メルセデス・ベンツ「SL」は新たに4気筒電動ターボを搭載して10年ぶりに劇的チェンジ!【メルセデス-AMG SL43 & C43 4MATIC試乗記】

未来のメルセデスを先取りしたとも言える「EQS」の試乗時に、ふたつのAMGモデルにも試乗の機会を得た。ひとつは昨年10年ぶりにフルモデルチェンジを果たした「メルセデス-AMG SL」であり、もうひとつはCクラスのプレミアムモデル「メルセデス-AMG C43 4MATIC」である。
REPORT:山田弘樹 PHOTO:中野幸次

4気筒の搭載は新型SLにどんな影響を与えたのか

AMG SL43には、2.0L4気筒ターボという「ライト」なパワートレーンが搭載されることに。

今回の2台(SL43とC43 4MATIC)には大きな共通点がある。それはパワーユニットに、48Vの電動システムを組み合わせた2.0直列4気筒ターボを選んだことだ。

C43 4MATICは、以前は3.0 V6ツインターボを搭載しており、SLに至っては、今回、初の4気筒! いくらCO2削減を前提とするにしても、前のモデルからの落差は大きいのではないか? 果たしてカスタマーはこれを受け入れるのだろうか? というのがまずは大きな注目ポイントだと言える。

エレガントなオープンスポーツカーというキャラクターは踏襲しているものの、新型モデルでの変更点は多岐に渡る。

そしてこの変更が実際、両車のキャラクター作りには大きく影響していた。

メルセデス・ベンツの「SL」といえば、これまでそのラインナップにおいて最も贅沢かつ、絶対的なエレガンスの象徴だった。しかしその威光は5代目あたりからやや陰りを見せはじめ、AMG GTロードスターが登場してからはフラグシップスポーツ、もしくはラグジュアリースポーツとしての地位をこれに奪われてしまった。

しかしこの度SLは、劇的に生まれ変わった。

3サイズは、4700mm×1915mm×1370mm。1900mmを超える全幅はともかく、4700mmの全長はC43よりも85mmほどコンパクトだ。

その立役者となったのが、フロントに搭載された2リッターの直列4気筒ターボだ。このエンジンがもたらす軽さとパワーが、SLのキャラクターを一気に若返らせた。

これについては、メルセデス自身もかなり意識しているようだ。

その資料にはSLの原点が1952年のレーシングマシン「300SL」(W194)と、その市販モデルである「300SL」(W198)にあると説明し、なおかつSLのイニシャルが“Super Light”であることを強調している。

長いボンネットに収まるのは4気筒エンジン「M139」。ターボの存在感がもの凄い。

さらに興味深いのは、今回この新型SLがAMGによって完全自社開発されたこと。つまりそれは、FIA-GT3レースでも活躍した「SLS AMG」や、現行フラグシップモデルである「AMG GT」、そして限定生産されたハイパーカー「AMG ONE」に次ぐ、4番目のAMG独自開発モデルであることを意味する。

そんな新型AMG SL 43の走りは、迷いなくスポーティだ。

話題の中心である2リッターターボ「M139」は、メルセデスにおける直列4気筒として初めて「One man,One engine」方式が採用され、そのヘッドカバーには、組み上げを担当したマイスターの直筆サインをエングレービングした、メタルプレートが貼り付けられていた。

381PSの最高出力と480Nmの最大トルクは、その数字だけを見ればかなりの内容だが、体感的には手に負えないほどハイパフォーマンスではない。

ソフトトップが復活したことも新型SLのトピックだ。やはりエレガントさではハードルーフよりソフトトップが上手だ。

それはまずこのシャシーが、オープンボディにもかかわらず出来映えが素晴らしいことがひとつ。そして見た目とは裏腹にその車重が、1780kgもあることが理由となっている。

そしてこうした重たいボディをロケットように加速させたいなら、絶対的な排気量が必要になる。つまりは上位モデルSL55やSL63が搭載する、4.0V8ツインターボを選べばよい。

ゴージャスでありながら、スポーツカーとしての軽快感も表現されるSLのインテリア。

そして、SL43の走りがまったりと鈍重かというと、まったくそんなことはない。むしろ動きは過敏なほど機敏であり、“Super”というほど大げさではないが、まさに身のこなしが“Light”なのだ。

要するにその重量は、ボディの安全性と、剛性の向上に当てられている。だからこそ前後20インチの大径タイヤを難なく履きこなし、その動きが機敏になる。

コーナーでは、全長の短い直列4気筒ターボをフロントミドシップした“鼻先の軽さ”が思い切り効いている。そしてブレーキのタッチが、最高に素晴らしい。

だからまるでAMG SL43は、BMW Z4やポルシェ ボクスターを走らせているような感覚で、コーナーにアプローチできる。

そしてスポーティに走らせるほどに、F1由来の「エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー」がレスポンスする。

このターボシステムは48Vのシステム電源で、タービン軸に連結するモーターを最大17万回転まで回すことができるという。つまり高回転高出力を狙った大型タービンを搭載しても、低速域のブースト、即ち街中でのドライバビリティが確保できるのだ。

だから絶対的な排気量が小さくても、エンジンは高回転までスカッと回る。むしろワインディングではアクセルを踏み倒せるキャラクターになっており、そのドライビングが今までのSLからは考えられないほど楽しい。そしてその精巧なAMG製エンジンの回り方に、思わず感心してしまう。

装着タイヤはミシュランのパイロットスポーツ4S。フロント265/40R20、リヤ295/35R20と20インチを履く。 

ただ街中での快適性に関しては、まだこなし切れていない一面も感じた。その48V電気システムは第2世代のBSG(ベルトドリブン・スタータージェネレーター)を駆動し、街中での出足やアイドリングストップからの復帰をスムーズにサポートするというが、湿式多板クラッチを使う9速トランスミッション(AMG スピードシフト MCT)の制御がややギクシャクしており、その恩恵があまり感じられなかった。

もしかしたらこの辺りは不特定多数のドライバーが試乗することで、車両の学習機能を妨げているのかもしれない。

またノーズの軽さに比較してタイヤの剛性が高いため、低速での操舵応答性が少し過敏だ。可変ダンパーで乗り心地はかなり良くなっているのだが、残念ながら歴代SLがもっていたどっしり感はトレードオフされた。

ソフトトップを採用。そして、インテリアはすべてが新しい。

ドライバーズメーターは12.3インチの液晶パネルをダッシュボードにざくっと埋め込み、両側からパッドで挟み込んだだけの大胆さで、これで本当に日光の反射を防げるのかと心配になってしまうが、そのシンプルさがとてもクールだ。

センターコンソールにもやはり、縦長で巨大な11.9インチのディスプレイがズドン! と荒っぽく突き刺さっているのだが、これが12~32度まで稼働して、オープン時の光の反射を防ぐのには驚かされた。

2+2のリアシートに大人が座ることは不可能だが、様式美よりもイージーアクセスが求められるこの時代に、すぐさま荷物を放り込めるラゲッジを得たことは大いに歓迎されるだろう。

シートにはエアスカーフまで備えられているが、普通に走らせる限りオープン時でも風の巻き込みは非常に少ない。そしてZ形に折りたたまれる電動ソフトトップは、15秒で開閉が可能。時速60km/h以下であれば、走りながら操作ができる。

その所作は走りだけでなく、全てのアクションがスピーディになった。まさにSLは、AMG SLとして若々しく生まれ変わったのだ。そしてこの軽快な乗り味は、来るEV世代へのスマートな架け橋となるだろう。

ヒップポジションは低く、かつベルトラインは高く安心感に包まれる前席シート。
+2レイアウトとなったのは、パッケージ上の大きなトピックの二つ目だ。シートバックは直立しており、ここに人を乗せるのは、エレガントではなさそう。

新型SLと同じパワーユニットを積んだC43 4MATIC

Cクラス、AMGのエントリーモデルとして、SLと同じエンジンが積まれるC43。こちらは四駆の4MATICだ。

CクラスのボディにAMG製ユニットを搭載し、4WDのスタビリティでそのパワーを受け止める。AMG C43 4MATICはそのヒエラルキーでいうと、SL43と同じくAMGチューンのCクラスにおけるエントリーモデルだ。

そんなC43 4MATICで一番話題とすべきは、今回のモデルチェンジからSLシリーズと同じくそのパワーユニットにダウンサイジング化が図られたこと。3.0V6ツインターボ(367PS)は、2リッターの直列4気筒ターボ+48V電気システム(BSGおよび電動ターボ)に置き換わった。

SLと同じ直4、2.0Lターボが収まる。大きなターボが目立つのもSL同様。

エンジンの最高出力は408PS/6570rpm、最大トルクは500Nm/5000rpmで、BSGのモーター出力は10kW/58Nm。同じ43シリーズでもAMG SL43に比べ27PS/20Nm出力が高められているのは、その車重が1830kgと、セダンボディと4MATIC搭載の分だけ50kgほど重たくなっていることを受けてだろう。

そんなAMG C43 4MATICのキャラクターはというと、実に絶妙なラグジュアリーさと、スポーツテイストを併せ持つセダンだった。

サスペンションはそのスプリング剛性がキリリと引き締められている。しかしこの反発をダンパーがしなやかにコントロールしてくれるから、必要以上の硬さを感じない。コンフォートモードはもちろん、それを「スポーツ」「スポーツ+」と高めて行っても、路面からの入力を巧みにダンピングしながら、スタビリティだけを高めて行ってくれるのだ。

上級モデルと比べるとタイトに見えるが、専用ステアリング、カーボンパネルなどAMGの専用意匠を纏い、高い質感が保たれるインテリア。

この乗り味の良さには、フロント40、リア35扁平となる19インチタイヤの採用も効いている。過度にサイド剛性を高めないタイヤ選択によって、セダンらしい落ち着いた味わいもなんとか保たれている。

そんなAMG C43 4MATICでワインディングを駆け抜けると、速さよりも楽しさが上回る。

コーナリングは、とにかくよく曲がってくれる。全幅1825mmの大柄なボディがひと周り小さく感じられるのは、サスペンション剛性の高さだけでなく、最大で約2.5度逆位相となるリア・アクスルステアリングの影響だろうか。しかしその制御はあまりに自然で、乗り手は違和感なく、ただただ走るのが楽しい。

注目の直列4気筒ターボは、408PS/500Nmのターボパワーが完全にシャシーの支配下に置かれている。FRベースの4WDである4MATICは、その前後トルク配分を31:69に設定。後輪重視のアウトプットで旋回性を高めながらも、4輪でそのトルクをこぼさず路面に伝えてくれる。

だからAMG SL同様、数字の割にややそのパワー感は希薄だが、だからこそ乗り手は気持ち良くアクセルが踏み込める。

またスピードシフト MCTの変速もこちらはスムースで、その走りのダイレクト感と質感を共に高めていた。

Sクラスに準じたインテリアの、質感高い佇まい。それを備えた上でCクラスのコンパクトさと(1825mmの全幅を決して小さいとは言わないが、後輪操舵の利便性を加味すれば、やはりコンパクトだと言える)高いドライビングプレジャーを備えたAMG C43 4MATICは、密かに日本におけるベストチョイスではないかと思う。

Cクラスのベストか、というバランスの良さが感じられたC43 4MATICだった。

AMGというバッジを背負うだけにその乗り味はちょっとスポーティだが、ラグジュアリーなテイストもきちんと備えている。Sクラスは確かにいいけれど、サイズも大きいし少し枯れ過ぎる。しかしEではありきたり。かといってC63では、トゥーマッチ。

そんな通にこそ、試して欲しい一台だ。

メルセデス・ベンツ-AMG SL43(BSG搭載モデル)


全長×全幅×全高 4700mm×1915mm×1370mm
ホイールベース 2700mm
最小回転半径 6.1m
車両重量 1780kg
駆動方式 後輪駆動
サスペンション F:5リンク R:5リンク
タイヤ 前:265/40R20 後:295/35R20 

エンジン種類 直列4気筒
エンジン型式 139
総排気量 1991cc
内径×行程 83.0mm×92.0mm
最高出力 280kW(381ps)/6750rpm
最大トルク 480Nm(48.9kgm)/3250-5000rpm
トランスミッション 9速AT

燃費消費率(WLTC) 10.8km/l

モーター種類 スイッチトリラクタンスモーター
モーター型式 EM0025
最高出力 10kW
最大トルク 58Nm(5.9kgm)

価格 16,480,000円
メルセデス・ベンツ-AMG C43 4MATIC(BSG搭載モデル)

全長×全幅×全高 4785mm×1825mm×1450mm
ホイールベース 2865mm
最小回転半径 5.7m
車両重量 1830kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:4リンク R:マルチリンク
タイヤ 前:245/40R19 後:265/35R19 

エンジン種類 直列4気筒
エンジン型式 139
総排気量 1991cc
内径×行程 83.0mm×92.0mm
最高出力 300kW(408ps)/6750rpm
最大トルク 500Nm(51.0kgm)/5000rpm
トランスミッション 9速AT

燃費消費率(WLTC) 11.1km/l

モーター種類 スイッチトリラクタンスモーター
モーター型式 EM0025
最高出力 10kW
最大トルク 58Nm(5.9kgm)

価格 11,160,000円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…