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水陸両用車開発のカギとなった3つのテーマ
防衛装備庁では、2017~2022年度にかけて「将来水陸両用技術の研究」事業が行われた。この段階では無人化は検討されておらず、有人車両として研究されている。プロジェクトでは、大きく以下の3点が研究されたという。
①水際機動力の向上。つまり、礁池(ラグーン)・礁嶺(外海とラグーンを隔てるサンゴや岩などによる盛り上がり)を踏破する能力。
②海上高速航行能力
③乗員安全性
なかでも、日本にとって重要なのは①の水際機動力の向上だった。上陸作戦に適しているのは、沖に向かってなだらかに傾斜していく砂浜なのだが、日本で島嶼奪還作戦が想定される南西諸島の島々は、多くが礁池(ラグーン)に囲まれている。外海と海岸のあいだは水深が浅く、硬いサンゴや岩による凹凸が点在しており、まさに「天然の障害物」とも言える。
に囲まれ、遠浅で起伏の激しい海底地形は「天然の障害物」とも言える。実際、第2次世界大戦では、日本軍の守備する南洋の島々に上陸を試みたアメリカ海兵隊が、サンゴ礁の突破に苦しみ多大な犠牲を出している。現在配備されているAAV7ですら、こうした礁池・礁嶺の克服能力は高くないと見られており、国産水陸両用車が必要とされる大きな要因となった。
公開された資料では「将来水陸両用技術の研究」においては礁池・礁嶺の克服のため3000馬力級エンジン搭載の方針が示されている。50トンの90式戦車でも1500馬力であることを考えれば、破格の大出力エンジンとも言えるが、研究者らは「単に大きなエンジンを積めばいいわけではない」と話す。確かにサンゴを乗り越えるために大出力エンジンは必要だが、一方で大きなエンジンは重量増や内部容積の圧迫(つまり人員・物資搭載能力の低下)を招いてしまう。「①~③のバランスを取り、トータルとして求める能力を発揮できることを考えなければいけない。そこが難しい点だった」と研究の苦労を振り返った。
「無人化」の目的とは?
続いて、今年度(2024年度)から2027年度の期間で行なわれているのが「無人水陸両用車」の開発だ。新たに「無人化」という要素が加えられたことについて、防衛装備庁は「レス・カジュアリティ(死傷者の削減)」と「省人化による効率化」を目的に挙げた。いかに高性能な車両であっても、遮蔽物のない海からの上陸は、敵の砲火に晒される可能性が高い。公表されている運用構想図でも、有人車両の前衛に配置された無人車両が描かれている。
また、無人運用のための遠隔操作・自律機動能力を持ちつつも、必要に応じて乗員が搭乗することが検討されていると回答を得た。公開されている各種の完成イメージ画像も、無人車両にありがちな小型車両ではなく、既存のAAV7同様の大型車両となっている。そもそも、海上を高速航行する本車に、低速のAAV7は追随できないため、指揮や遠隔操作のために有人車両は不可欠だと思われる。8月30日に公開された防衛装備庁の資料によれば、本車は令和10年度(2028年度)からの量産・配備が予定されている。まさに次世代の自衛隊を担う装備であり、どのような車両となるのか、いまから興味が尽きない。
◆「無人水陸両用車」については現在発売中の『自衛隊新戦力図鑑2024-2025』において、より詳しく解説している。