排出ガス規制車でもレビン本来のパワーは取り戻せる! アナログチューンしたTE55レビン 【2022TMSCクラシックカーミーティング&レビン・トレノ50周年パレード】

FR時代のレビン・トレノは排出ガス規制に振り回された歴史をもつ。初代TE27こそ規制前で本来の楽しみ方ができるけれど、それ以降のTE37からTE55、さらにはTE71までのレビンは4気筒DOHCである2T-G本来のパワーを失っていた。けれど、オーナーの創意工夫で2T-G本来のレスポンスを取り戻したTE55レビンがいた!
PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
1978年式トヨタ・カローラクーペ1600レビンGT。

初代に当たるTE27カローラ・レビン/スプリンター・トレノは1973年にフルモデルチェンジして2代目のTE37レビン/TE47トレノへ進化する。ところがすでに時代は排出ガス規制を強化しており、2代目にも継続して採用された1.6リッター直列4気筒DOHCの2T-G型エンジンは大きく性格を変えていた。

高回転時のパワーとレスポンスが排ガスデバイスにより損なわれていたためだ。さらに追い打ちがかかり、厳しさを増す排出ガス規制に2T-Gエンジンが対応できなくなってしまい、なんとレビン・トレノはフルモデルチェンジから1年後に絶版となってしまうのだ。

レビンとしては2代目の後期モデルがTE55だ。

一時的なこととはいえ絶版になる運命は当初から想定されていたことだろう。ところがレビンとトレノは別のボディが与られ型式が変わるという手の込んだ設計をされていた。カローラ・レビンでは2ドアハードトップスタイルが与られ、従来からのクーペボディはスプリンター・トレノだけになっているのだ。

これはレビン・トレノは2年後の1977年に復活することを示唆していたのかもしれない。トヨタはキャブレターに代えて電子制御燃料噴射装置であるEFIを開発、2T-G型エンジンと組み合わせることで新たに2T-GEU型として復活させたのだ。このインジェクション仕様2T-Gを採用するレビンは型式がTE51へ、トレノはTE61へ変わり、さらに強化された昭和53年排出ガス規制に対応させるため三元触媒を備える1978年からはTE55、TE65へとそれぞれ進化している。

展示中リヤウインドー越しに見えるよう制作された紹介文。

インジェクションの採用により復活した2T-Gエンジンだが、やはりソレックス・ツインキャブレターを装備していたTE27時代のようなレスポンスは得られなかった。最高出力こそ115psと変わらないのだが、回転フィールとパワー感が大きく異なる。そのため刷新されたものの初代の人気が逆に上がってしまうという現象が起こる。

初代より2代目の残存数が少ないのは、こうした事情があるからだ。そんな時代に生まれたTE55レビンが2022TMSCクラシックカーミーティング&レビン・トレノ50周年パレードの会場に並んでいた。珍しいと思いつつリヤウインドー越しに見える説明文を見て驚いた。エアフローメーターとECUに自作したアナログ回路を付けることで排ガス規制車の特性を変えて、2T-G本来のレスポンスとパワーを取り戻したと書かれているのだ。

2T-GEU型1.6リッター直列4気筒DOHCエンジン。

TE55レビンのオーナーは深田善樹さんで、アナログ回路を自作するほどのマニアかと思って質問するとそうではなかった。なんとトヨタで開発関連のお仕事をされている本職だったのだ。それゆえだろう、先輩たちが苦労して開発した2T-GEU型に思い入れがあるし、調べるうちにレスポンスが悪い原因も突き止めた。

それが説明文に書かれているよう、ポートにガソリンが付着する現象を補正するための回路。さすがはトヨタで当時すでに回路を補正して2T-G本来のレスポンスを得られる技術が確立していたのだが、使用する部品の耐久試験が間に合わず採用を見送ったというエピソードまである。これを知った深田さんは「だったら自分で作ろう」と考えられたのだ。

エンジンルームに何やら手作りされたような形跡がある。
エアフローメーター内に自作した基盤があった!

エアフローメーター内にあるスロットルセンサーに加速ポンプ機能を追加する回路を製作。ECU側にはガソリンがポートに付着する際、燃料をカットする設定となっているところにカットが終わった後ガソリンを増量する機能を持たせた回路を追加。これによりレスポンスが悪くてDOHCらしさが味わえない2T-GEUの特性を変えることに成功したのだという。2T-G本来の特性を取り戻したTE55レビンは、TE27時代より大きく重いボディであるため活発さではTE27に譲るが、走りの味わいでは同等近くまで改善したという。

オーディオ以外ノーマルを保っているインテリア。
自作したパネルに収めたパイオニア製カセットステレオ。

深田さんがこのTE55レビンを手に入れたのは2013年というから9年前のこと。自作回路により走りの良さを取り戻すと、走る距離も伸びたことだろう。この時代のモデルだと積算計が6桁しかなく10万キロを超えるとメーターが元に戻る。そのため正確な走行距離は不明ながら、間違いなく旧車としては走り込んでいる。

ところがこれまで大きなトラブルとは無縁で、非常に優等生なクルマだという。旧車といえどもクルマは普段から乗っている個体だと調子が良いもの。逆にガレージで保管されていたとしても普段乗ることはなく月に何度か短い距離を走るだけのような場合、調子を崩しやすかったりする。トラブルが少ないのは走っている証拠だろう。

コンソールにアナログ式マルチテスターを装備。
70年代中期以降からのトヨタ車に多く見られたOKモニター。

1970年代中盤以降、順次インジェクションモデルが増えていったトヨタ。この頃のモデルだとルーフなどに「OKモニター」と呼ばれる警告灯が装備されている。具合の悪い個所があるとエンジン始動時に点灯して教えてくれる装備だ。これとは別に深田さんはコンソールにアナログ式のマルチテスターを常備している。

これをハーネスなどに接続して調子が悪くなっていないか、絶えず確認しているのだ。慎重な性格なのだろうし大切にされていることが伺えるのだが、なんと家庭の事情でTE55を手放すことにされたという。もしかしたら、すでに新たなオーナーのもとで可愛がられているかもしれない。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…