなった理由を次のように説明する。
「いろんなチャレンジをしましたが、1トンを切れなかったからです。今回の商品改良では、サイバーセキュリティ法に対応するために電気/電子プラットフォームを刷新しました。CX-60と同じものをロードスターに移植しています。その結果、10kg重くなりました。(現行ND型がデビューした)10年前のプラットフォームを最新に置き換えたので、機能は進化している。進化すると大抵軽くて小さくなるのですが、セキュリティを高めたぶん重くなっているのです。大きさはそんなに変わらないのですが」
改良前のSや990Sは7インチのセンターディスプレイを搭載せず、液晶オーディオディスプレイを装備していた。大幅商品改良版のSは他のグレードと横並びで8.8インチセンターディスプレイを装備する。軽量化を図るにあたってはディスプレイをやめて1DINオーディオにする案も検討したが、インパネを新設する必要があるため断念したという。
Sの車両重量が990kgから20kg増えて1010kgになっているのは、電気/電子プラットフォームを刷新したこと。これによるユニットやハーネスの重量増に加え、最新のマツダコネクトに対応したこと。従来はオプション設定だったサイドエアバッグ(頭部用/胸部用)を標準装備にしたことなどが理由だ。
“990S II(キュー・キュー・マル・エス・ツー)”を設定するプランは確かに存在した
大型商品改良版のロードスターに“990S II(キュー・キュー・マル・エス・ツー)”を設定するプランは確かに存在した。今回の大幅商品改良ではエアログレーメタリックのボディカラーが追加設定されている。990S IIはこのボディカラーにダークブルーのソフトトップを組み合わせるつもりだったそう……。
軽量化のネタがないわけではない。鉛バッテリーをリチウムイオンバッテリーにすることで7kg軽くなる。ボンネットフードをアルミからカーボンに換えることで大幅な軽量化が可能。シートはもともと軽量だが、これをバケットシートに置き換えることで、さらなる軽量化が可能となる。
問題は、軽さの追求にはコストがかかることだ。そのコストは当然、車両価格に転嫁される。それをユーザーが受け入れるかどうか。990Sは289.3万円のプライスタグを掲げていたが、最新の法規に対応したロードスターで990S IIを出すとしたら、以前と同じようにはいかない。軽さは価値なのだから車両価格に跳ね返って当然と筆者は思うのだが、どうだろう。
開発陣は990Sの継続を諦めていなかったし、現在も「復活を夢見ている」という。ロードスターファンの声が復活の後押しになるだろうか。