脱・温暖化 その手法 第44回 ー電気自動車用充電インフラについてー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

現在の充電スタンドは6000ヶ所

2009年に電気自動車が販売になった頃、多くの人々から疑問が出たのは充電インフラがないと普及できないのではないか、ということであった。

このことに応えるため、経産省は大きな補助金を出して全国に急速充電スタンドを設けてきた。とくに2012年度の補正予算による補助金のおかげで急速に整備が進み、2015年には全国で約5000ヶ所の充電スタンドができた。それが現在6000ヶ所に増えている。

一方でガソリンスタンドはこのところ年間3%程度ずつ減っており、かつては全国に4万ヶ所あったものが3万ヶ所を切るところまできている。

電気自動車の充電は充電スタンドで約30分の急速充電の他に家庭でも可能であるため、電気自動車の所有者にとって極めて不便であるということではなくなっている。

携帯電話のように便利ならばインフラは後から充実する

さらに新しい技術はインフラが出来てから普及するものではなく、まず製品が売り出されてその普及に応じて整備される。最近の例では携帯電話がそうであり、都心の普及が始まった時には極狭い地域でのみ通信が可能であったが、瞬く間に全国にネットワークが広がった。車についても当初は舗装道路はなかったが普及に連れて舗装され、道が広くなり、さらに高速道路が作られるようになった。これらの普及と比較すると充電スタンド設置にかかる費用は極めて少ないため、電気自動車のより大きな普及に伴い、さらに多くのスタンドの設置がなされていくことは容易に想像出来る。

マンションの住人で駐車場内に充電口を付けることが難しいという意見も聞くが、電気自動車の普及に伴いこのようなニーズが増えればそれを整備しようという働きは必ず出て来る。

CHA DeMO開発の経緯とその特性

ここで、日本の充電技術について触れたい。日本ではCHAdeMOという規格に基づいた急速充電装置が設置されている。これを考えたのは東京電力の姉川尚史氏である。同氏は大学時代にエネルギーに関わることを学びたいと考え、幾つかの選択肢の中から原子力を選んだとのことである。大学の修士課程を卒業後、東京電力の原子力部門での仕事を続けてきたが、2002年に電気自動車の普及を見込み、これが原子力による電力の有効な利用先として考え、それには充電インフラが必要であるとの思いを持ち、専門をこちらに変えてきた。そして生み出したのがCHAdeMO方式で「CHArge de MOve」の略であるが、充電中にお茶でもどうぞという言葉とかけてこの名称にしたとのことである。

慶応大学で2011年に導入したCHAdeMO方式
の充電器。現在のものと比べると、横幅で4倍
ほど大きい。充電プラグは左手の取っ手を開け
て取り出すことができる。

 これは良く考えられた規格で、「電気的ノイズの影響を受けずに充電できる」こと、「車側から電力系統に電気を戻し、他で電力が足りない時には蓄えられた電力を戻すことが可能」であり、充電プラグに相当する部分はガソリンを供給するノズルと同じ形にして、初めての人でも容易に充電可能なことである。

CHAdeMO方式の充電器であることを示すロゴマーク
CHAdeMO方式の充電器の普及のために2010年3月15日に設立
されたCHAdeMO協議会が発行したロゴマークである。 
CHAdeMO協議会は姉川尚史氏らが中心となり、日本の自動車
メーカーはほとんど参加している。
CHAdeMOに対抗する規格としてドイツで生まれたコンボと、テス
ラモーターズのスーパーチャージャーがある。姉川氏によると、先
に掲げた3つの理由からCHAdeMOが最も優れているという。

姉川氏はパリでCHAdeMOの普及活動を行なっていた時に3.11の地震があり、急遽日本に戻り、それから6年間は原発事故の対応に東京電力常務取締役として全力を振るってきた。これが一段落した時期から本社に戻り、現在は同社のフェローという立場であるとともに、充電インフラを普及させるためのe-Mobility Powerという会社を設立し、無給の会長として今でもCHAdeMOの普及に深く関わっている。

駐車場に設置されたCHAdeMO方式の充電器
宇都宮と今市の間の道の駅「ろまんちっく村」で
2023年1月13日撮影。中央の真中より下のとこ
ろにプラグが置かれている。現在の充電器は、こ
こまで小さくなっている。

同氏は現在、洋上風力発電の構想にも関わっている。その基本的な考え方は化石燃料という不安定なエネルギーに頼らなくても日本人が安心して暮らせるエネルギー供給に貢献したいということである。

こうして充電インフラの規格についても日本では優れた技術を生み出し、それの普及がなされている。

これらの技術とリチウムイオン電池、ネオジム鉄ホウ素磁石を含めて電気自動車のための技術が日本人の手により発明され、技術開発が行われて来たわけである。これらを踏まえて、次回はそもそも電気自動車とは何かについて述べることとしたい。

1997年に開発を始めたKAZの2002年のデトロイトモータショーへ出展
この出展のすべての活動は、慶応大学の学生が担った。

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…