脱・温暖化とその手法 第46回 ー電気自動車が魅力を持つにはー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

欲しいものが普及する

我々は、まったく新しい技術を使った製品を手に入れてきた。

レコードがCDに替わった。カメラがデジカメに替わった。携帯電話が出てきた。スマートフォン(スマホ)を手に入れた。テレビが液晶になった。それらは、誰かに強制されて買ったものではない。欲しかったから自らが支払って買ったものだった。

何故それを買ったかについては、第45回で述べたことを繰り返すと、「使い易く」、「効率が良く」、「手に入れられる価格」だったからだ。

電話を例に取ろう。電話の発明に関する人々は何人かいるが、最も有名なのはグラハム・ベルで、その特許は1875年4月6日に発効した。

それから約100年経って、肩掛け携帯が生まれたが、サイズが大きかったために広くは普及に至らなかった。1980年にモトローラが手のひらに載る携帯電話の販売を始め、1989年にマイクロタックがポケットに入るサイズとして初めて世に出た。

それから本格的な普及時期に入るのだが、日本では1995年から2002年にかけてほとんどの人々が携帯電話を持つようになる。

その理由は、先に上げた普及する技術の3原則、「使い易く」、「効率が良く」、「手に入れられる価格」に当てはまっていたからだ。

その後携帯電話はスマホに代わられた。そして今、従来の携帯電話の利用はほんのわずかになってほとんど誰でもがスマホを持つようになっている。

スマホは携帯の進化形と考えると、技術が普及する3原則に当てはまらず、消費電力は大きく、価格も高い。

ところがスマホをパソコンの進化形と見ると、見事に3原則が当てはまる。

パソコンに携帯の機能が付き、かつ大きさが手のひらサイズになった。これでとても使いやすい商品になった。

効率はというと、パソコン程電気は消費しない。価格もパソコンより安価である。ということで、今では電話とパソコンに関することはすべてスマホで済んでいる。

電気自動車は欲しいものになるか?

この変化を自動車に置き換えてみる。今、内燃機関自動車が電気自動車に代わろうとしている。この変化は本物である。何故なら、世界的には2022年に700万台もの電気自動車が販売されているからである。

但し、見た目はどうか。どれもこれまでの内燃機関自動車と同じである。機能はどうか。これも大きくは変わらない。異なるのは車輪を駆動するのがエンジンかモーターかの違いである。

電気自動車の利用者の利点は何かといえば、CO2排出が少ないという点で明らかに価値はある。利用者の直接の利点としては、大きな加速力を出すことが難しくないということがある。またエネルギー補給のために、必ずしもガソリンスタンドに行かず家庭でも充電ができる。

しかし航続距離は必ずしも十分でない、という問題はまだ残っている。

では、電気自動車の魅力と高めるにはどうしら良いかについてであるが、これは私が電気自動車の研究を始めようと思った40年前から考えてきたことである。

まず大事なことは、内燃機関自動車の原理から出来るだけ離れるべきだと考えた。そして思いついたのが、モーターは車輪の中に入れるインホイールモーターという形が良いだろうということだ。

インホイールモーター
筆者が社長を勤める株式会社-Gle(イーグル)で開発している
G4と名付けるインホイールモーター。アウターローターで回
転力を車輪に直接伝えるダイレクトドライブで、分数溝構造を
特徴としている。

また車体を支えるフレーム構造は電池容器と兼用にするのが良いと考えた。バッテリービルトインフレームといっている。もうひとつ、車輪は電車と同じように8輪にすれば良いと思った。

バッテリービルトインフレームとモーターの関係
車体の床下中央に中空構造のフレームを設けこれで車体を
支えると同時に、フレーム内に電池を収納する。電池容器
とフレーム構造が一体化できるために車体が軽くなり、重
心が低くなり、床から上の有効空間を広げることができる。

このような考えの根底にあるのは、できるだけ電力を使わずに走れ、構造が単純で作り易くし、利用者にとって床から上の空間を出来るだけ広く取りたいということであった。

そして生まれたのが2002年に作ったKAZであり、2004年に完成させたEliicaであった。さらには2011年にできた大型の電気バスのSAKURAである。

今、この考えは電気自動車の世界では認知されていない。恐らく間もなく、これらの技術が一斉に取り入れられる時代が来るだろう。

こうして、電気自動車は、より価値の高い車として成長することになるだろう。とは言え、それでもまだ肩掛け携帯の水準だと思っている。

1995年以降に我々が手に入れた携帯電話になるには、もうひとつの変革が必要だ。

次回はその変革について述べたい。

Eliica初期スケッチの一例。

キーワードで検索する

著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…