
『トミカ』のNo.102は『日立建機 リジッドダンプトラック EH3500ACII』です。リジッドダンプトラックとはダンプトラックの中でも大型土木工事の現場や鉱山などで活用される大型の車両で、乗用車と同様に前輪で舵を取る機構を備えたものを言います。「リジッド=曲げられない」とは、連結列車のように車体自体が屈曲することで舵を取るアーティキュレート式に対置して付けられた名称です。いわゆる重ダンプトラックに分類され、基本的には公道走行は不可能です。採石場や鉱山などで用いられる車両を特にホウルトラック、あるいはマイニング(鉱石場)・ダンプトラック、ダンパーなどと呼びます。


JCMA(一般社団法人 日本建設機械施工協会)によると、リジッドダンプトラックはコマーシャルトラックをベースに、米国ユークリッド社によって1934年に開発された15t積みダンプトラックが最初と言われているそうです。国内で最初に使われたのは、1953(昭和28)年に着工した佐久間ダム建設工事で、ユークリッド社製の15t積みが使用されました。その後、御母衣ダム工事には20t積み、九頭竜ダム工事には27t積みと、次々と大型化された輸入車が使用されています。国産車では国土復興事業と政府の国産化政策により、1956(昭和31)年に国産の15t積みが開発されて佐久間ダムに投入されています。
性能、機能からみると、現在のリジッドダンプトラックの原型ができたのは1957(昭和32年)ごろで、トルクコンバーター付きトランスミッションとハイドロニューマチックサスペンションが採用されていました。
積載時の長距離降坂時に十分な連続ブレーキ容量(いわゆるリターダ)としては、油を攪拌することによりエネルギーを吸収するハイドロリックリターダが一般的でしたが、1962(昭和37)年に開発された32t積みでは後輪に油冷多板式ブレーキが採用されました。また、大型化と運転居住性向上要望に伴い1975(昭和50)年に発売された46t積みでは電子制御式フルオートマチック式トランスミッションが採用され、その後一般的となっています。
生産性向上の面からは重量当たりエンジン出力が増加され、32tクラスのエンジン出力は1965年あたり(昭和40年代半ばごろ)には300kW未満であったものが、現在では約380kWになっています。安全性の点ではエマージェンシーブレーキとエマージェンシーステアリングがほとんどの機種で標準装備されるようになっています。

さて、『トミカ』になっている日立建機のリジッドダンプトラックは、世界の大規模鉱山で掘削した資源を効率良く運搬するために開発された車両です。それまでボルボ・ミシガン・ユークリッドのリジッドダンプR60などを輸入販売していた日立建機は、2000年にユークリッド社と協力し、ユークリッド日立としてEHシリーズ(Eはユークリッド、Hは日立をあらわす)のリジッドダンプトラックを開発しました。このシリーズの中でもEH5000AC-3 は国産車最大級の積載量を誇っています。

さて、『トミカ』になっているリジッドダンプトラック EH3500ACIIは2008年にデビューしましたが、この車両には走行装置として日立製作所と共同開発したAC電気駆動装置が採用されています。これは一般的にはディーゼル・エレクトリツク方式と呼ばれる駆動方式で、ディーゼルエンジンで発電機を回して発電した電力を、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor=絶縁ゲート型バイポーラトランジスター/電力の制御や供給を行なう半導体)インバーターを採用したコントロールキャビネットで制御しながら、AC(交流)ホイールモーターを駆動させることで、高度な車体制御による安定的な走行を実現するもの。最近では乗用車でもよく見られるようになった、いわゆるシリーズ式ハイブリッド方式の一種で、従来の機械式に比べて操作性やメンテナンス性の向上、車体のスリップやタイヤのロックなどを緩和する車体安定化制御が可能であるといった利点があります。

なお、EH3500ACII に搭載されている最高出力1491kWのカミンズ製 QSKTA50-CE型ディーゼルエンジンは、優れた信頼性と低燃費を実現するとともに、米国EPA Tier2の排出ガス規制にも対応した環境にもやさしいエンジンです。加えて日立のACホイールモーターは整流子やブラシがないため、メンテナンスコストの削減、トラックの稼働率や走行速度の向上など、トラックの性能を向上させることができます。この、稼動率と走行速度の向上は、生産性の向上とトン当たりのコスト削減につながります。また、インバータモジュールは、高剛性でトラックの制御性と効率性を高めます。
さて、ボックスセクションと長方形のフレームレールで構成されたEH3500ACIIのフレームは、曲げやねじりに強い構造になっています。また、上下のフランジが一体化しているためクロスメンバーのつなぎ目がなく、センター部分の露出度が高いため、主要部品へのアクセスが容易なものになっています。ボディに目を向けると、全長にわたって水平スティフナーが荷重の衝撃を分散させることで、応力集中を最小限に抑えています。また、スティフナーの間隔を狭くすることで、支持されていない部分の距離を短くし、保護性を高めています。つまり、寿命が長いフレームとタフなボディを備えているという事です。運転手の死角を補うために全周囲安全確認支援装置SkyAngle(スカイアングル)を搭載している点も見逃せない特徴です。

このシリーズの派生車両として、登坂路などに敷設された架線に流れる電力を車体上部に搭載されたパンタグラフによって、あたかも電車のように取り込むことで、車載のエンジン=発電機を使わずに走行可能とした「トロリー受電式」リジッドダンプトラックがあります。これは架線区間で約2倍の速度を実現しており、エンジン負荷低減によるメンテナンスコストとCO2 排出量の抑制により、運用コストの低減と環境負荷の低減に同時に貢献しています。これは高速鉄道の車両製造なども行なってきた日立グループならではのユニークな利点と言えるでしょう。
さて、『トミカ』の『No.102 日立建機 リジッドダンプトラック EH3500ACII』は、実際には長さ13メートル以上、高さ7メートル弱という、2階建て家屋のような大きさのダンプトラックが持つ迫力やユニークなデザインを的確にとらえています(そう、『トミカ』のEH3500ACIIの前方に斜めに走っているのは、実車では“階段”なのです!)。また、ダンプトラックならではの、荷台の上下動アクションも楽しめます。

そしてこの巨大なダンプトラックには、実は同じように巨大な“相棒”がいます。2023年1月現在、『トミカ』のNo.25として発売されている『日立建機 ローディングショベル EX8000-7』がそれで、実際の鉱山や採掘現場、あるいは大型土木工事現場では、このローディングショベルが掘り出した土砂などをリジッドダンプトラックに積み込む光景がよく見られます。ぜひコンビでそろえてあげたいですね。
■リジッドダンプトラック EH3500ACII 主要諸元
全長×全幅×全高(mm):13510×8990(サイドミラー含む)×6770(荷台水平状態)
ホイールベース(mm):5620
トレッド(前後・mm) :5500/4320
車両重量(kg/NET):141000
ペイロード:168トン(公称)
エンジン形式:カミンズQSKTA50-CE型 V型16気筒ターボディーゼル
総行程容積(cc):50300
定格出力(グロス):1491kW(2028ps)/1900min-1(rpm)
(ネット): 1398kW(1900ps)/1800min-1(rpm)
最大トルク:7871Nm(802.6kgm)/1500min-1(rpm)
車輪駆動電動機:日立 EFFO-KK型 空冷ACモーター×2
電動機出力:620kW
減速ギヤボックス: CPS-625DD型×4
遊星減速比:35.2
最高速度:56km/h
サスペンション(前/後):ストラット/リジッド
ブレーキ(前後):ディスク
タイヤサイズ(前後): 37.00R57 E4 ラジアル/リム幅686 mm(27 in)