VWゴルフR | 技術マニアにも走り志向にも刺さる「evo4」に進化したEA888型直4ターボとトルクベクタリング

ゴルフRヴァリアント 車両価格:652万5000円 オプション:DCCパッケージ22万円 有償オプションカラー3万3000円
ハッチバックのゴルフRとステーションワゴンのゴルフRヴァリアントの登場により、VWゴルフのラインアップが完成した。2021年にゴルフとゴルフ・ヴァリアントのガソリンモデル、eTSIとゴルフのディーゼルモデル、TDI、スポーツバージョンのGTIが登場。2022年9月にゴルフとゴルフ・ヴァリアントに「R」が追加され、10月にはヴァリアントにTDIが加わった。
今回は、「ゴルフ史上最もパワフルなハイパフォーマンスモデル」のゴルフRを紹介していきたい。試乗したのはステーションワゴン版のゴルフRヴァリアントだ。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)FIGURE:AUDI

ゴルフRの3つの特徴

全長×全幅×全高:4650mm×1790mm×1465mm ホイールベース:2670mm 車重:1600kg

新しいゴルフRの特徴は3点ある。「エンジン出力」と「ドライビングダイナミクスの向上」、それに「R専用装備の採用」だ。

先代ゴルフRはEA888 evo3の2.0L直列4気筒直噴ターボを搭載していた。新型Rは「evo4」に進化したEA888を搭載する。最大の変化点は最大燃料噴射圧を200barから350barに高めたこと。合わせてフリクション低減などの改良を行なった結果、最高出力は先代比7kW(10ps)増の235kW(320ps)/5350-6500rpmを発生。最大トルクは10Nm大きい420Nm/2100-5350rpmを発生する。組み合わせるトランスミッションは湿式7速DCT(DSG)だ。

evo4に進化したEA888型2.0ℓ直4直噴ターボ
エンジン型式:EA888型 排気量:1984cc ボア×ストローク:82.5mm×92.8mm 圧縮比:9.3 最高出力:320ps(235kW)/5350-6500rpm 最大トルク:420Nm/2100-5350rpm 過給機:ターボチャージャー 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI) 使用燃料:プレミアム 燃料タンク容量:56ℓ

ふたつ目の特徴であるドライビングダイナミクスの向上については、4MOTION(4WDシステム)に触れるべきだろう。従来の4MOTIONはリヤデフと一体化した電子制御多板クラッチユニットにより、走行状況に応じてフロントとリヤのトルク配分を制御していた。新しいゴルフR系の4MOTIONはフロントとリヤのトルク配分を行なうのに加え、後輪左右のトルク配分を制御する仕組みを特徴とする。つまり、トルクベクタリング機能を備えているということだ。

リヤ左右輪間のトルクベクタリングは、いわゆるツインクラッチ式によって行なう。デファレンシャルギヤをなくして(単純にベベルギヤで回転方向を変えるだけ)左右に独立した電子制御多板クラッチを設け、各クラッチの圧着力によってトルク伝達量を個別に制御する(電動アクチュエーターでウォームギヤを回転させるとボールカムが軸方向に動き、クラッチの圧着力を高める)。ハードウェアの多くを共用するアウディRS 3の「トルクスプリッター」とモノは同じだ。

新しい4MOTIONは旋回中の外輪により多くのトルクを配分するのがポイントで、右コーナーでは左側の後輪に、左コーナーでは右側の後輪に多くのトルクを配分する。これを行なうことでヨーモーメントが発生し旋回性を高めることになるが、気をつけなければいけないのはツインクラッチ式の場合、駆動力がないと左右差を作れないことだ。何が言いたいかというと、操舵をきっかけにクルマが反応して狙いどおりに曲がる動きを作るデバイスではない。

乱暴に言えば、「踏めば曲がる」「踏んでから曲がる」システムだ。ドイツ本国のゴルフR系にはRパフォーマンス・パッケージがオプション設定されており、このオプションを選択すると、「コンフォート」「スポーツ」「レース」の標準設定のドライビングプロファイルに、「スペシャル(ニュルブルクリンクモード)」と「ドリフト」のモードが加わる。後者はテールスライドを誘発するモードで、ツインクラッチ式トルクベクタリングシステムの特徴を存分に生かした制御と言えるだろう(繰り返すが、国内仕様には設定がない)。

アウディRS 3の「トルクスプリッター」
ILLUSTRATION:AUDI
アウディRS 3の「トルクスプリッター」の構造図

ドライビングダイナミクスの向上の要素を続けると、ゴルフR系は標準車に対して車高が15mm低められており(ヴァリアントの全高は1465mm)、スプリングとスタビライザー(アンチロールバー)のレートはそれぞれ先代比で10%高めているという。また、フロントサブフレームは(スチールから)アルミ合金化して軽量化しつつ、剛性を向上。ブレーキシステムは先代の17インチから18インチに大型化してストッピングパワーを強化。高いブレーキ圧領域の制御を最適化したことにより、ABSが介入する直前のコントロール性を高めたという。

3つ目の特徴はエクステリア、インテリアに数々のR専用アイテムを採用していること。GTIのテールパイプは2本出しなのに対し、Rは4本出し(左右2本×2)。ディフューザーをグロスブラックで仕上げたのに加え、アウターミラーはマットクロームとしている。アルミホイールは18インチを標準とし、19インチをオプション(写真は19インチ)で設定する。

R専用ファブリック&マイクロフリースシート
ここにも「R」の文字が
シートの形状も「R」らしい

インテリアはR専用のヘッドレスト一体型トップスポーツシートを装備。インパネの装飾パネルはカーボン調となり、メーターパネルにはR専用の表示画面が用意される。

日常で“R”の価値を存分に堪能できる

トルクベクタリングの説明図

御殿場市(静岡県)周辺の一般道を短時間ドライブしただけなので、ゴルフRヴァリアントを隅から隅まで確かめたとは言い切れない。とくに、最大の特徴である後輪左右のトルクベクタリングに関しては語る資格がない。おそらく、やんわり機能しているシーンはあっただろうが、急減速してコーナーに進入し、急加速して脱出するようなシーンは一度もなかったので、なんとも……という感じだ。

しかし、「このクルマは刺激的だ」と断言できる。とくに、ドライビングプロファイルで「レース」を選択したときのムードは格別だ。10インチのタッチスクリーンを操作することでも選択できるが、ステアリングホイールにある「R」のボタンを押すほうが簡単で、素早く、簡単にレースモードに切り換えることができる。

ステアリングに「R」スイッチがある。
レースモードを選択

レースモードに切り換えた途端、クラシックなメーター表示はレーシングカーのディスプレイに表示されるような、シンプルでありながらも機能性を重視したグラフィックに切り替わる。と同時に、エンジン(というより排気)サウンドが腹に響く重低音に変わる。

「コンフォート」と「スポーツ」ではアクセルペダルをオフにした際にクラッチを切り離すコースティングモードに入るため、空走感を感じやすい。慣れるまでは車間距離の調整に戸惑うかもしれない。ところが、「レース」モードではコースティングがオフになり、しっかりエンジンブレーキがかかる。しかも、車速が落ちるにつれて、ヴォン、ヴォンと回転合わせのブリッピングを行ない、シフトダウンしていく。やる気満々だ。「これ、外にあまり響いていないといいんだけどなぁ」と、気恥ずかしくなるほどに派手な演出だ。

この心高ぶる派手な演出を味わってしまうと、いつどんなときでもレースモード一択という気分になる。クローズドコースに持ち込んで振り回さなくても、日常で“R”の価値を存分に堪能できるのが、ゴルフR系のいいところだ。

クロームデュアルツインエキゾーストパイプが付く
VWゴルフRヴァリアント
全長×全幅×全高:4650mm×1790mm×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1600kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:EA888型
排気量:1984cc
ボア×ストローク:82.5mm×92.8mm
圧縮比:9.3
最高出力:320ps(235kW)/5350-6500rpm
最大トルク:420Nm/2100-5350rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:56ℓ
トランスミッション:7速DCT

WLTCモード燃費:12.2km/ℓ
 市街地モード 8.6km/ℓ
 郊外モード 12.3km/ℓ
 高速道路モード 14.9km/ℓ
車両価格:652万5000円
オプション:DCCパッケージ22万円 有償オプションカラー3万3000円

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…