脱・温暖化 その手法 第45回  ー電気自動車とは何かー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

内燃機関自動車との違い

第27回以降、電気自動車に関連した内容を書いてきた。

ところで、そもそも「電気自動車とは何か」について明確なことを述べてこなかった。そこで、今回は電気自動車とは何かについて取り上げたい。

私は、この世の自動車には、内燃機関自動車と電気自動車の2種類が存在するものと考えている。内燃機関自動車はガソリンエンジン又はディーゼルエンジンの力で車輪を駆動するものである。電気自動車はモーターの回転力で駆動するものである。

それでは内燃機関自動車の構造であるが、エンジンがあり、クラッチ、トランスミッション、デファレンシャルギヤ、ドライブシャフトが機械的に繋がれて、車輪に動力が伝えられる。この構造はカール・ベンツが内燃機関自動車を発明した直後から変わらない。この構造が必須である理由は、エンジンが極めて低速では回転できず、最低でも800rpm(rpm:1分あたりの回転数)程度が必要であること、また非常な高速でも回すことが出来ず、5000rpm程度が普通であることによる。レーシングカーのように特別に開発したものでは1万rpmを超えるものもあるが、実用的にはエンジンの回転数の幅は広くない。また最大の回転力(トルク)が出る回転数も3000から4000rpmあたりなど特定の範囲に限られるのが一般的だ。このような性能を持つエンジンを利用して、停止状態から高い速度まで車を走らせるためにギヤをチェンジしながら走る必要があり、これでトランスミッションが必要である。またギヤをチェンジする時と、停止状態ではトランスミッションとエンジンの間の機械的な繋がりを一時的に切る必要がある。このためにクラッチが要る。こうして停止状態から高速までエンジンからの回転を調節した上で、左右の車輪に回転力を均等に伝える機械がデファレンシャルギヤである。

構造がシンプルな電気自動車

一方、電気自動車は極めて単純で、電池、回転数の制御器、モーターの組み合わせで走行ができる。

その理由は、モーターには回転数がゼロから高速まで回転させることができるためである。またこれらの部品は電線で繋がれていれば良く、配置が容易である。このため、現在市販の電気自動車はモーターからの力をデファレンシャルギヤを通して車輪に伝える構造を取っているものがほとんどであるが、車輪の中にモーターを挿入するインホイールモーターという考えもできる。

1997年にトヨタがハイブリッド車を売り出した。ハイブリッドは複数の方式を組み合わせたという意味だが、シリーズ型とパラレル型がある。

パラレル型はエンジンの力とモーターの力の双方を車輪に伝えることができ、エンジンの弱点を補強する。シリーズ型では、エンジンは発電のためのみに使い、電気自動車の電池の容量の少なさを補強する。

内燃機関自動車とその変化形
内燃機関自動車は、エンジン、クラッチ、変速ギヤ。差動(デファレンシャル)ギヤ
で構成される。その変化形としてモーターでアシストするパラレルハイブリッド車が
ある。ハイブリッド車でモーター小型化したのがマイルドハイブリッド、電池の量を
増やして充電して走ることもできるのがプラグインハイブリッド車。

トヨタのハイブリッド車はパラレルハイブリッドの要素が強い。一方で日産のe-パワーはシリーズハイブリッドの成功例である。

この他に同じハイブリッドでもマイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド(PHEV)もある。このうちマイルドハイブリッドはトヨタと同じハイブリッド車であるが、ここで用いるモーターの出力を小さくしてアシスト量を減らすものである。またプラグインハイブリッドはハイブリッド車の電池容量を大きくして充電機を用いて充電し、長い距離でなければ電池からの電力のみでも走れることとした車である。

燃料電池車もある。さらに水素自動車もある。水素自動車では燃料電池車と同義で燃料電池の燃料に水素を使うためにこう呼ばれることがある。燃料電池自動車もシリーズハイブリッド車と同様に電気自動車の電池容量をアシストするために用いられるものである。

電気自動車とその変化形 
電気自動車は、電動モーター、電池、インバーターで構成される。
電池の容量をアシストするのがシリーズハイブリッド車、燃料電池
でアシストするのが燃料電池車。

また2022年頃からトヨタでは、内燃機関自動車の燃料に水素を用いるものの商品化も考え始めた。

技術がある分野から新しい技術に変わる時に、多くの変化形が出ることが多い。

筆者は、車は電気自動車に変わっていくという立場でこの連載を書いている。この変化の中で、どのような技術が生き残るかについては

①人間にとって使い易いもの

②効率がよいもの

③構造が単純なもの

の3つの条件が満たされる場合だと考えている。こう考えると、今回述べた多くの種類の新しい自動車の中で、3つの条件に最も良く合うのは電池のみを電源として用いる電気自動車であり、これが生き残る技術だと考えている。

但し、現在の電気自動車は内燃機関自動車に比べて、利用者にとって大きな魅力があるものには必ずしもなっていない。次回は電気自動車にいかにしたら魅力が与えられるかについて述べたい。

2004年に開発したEliica(エリーカ)の初期のスケッチ
このスケッチは、Eliicaのデザインを担当した江本聞夫氏によるもの。Eliicaの
基本概念を8輪車、8輪駆動と決めたことに基づく初期のスケッチである。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…