新車の慣らし走行は必要か? GR86のフィーリングに迫る【TOYOTA GR86 長期レポート6_AE86~GR86への道】

GR86の脚周り。純正サスペンションやブッシュ類も徐々に馴染む。新車時の乗り心地だけがすべてではない。
GR86を手に入れ、さっそく慣らしをしながらロングドライブに。街乗りでのしっとり感と、高速道路でも快適なフィールと繊細なハンドリングは予想以上の素晴らしさ。長期レポート第6回は「そのフィーリングの秘密」に迫る!

TEXT&PHOTOS 加茂 新(KAMO Arata)

高い質感と繊細なフィーリングを持つGR86/BRZ

GR86は「思った予想と相違なく動く」。だからこそ「予測がしやすく、この先どうなるかが想像しやすい」「予想を裏切る動きをしない」。だから「乗りやすいと感じる」。これがGR86の一連の方程式だ。
GR86はBRZに比べて、そのあたりのフィーリングに強くこだわったと開発ドライバーの佐々木雅弘選手。続けて「過渡特性を均一に、おだやかに」と彼は言う。

クルマに荷重がかかっていくときに、あるところから突然フィーリングが変わるとそれは「怖い」となる。そう、お化け屋敷のようなものだ。いきなりお化けが飛び出てきたり、驚かされるから怖いわけで、このへんでこんな感じで出てくる、と予想できていたら大して怖くないわけである。まぁ、それは個人差もあるだろうし、ボク自身は、どんな状況であってもお化け屋敷には入りませんが……。

お! 値段以上! トヨタ♪ GR86「コクッ」と「ゴクッ」の違い

2021年12月に納車になり、早速乗り回したGR86。そのフィーリングはビックリするほどしっとりしている。ミッションやブレーキまで質感が高められていた。 長期レポート第5回。 TEXT&PHOTOS 加茂 新(KAMO Arata)

話が逸れた……。
たしかに雪道で滑るぞ滑るぞ! と意識していればズルズルと滑ってもどうにかなる。しかし、突然晴れた日の交差点でスパーンとリヤタイヤが滑ったら、口から心臓が飛び出るほどビックリするだろう。
それと同じでGR86はどんなことが起きるのか、起きるときにはだんだんと感じられるように味つけされている。その結果が脚周りのナックル部のスチール化だという。BRZはばね下重量の軽量化を狙って今回からアルミ製に素材置換を行なった。しかし、GR86は鉄製のまま。

「鉄は荷重に対してじわじわと同じように変形していく。そのほうが変化が伝わりやすい。アルミはある程度から変位量が大きくなる特性があるので、僕は鉄のほうが感じやすいのではないかと思います。その代わりにアルミは軽さというメリットがあります。その軽さを選ぶのも、またひとつの味つけだと思います」と佐々木選手は言う。GR86は軽さよりも、鉄らしい変化の仕方を選んだのだ。

エンジンは徐々にフィーリングが軽くなるというより、350kmからスパッと軽くなってきた。

とはいえ、日常領域ではGR86もBRZもどちらも極めて乗りやすく、高い質感と繊細なフィーリングを持っている。限界領域での動きに関してはサーキット走行後にお伝えしたく思う。

エンジンはそのフィーリングを味わっていくなかで、新車から350kmほど走行した頃に変化が現れた。これまでも数台新車に乗ってきたが、明らかにある時瞬間からフィーリングが変化して軽くなるポイントがある。
今回は350kmあたりでその点があったように思う。それまでよりも一段とエンジンが軽くなったように感じる。もしかしたら、物理的なものではなくエンジンコントロールのコンピュータの設定が変わったのかもしれないが、より楽しく感じられるようになった。

慣らし運転は必要か?

ちなみに最近の新車では走行距離によってエンジンのコンピュータマップが切り替わることがあるという。真偽の程はブラックボックスの中のことだけに不明で、自動車メーカーからも公式のアナウンスはない。だが、ある車種では1000kmまでは慣らし期間としてパワーが多少絞られていて、本来の出力は1000kmを超えると開放されるのだという。GR86にもそういった制御が入っているのか、物理的に金属表面が馴染んだのかはわからないが、一皮むけた感触に乗っていて思わず笑みがこぼれた。

脚周りにもわずかに変化が起きたように思う。サスペンションのスプリングはやはりある程度使用すると馴染みが発生する。また、スプリングだけでなく、その上にはゴム製のシートが入っており、これが潰れることで車高も数mm下がる。そして、タイヤも馴染みをみせる。

見た目にはわからないが車高も数ミリは下がってくるのだという。

新車時の空気圧は2.5kg/cm2ほど入っていたので、そのときに規定値の2.4kg/cm2に調圧した。それから約1000kmまではそのまま走行している。スプリング、ダンパー、ゴムシート、タイヤなどのそれぞれが馴染むことでより一体感あるフィーリングになってきた。

全体に少しだけ張りがあるようなフィーリングはあったが、馴染むことでその部分が穏やかになり、よりラクに走れるようになってきた。慣らし走行というと、走り方がどうのこうといろいろな派閥があるが、そういったことよりもこうして各部が馴染む間はフィーリングが変わる。だから、その間はクルマに慣れる意味でも少しゆったりと走ってください。ドライバーとクルマの馴染みもされてきた頃に、工業製品としての馴染みもつき、全体におだやかでしっとりとしたフィーリングになるますよ、というのが慣らし走行の真意ではないだろうか。

そう思えるほどに新車時のクルマは少しずつ表情が変化していく。それを楽しめるのもまた新車を買った楽しみのひとつだと言える。

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著者プロフィール

加茂 新 近影

加茂 新

1983年神奈川生まれ。カメラマンの父が初代ゴルフ、シトロエンBX、ZXなどを乗り継ぐ影響で16歳で中型バイ…