日産4WD復活の鍵は電動化にあり! エクストレイル&アリアに搭載された「e-4ORCE」は最強の四輪駆動システムか? その実力を氷上でテスト!!

日産の氷上試乗会が開催された。日産の4WD(四輪駆動)モデルを一堂に揃え、その走りを一気にテストできるまたとない機会だ。注目はやはりBEV(バッテリー電気自動車)であるアリアとe-POWERによるモーター駆動のエクストレイルに搭載された新たな4WDシステムである「e-4ORCE」。特にアリアのe-4ORCEは初の4WD・BEVだけに、注目せざるを得ない。
PHOTO:MotorFan.jp/日産自動車 REPORT:MotorFan.jp

日産の4WDといえばスカイラインGT-Rに搭載されたATTESA(アテーサ)E-TSのイメージが強い。FRをベースとしたアクティブトルクスプリット4WDで、R32型スカイラインGT-Rのサーキットでの活躍から、オンロード4WDの印象がある。
また一方で、センターデフ式のフルタイム4WDがU12型ブルーバードSSSやN14型パルサーGTi-Rに搭載され、ラリーなどの競技で活躍している。さらに、オールモード4×4でFFベースの電子制御4WDを設定し、歴代エクストレイルなどはラフロードでの高い走破性が支持を集めていた。

R32型スカイラインGT-Rのアクティブトルクスプリット4WD「アテーサET-S」はFRベース。
U12型ブルーバード(SSS-R)のアテーサはFFベースのセンターデフ式のフルタイム4WD。
T30型エクストレイルの「オールモード4×4」はFFベース版のアテーサET-S的なシステム。

しかし、近年の日産は4WD車のラインナップが少なめだったこともあり、4WDが必須となる地域、特に北海道や日本海側などの積雪エリアでは4WDのイメージはスバルや三菱に水を開けられていたという(柳 信秀チーフマーケティングマネージャー談)。
世界的な電動化の流れを受けて日産が世に放ったBEVのアリア、そして今や日産の技術イメージを牽引するe-POEWRによるモーター駆動車のエクストレイルに搭載された新たな4WDシステム「e-4ORCE(イーフォース)」は、日産4WDの復権の狼煙となるのか?

氷上試乗会に用意された日産車。

その実力を女神湖(長野県北佐久郡立科町)で開催された氷上試乗会で確かめる! 試乗会では日産のそのほかの4WD車なども用意され、同時に試乗することができた。システムや車種の違いによる凍結路面での走り、e-4ORCE以外の4WDの実力も確かめることができた。

そもそも「e-4ORCE」ってどんなシステム?

サイドシルにあしらわれた車名と「e-4ORCE」のプレート。

e-POWERといいプロパイロットといい、近年の日産はキーワードからイメージを構築するのが上手い。e-4ORCEもなんだかすごいEVの4WDシステムである感じは、その文字からも伝わってくる。
システム的には非常に複雑なのだが、要点をまとめるとモーター出力による前後左右の駆動配分などの駆動力やブレーキを統合的に制御することで、走行性能のみならず快適な乗り心地と路面を選ばない安心感を兼ね備える走りを実現したシステムだ。といってしまえは簡単だが、その制御ロジックは通常のe-POWER 4WDから1.5倍の規模に増えている。そのe-POWER 4WDも先代エクストレイルのインテリジェント4×4からすれば3倍の制御を行なっているわけで、e-4ORCEの制御規模は桁違いのレベルになっているのだ。

女神湖の氷上を走るアリアB9 e4ORCE limited。

その効果として、氷雪路での発進加速や旋回時の発生Gの滑らかさ、回生ブレーキによる減速の速さと安定性は従来のメカニカル4WDとは比較にならないレベルに達しているそうだ。
とはいえ、理論上はそうであっても(当然メーカーは実際にテストしているわけだが)、一般ドライバーがどう感じるか……それを実際に乗って確かめてみたい。

e-4ORCEの効果を氷上走行で確かめる

標高1540mの女神湖は完全凍結しており、午後からの試乗ではコース上の雪はほとんどなくなっておりツルツルのカチカチ。いかにもミューの低そうな、タイヤがグリップしなさそうな路面だ。試乗車は当然スタッドレスを履いているが、4WDの性能でどこまで走れるものか……。
試乗メニューは直線や大小のコーナーを組み合わせた往復コースと、定常円、8の字、スラロームが用意されていた。

■アリア × e-4ORCE
2022年6月にデビューしたアリアの4WDモデル。前後にそれぞれ同じ最大出力218psというハイパワーなモーターを搭載し、車重は2.2tというヘビー級。とても氷上で扱いきれる気がしない数値だが、走らせてみるとそれは杞憂に過ぎなかった。
発進時に確かにタイヤはスリップしているのだが、スリップしつつもクルマは真っ直ぐに滑るように走り出す。この”滑るように”というのは比喩ではなく、普通氷上などの低ミュー路で発進する際には、エンジン回転に比して上がらない車速の違和感や、タイヤが空転している感触がドライバーを不安にさせるものだが、そういった感じがほとんどなく走り出す。

アリア B9 e4ORCE limited
SUVなので背は高いが、バッテリーを床下に敷き詰めているので重心は低い。
タイヤはブリヂストン・ブリザックVRX3を装着。
218ps/30.6kgmのハイパワーモーターを前後に2基搭載する。

この発進加速にも驚かされたが、何より好感触だったのがブレーキだ。
低ミュー路でのブレーキはペダルの踏み加減を間違えれば即ロックして真っ直ぐ滑っていく……そんなイメージがあり、できればブレーキは踏まないで減速したい。e-4ORCEはe-POWERでもお馴染みのeペダルの効きがよく、コース上での速度域ではアクセルオフだけで十分減速できた。もちろん、ブレーキを踏んでもABSが作動するのでロックまではいかないのだが、ABSが作動中の振動はわかりやすくはあるが緊張を伴うのでeペダルのタイヤをロックさせずに済む減速の安心感は特に大きかった。

発進時、タイヤは確かに空転しているのだが、車速が出ない以外に空転を感じさせる挙動はない。
空転しつつも動き出せばそのまま加速してくが、加速の仕方も非常にマイルド。気がついたらスピードが乗っている。

適切な速度まで減速できれば旋回もとても安定している。旋回中のアクセル操作に対してはかなり強く制御が入るようで、アクセル操作によるドライバー側の姿勢制御は受け付けないのではないかと思うくらいの安定志向に感じられた。
また、その制御の内容や速度を確かめるべくステアリング左右に振ってみたが、普通ならリヤに慣性が働いて車体が振られそうなところも制御が入ってほぼ瞬時に車体の動きが収まるのには驚いた。
とは言え、流石に2.2tの車重にある程度の速度が乗ってしまうともう物理法則的にクルマ側の制御可能な範囲から出てしまうのは致し方ないところ。そんな時にはむしろ慌てずちょっと我慢すれば、制御範囲内に戻ってきた時にサっと回復してくれる。

e-Pedalによりアクセルオフだけでスムーズに減速していく。
多少振り回そうとしても、制御が介入し安定方向に収められる。

抜群の安定感と落ち着いた乗り心地で氷雪路を走れるのは流石に車格に見合った仕上がりだ。一方で、クルマや路面からのインフォメーションが弱く、そう言った情報を頼りに運転するタイプのドライバーは違和感を覚えるかもしれない。しかし、そういったドライバーの方が少数派であり、一般のユーザーからしてみればアリアの氷雪路での安心感は実に頼もしく感じるだろう。

アリアならではの”世界観”づくりにこだわったコックピット。
走行は「SNOW」モードをe-Pedalで行なった。
シフトはレバー式でわかりやすが、タッチ式のドライブモードセレクターやe-Pedalのスイッチは初見だとわかりにくい。
とはいえ、凹凸のないタッチパネルの醸し出す高級感は群を抜いている。

交差点を一つ曲がるだけでも緊張感を伴うスノードライブでも、e-4ORCEの安心感があれば緊張や疲労の蓄積も軽減され、雪道を安全に走ることができるだろう。氷雪路を快走するよりも安心して安全に走り切るのにとても有用なシステムだ。

■エクストレイル × e-4ORCE
e-4ORCEを搭載したもう1台はエクストレイルである。初代からアウトドアやスポーツを楽しむアクティブユーザーに愛されているモデルであり、歴代モデルでも「オールモード4×4」シリーズで、走破性をアピールしてきている。それがe-POWERによるモーター駆動になり、4WDシステムをe-4ORCEとして全く刷新されたのがこのモデル。
“エクストレイル”に期待される走破性を、e-POWER×e-4ORCEで実現することはできたのだろうか?

エクストレイル G e-4ORCE

ボディサイズ自体はアリアとほぼ同じだが、アリアよりも車高が高く(アリア:1665m/エクストレイル:1720mm)ホイールベースが短い(アリア:2775mm/エクストレイル2705mm)。車重こそアリアより330kg軽い(アリア:2210kg/エクストレイル:1880kg)が、発電用のエンジンも搭載しており重心位置や前後重量比(アリア:51:49/エクストレイル:58:42)はアリアよりもパッケージングとしては条件は厳しい。

エクストレイル G e-4ORCE
エクストレイル G e-4ORCE
KR15DDTエンジン

実際に走らせてみると、車高とそれに伴う着座位置の高さからアリアと比べて腰高感があり、クルマの動きもインフォメーションもアリアよりは大きい。制御の介入や緻密さもアリアほど強烈ではなく、既存のクルマ、4WDシステムの延長線上にあるように感じられた。
かといって、それがアリアに対して劣っているのかといえばそういうわけではなく、氷雪路においても申し分なく加減速し、適切な速度域であれば安定感のあるコーナーリングを見せる。定常円でもアクセルコントロールで一定舵角のまま旋回を続けられる。

アリアに比べるとオーソドックスなエクストレイルのコックピット。
シフトレバーはアリアと共通のインターフェース。ドライブモードセレクターはダイヤルタイプでわかりやすい。
プロパイロットやEVモード、e-Pedalのスイッチは物理ボタンになっており、確実な操作感が好ましい。
試乗車のスタッドレスはやはりブリヂストンのブリザックVRX3。

基本的にスノーモードで走っていたがノーマルモードも試してみると、スタッドレスタイヤを履いたフツーの4WD的な動き……アンダーステアやアクセルオンによるパワーオーバーステアが如実に現れる。逆にいえば、スノーモードはそういた動きがe-4ORCEの優れた制御により抑え込まれており安心感のあるドライビングが可能になっていると言える。

アリアほどの衝撃はなかったものの、そのe-4ORCEの制御による安定感のある走りはやはり頼もしく、ユーザーがエクストレイルに求める走破性は十分”以上”に備えていると言える。これならウインタースポーツを楽しむアクティブユーザーも満足できる仕上がりだ。

アリアとエクストレイルのe-4ORCEの違いと強み

とにかく不安要素になりそうな動きやインフォーメーションをカットして安心感と高級感を感じさせるアリアに対し、エクストレイルはインフォメーションとクルマの動きはまだ大きく、そこにはガソリンエンジンのメカニカル4WDの面影をわずかに残す。制御の度合いもアリアよりは強くないのではないかと感じさせる動きだ。その設定の違いはクルマのキャラクターに負うところも大きく、アリア(B9 e4ORCE limited)とエクストレイル(G e-4ORCE)の340万円の価格差もあるかもしれない。アリアは明確に高級車の作りになっていると感じた。

アリアのe-4ORCE制御は車重を感じさせることもあるが、スキッドパッドでも抜群の安定感を見せた。

アリアとエクストレイルでその差を特に感じたのが加速の力強さであり、これはアリアが前後に同じ218ps/30.6kgmのモーター(AM67)を搭載しているのに対し、エクストレイルはフロントは204ps/33.7kgm(BM46)と同程度のパワーだが、リヤは136ps/19.9kgm(MM48)と控えめになっているからと思われる。

高めの重心高ながら雪上のパイロンスラロームも無難にこなすフットワーク。

基本的なe-4ORCEのシステム自体はアリアとエクストレイルで違いはなく、基本的にプログラムによる設定が異なっているという。制御設定の違いはそれぞれのクルマに最適化されたもので、搭載するクルマの素性と合わせて乗り味や制御具合は変わってくるそうだ。

日産は「e-4ORCE」と銘打ってアピールしているこのEV用4WDシステムだが、すでにテスラやボルボなどでも2モーターによる4WD・EVを販売している。中にはアリアよりもハイパワーなモデルもある。そのような状況でe-4ORCEの強みはどこにあるのだろうか?
日産自動車パワートレイン・EV技術開発本部で電動パワートレーン開発を担当するの伊東亮祐氏は「e-4ORCEの強みは統合制御の緻密さにある」と語る。パワーに関してはコストをかければいくらでもハイパワーのモーターを搭載することはできるが、e-4ORCEの統合制御技術はトップクラスであると自負しているという。

では、基幹システムがすでにあり、プログラムの仕様変更で適合できるのであれば他のモデルも先々e-4ORCEに切り替わっていくのだろうか? 特にアリアと同じBEVだが現状ではe-4ORCEを採用していないオーラにも搭載できるのではないだろうか?
日産自動車パワートレイン・EV技術開発本部エキスパートリーダーの平工良三博士は「開発側としては日産の4WDは全てe-4ORCEにしたいくらい」と語る。一方で前出の柳 信秀チーフマーケティングマネージャーは、将来的な可能性を示唆しつつ現状ではユーザーの納得できる価格と性能のバランスで適材適所のシステムを搭載しているという。
e-4ORCEの良さは確かなものだが、e-4ORCE以外の4WDも氷雪路をそうはするのに十分な性能があることも改めて確かめてみたい。ただやはり、これだけ良いシステムなのだから、より広い車種に展開されることを期待したくなる。

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