常に『トミカ』でトップクラスの人気を誇るスタイリッシュなはしご車は、今なお世界で活躍中! トミカ × リアルカー オールカタログ / No.108 日野はしご付消防車(モリタ・スーパージャイロラダー)

発売から50年以上、半世紀を超えて支持される国産ダイキャストミニカーのスタンダードである『トミカ』と、自動車メディアとして戦前からの長い歴史を持つ『モーターファン』とのコラボレーションでお届けするトミカと実車の連載オールカタログ。あの『トミカ』の実車はどんなクルマ?
No.108 日野はしご付消防車(モリタ・スーパージャイロラダー) (はしご伸縮・上下・旋回/希望小売価格550円・税込)

消防車には、火災や災害、事故などそれぞれの事件や現場に合わせて様々な種類がありますが、その一つがはしご車です。はしご車は、主に高所での消防活動を容易にするために製作された車両で、火災時など、ビルの高層階に取り残された人の救出や高所からの放水活動および警戒活動を行ないます。

モリタ スーパージャイロラダー(30mはしご車)実車フロントビュー(現行2代目モデル)*『トミカ』のモデル車両と同一規格ではありません。(PHOTO:モリタ)

はしご車に搭載されるはしごは、日本では最低10mから最大50m(規格地上高5.3m)届くものがあり、国内最長は54,7mだそうです。ビルの1階の高さは概ね3mとされますので、ほぼ18階の高さまで届くことになります。

かつて1970年代に日本でも大ヒットしたアメリカのビル火災映画で「消防隊の装備で確実に消火できる高さは17階までだ」というセリフがありましたが、高さについてはその時から現在までほとんど変わっていません。実はこれには理由があります。高いところまで届くような長いはしごを積むと車体を大きくしなければなりません。そうなると道が狭いところなどでは進入が困難になったり、はしごの稼働範囲に制限が出てきてしまいます。さらに、自動車としての大きさや、道路を走る場合の大きさや重さなどの法律上の制限があり、いくら特殊車両とは言っても、これに従わなければなりません。その限界が、世界中どこでも基本的に最大50mほどになるのだそうです。

このような法律や道幅、技術的な問題などから、日本では主に30mタイプのはしご車が標準車両として多く用いられているそうです。また、高層ビルやマンションの多い地域では40~50mの長いタイプが、道の狭い地域や中層ビルやマンションが多い所では10~20mの短いタイプのはしご車が配備される傾向にあるそうです。

モリタ スーパージャイロラダー 先端屈折式はしご車仕様 実車フロントビュー(現行2代目モデル)*『トミカ』のモデル車両と同一規格ではありません。(PHOTO:モリタ)

さて、はしご車は大きく3つの種類に分けることができます。まず、ビルの高層階に取り残された人の救出やはしご先端に位置した消防隊員による高所からの放水活動および警戒活動を行なう通常タイプのはしご車。はしご先端の手前の数mの位置ではしごを屈折させることにより、電線などの障害物(架線障害物)を避けてはしご先端を目的位置に接近させたり、セットバックして道路から離れている建物に接近させたり、あるいは高速道路などで壁を越えてはしご先端を下ろしたりしやすい先端屈折式はしご車。そしてはしごに人を乗せるのではなく、先端に放水銃や破砕用クラッシャーなどを装備して消防隊員が近づけない場所へ放水を行なう高所放水車(屈折放水塔車、スクアート車)です。

これらのはしご車で日本国内で最も多数を占めているのが株式会社モリタホールディングス(以下、モリタ)の製造する車両です。一般にトラックは、自動車メーカーの製造するトラックの車体に、設備や装備専門のメーカーがそれらを装備することでオーダーメイドで作られます。トラックに搭載する設備や装備を開発・製造し、トラックの車体に取り付けるメーカーのことを架装メーカーと言いますが、消防車の代表的な架装メーカーにひとつがモリタです。

モリタ スーパージャイロラダーに装備される、自動的にはしごを水平に保つジャイロターンテーブル。(PHOTO:モリタ)
モリタ スーパージャイロラダーに装備される、地上と階上とをエレベーターとなって多くの要救助者を迅速に救出するのに役立つリフター装置。(PHOTO:モリタ)

モリタの独自開発により1985年(昭和60年)からリリースされているはしご車が『スーパージャイロラダー』シリーズで、はしごの起伏角度は-10~75度、仰角のみではなく、俯角、すなわち斜め下方向にはしごを伸ばすことが可能な点が特長です。たとえば水難事故などで、はしご車の位置よりも低い位置に要救助者がいる場合に、これは有効な機能なのです。また、バスケットやリフター装置など、様々な現場に対応できる機動力をはじめ、自動的にはしごを水平に保つ“ジャイロターンテーブル”、急激な動作による危険を防止する“操作速度自動制限装置”、誤作動による事故を防止する“インターロック装置”など、さまざまな最新の制御技術が搭載されています。

この『スーパージャイロラダー』シリーズのうち、日野自動車(以下、日野)がはしご車用に専用設計したMH型シャシーを用いて1991年に登場したのが『スーパージャイロラダー MH』で、『トミカ』の『No.108 日野はしご付消防車(モリタ・スーパージャイロラダー)』は、この車両をモデル化しています。この『スーパージャイロラダー MH』は日野とモリタの共同開発車となるため『トミカ』の製品名もこのような形となっており、製品のフロント部分には実車同様に日野とモリタ双方のロゴが入れられています。なお、搭載するはしごの長さは日本国内で最も多い30~40mに対応しています。

モリタ スーパージャイロラダーのキャビン内。各種の操作系が整然と配置されている。(PHOTO:モリタ)

今までにない直線基調のデザインの『スーパージャイロラダー MH』はグッドデザイン賞を受賞した優れたデザインの車体に日野製のF17E型V型8気筒ディーゼルエンジンを搭載し、ドイツのZF社製のオートマチックトランスミッション(AT)を組み合わせていました。3軸車はインパネ組み込み型のボタン式、実質的に東京消防庁仕様とも言える2軸車はフロア式のシフトでした。ブレーキはフルエア式でABSも標準装備されるなど、走行安全性能も抜かりのないものとなっており、3軸車には4輪操舵システム(4WS)も組み込まれました。

現在では『スーパージャイロラダー MH』は2003年に登場した2代目モデルの『スーパージャイロラダー MHII』となっていますが、『トミカ』で再現されているのは、キャビンのサイドウィンドウの四角い形などから見てこの初代モデル(後期型)、その30mはしご車仕様ではないかと思われます。

神奈川県伊勢原市からパキスタンに寄贈されたスーパージャイロラダー初代モデル40mはしご車。『トミカ』のモデル車両に近い仕様。パキスタンでも市民の生活を守り続けている。(PHOTO:伊勢原市)

ちなみに現在最新の2代目モデルでは、キャビン部分のサイドウィンドウの下端が前に行くほど大きくなるよう斜めに切られた変則的な形状となっており、エンジンは同社の大型トラック『プロフィア』と同じA09C型直列6気筒ディーゼルエンジン(初期型はP11C型)に変更され、全車フロアシフト式のATになっています。また、警光灯はLED式が採用され、キャビン上部とフロントバンパー部分に埋め込まれています。

神奈川県伊勢原市からパキスタンに寄贈されたスーパージャイロラダー初代モデル40mはしご車の現地での放水訓練の様子。(PHOTO:伊勢原市)

2023年2月現在では、日本国内ではほとんどの車両が2代目モデルと置き換えられていますが、これら日本で活躍した初代モデルの何台かはジョージアやパキスタンなどの諸外国へ寄贈され、今なお第一線で市民生活の平穏安寧を守っているそうです。

『トミカ』の『No.108 日野はしご付消防車(モリタ・スーパージャイロラダー)』は、グッドデザイン賞を受賞した初代モデルの特徴的なスタイリングを上手く再現しています。また、はしごが伸縮・上下・旋回する、はしご車ならではのギミックも楽しい1台となっています。

■モリタ スーパージャイロラダー MH(2代目モデル) 30mはしご車仕様 主要諸元 (『トミカ』モデル車種と同一規格ではありません)

シャシー:8t車級

全長×全幅×全高(mm/各部寸法は概算):9840×2495×3650

はしご構造:4連構成トラス組立

最大地上高(m):30.5

最大作業半径(m/はしご先端横桟):20.2

起伏角度(°):-17~75

バスケット積載荷重(kg):450

リフター積載荷重(kg):300

最大傾斜矯正角度(°):7

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