アウディQ4 e-tronは、トヨタbZ4X、日産アリア、VW ID.4、メルセデスEQAなど群雄割拠のカテゴリーで勝ち抜けるか?

アウディQ4 Sportback 40 e-tron S line 車両価格:710万円
現在人気のSUVカテゴリー、そのなかでもボリュームゾーンであるコンパクト(日本で言えばミディアム)クラスのBEVは、いま新規参入がどんどん増えている。日産アリア、トヨタbZ4X/スバル・ソルテラの国産勢に、メルセデスEQA、プジョーe-2008、ボルボC40リチャージなどが戦いを挑む。ここに、BEVに注力するVW・アウディグループの主力モデルが日本上陸。プレミアム路線を受け持つアウディQ4 e-tronはこのクラスで勝ち抜けるか?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

VW ID.4と共通のMEBプラットフォームを使う

アウディQ4 e-tron/Q4 Sportback e-tronは、アウディの電気自動車(BEV)、e-tron(イー・トロン)の第3弾となるモデルだ。e-tron第1弾は大型SUVのe-tron/e-tron Sportback、第2弾は4ドアグランツーリスモのe-tron GTである。Q4 e-tron/Q4 Sportback e-tronは、VW ID.4、トヨタbZ4X/スバル・ソルテラ、日産アリア、メルセデスEQA、プジョーe-2008、ボルボC40リチャージなどのBEVがひしめく、コンパクトSUVセグメントに参入することになる。

アウディQ4 e-tron系の特徴のひとつは、コンパクトSUVの王道を行くスタイルでまとめられたQ4 e-tronに加え、スタイリッシュなクーペSUVのQ4 Sportback e-tronをラインアップすることだ。今回のレポートは、最上級グレードとなるQ4 Sportback 40 e-tron S lineをベースにお届けする。

Q4 e-tronの走行機能系を構成するハードウェアは、同じグループに属するVWのID.4と共通だ。エクステリアやインテリアはブランドそれぞれの個性が表現されているが、差別化が必要ない部分では技術と部品の共用化を図り、コスト低減に努めている。その結果として、求めやすい価格を実現しているわけだ。

リヤバンパー下から覗き込んだQ4 Sportback e-tronの床下の景色は、相違点を指摘するのが難しいくらい、ID.4と共通している。いっそ同じ景色と言っていい。リヤサスペンションはマルチリンク式。ロワーリンクの下面には空力目的と思われるパネルがボルト留めされており、可動部品を除くエリアは徹底したフラット化が図られている。ダンパーには(ザックスを傘下に収めて久しい)ZFのロゴが確認できた。

タイヤは、F235/50R20 R255/45R20のブリヂストンALENZA
フロントサスペンションはマクファーソンストラット式
MEBのベース仕様はRWDだ。
リヤサスペンションはマルチリンク式。床面をリヤから覗き込んでみるとこう見える。

リヤに最高出力150kW、最大トルク310Nmのモーターを搭載し、後輪を駆動する方式もID.4と共通だ。システム電圧は400V。床下に搭載するバッテリーの容量(実容量77kWh)もID.4と同じである。一充電走行距離は576km(WLTCモード)だ。急速充電はCHAdeMO規格の最大94kWに対応する。アウディは同じグループに属するポルシェとVWが属する急速充電器ネットワーク「プレミアム・チャージング・アライアンス(PCA)」に加盟しているため、Q4 e-tron系のオーナーは、アウディだけでなくポルシェやVWの販売拠点に設置される急速充電器を利用することが可能だ。

全長×全幅×全高:4590mm×1865mm×1615mm ホイールベース:2765mm
最低地上高:135mm トレッド:F1590mm/R1580mm
最小回転半径:5.4m

感心したのはじつはこのポイント

インテリアはID.4とはかなり違う。
後席の居住性は高い。
身長183cmの男性が前後シートに座ったときの後席の膝周りはこの程度の余裕だ。
トランク容量:535ℓ

実物に触れて「おぉ、これは!」と感心したのは実は、リヤドアの閉まり音だった。アウディはQ4 e-tron/Q4 Sportback e-tronを“プレミアム”コンパクトSUVと表現しているが、スパッと収まる硬質な残響音はドアの建て付け精度の高さと減衰の高さを感じさせ、気分がいい。Q4 e-tron系のオーナーはきっと、このドアの閉まり音を聞く度に「いい買い物をした」と思うに違いない。

運転席に着座してブレーキペダルを踏めばシステムは起動し、停車してパーキングブレーキのボタンを押し、ブレーキから足を離すといわゆるイグニッションオフの状態になるのはID.4と同じ(START/STOPボタンも装備されている)。ID.4はドライブモードセレクターをメータークラスターと一体化させているが、Q4 e-tronはプールの飛び込み台のように中空に突き出したセンターコンソールにシフターをレイアウトしており、この点、オーソドックスである。運転席の目の前にあるメーターは10.25インチのデジタル表示で、ID.4(5.3インチ)のようにステアリングコラムと一体で上下には動かず、固定。この点もオーソドックスだ。

センターのディスプレイは11.6インチサイズのタッチ式である。新規性があるのは、下辺だけでなく上辺もカットした新世代のステアリングホイールを採用したこと。ステアリング上に配されたオーディオやメーター表示の切り替えはタッチ式。運転支援システム系の操作は、左側のレバー(ウインカーレバー)の下にある専用のレバーで操作する。

ステアリングホイール左右のパドルを引くと回生ブレーキの強さを切り替えられる。左側は「−」だ。

走行機能系でID.4と決定的に異なるのは、回生ブレーキの強さをパドル操作により3段階で切り換えられることだ(ID.4はD/Bの切り替えのみ)。「-」の表示がある左側のパドルを引くと回生ブレーキ(モーターが発電を行なう際の抵抗を利用して減速させる機能)が強くなり、「+」の表示がある右側のパドルを引くと、一旦強くなった回生ブレーキが弱くなる。

Q4 e-tronはAudiドライブセレクトを備えており、Auto(デフォルト)、Efficiency、Comfort、Dynamic、Individualに切り換えることができる。モードを切り換えると、ドライブシステムの制御が効率側かダイナミックか、その中間的な特性のバランスドに切り替わり、電動パワーステアリングの制御がコンフォタブルかダイナミックに切り替わる。

ダイナミック以外を選択した場合、マイナス側のパドルを引いて回生ブレーキの利き具合を一旦強くしても、次ぎにアクセルペダルを踏んだタイミングでデフォルト状態(回生ブレーキ最弱)に戻ってしまう。とっさに回生ブレーキを強くしたい状況で臨時に使うことを想定しているのだろう。

いっぽうダイナミックを選択すると、パドルで切り換えた回生ブレーキの強さが保持される。次ぎにアクセルペダルを踏み込んでアクセルオフした場合も、前に選択した強さは生きたままだ(回生ブレーキの強さはメーター表示で確認できる)。山道を駆け上がっていく、あるいは駆け下りるようなシチュエーションでは断然便利である。

それに、かなりスポーティに走る。アクセルペダルの微妙な動きにも忠実に反応してイメージどおりに力が出てくるし、パドル操作によってアクセルペダル戻し側の減速を好みに調節できるのがいい。車速の管理が思いのままだ。ステアリングを切り込んだ際に向きを変える動きは俊敏で、切り返しの際も応答遅れや揺り返しといったリズムを阻害するような動きは現れず、前後だけでなく左右の動きも意のままだ。

「技術による先進」はアウディが掲げるブランドスローガンである。そのDNAは最新のBEVであるQ4 e-tronにも確実に受け継がれていると感じた。BEVだからこそ実現できた心躍る走りは、このクルマの大きな魅力だ(しかも、充分な居住スペースと荷室スペースを備えている!)。

アウディQ4 Sportback 40 e-tron S line
全長×全幅×全高:4590mm×1865mm×1615mm
ホイールベース:2765mm
車重:2100kg 
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
モーター型式:EBJ型
定格出力:70kW
最高出力:150kW
最大トルク:310Nm
搭載電池:リチウムイオンバッテリー
総電力量:82kWh(実質77kWh)
駆動方式:RWD
WLTCモード一充電走行距離:576km
WLTC交流電力量消費率:145Wh/km
車両価格:710万円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…