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“メタバース”というキーワードが注目を集めている。自動車メーカーもこのメタバースの利用を模索しており、日本のメーカーでは日産が特に力を入れているように感じられる。
でも、そもそもメタバースとはなんなのだろうか?
■メタバース インターネット上に構成される「仮想空間」であり、「アバター」と呼ばれる自身の分身となるキャラクターを用いそのかそう世界で活動する。精細な3Dグラフィックで描き出されるリアリティのある世界で、現実と変わらない、またはそれ以上の活動が行なえる。
つまり、以前はバーチャルリアリティ(VR)と言っていたものがメタバースに置き換わったというのがわかりやすい見方だ。古くは『ウルティマオンライン』などのMMORPGや、『Second Life(セカンドライフ)』があったが、近年のソフトウェア、ハードウェアの進歩により、以前よりも身近になったことから2021年頃から盛り上がりを見せている。
メタバース活用に熱心な日産
新型コロナウイルスの流行もその流れに拍車を掛け、開催が自粛されたイベントがVR/メタバースを利用したオンライン開催となったり、メタバースショールームを設置するなどメタバース空間の利用が進んできている。
自動車メーカーではフィアットが北米でメタバースストアを開設したニュースも記憶に新しい。日産はバーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING(ニッサン クロッシング)」をメタバース上に開設し、銀座の同名の拠点と連動したイベントを開催。さらにゲーム型コンテンツの「NISSAN EV & Clean Energy World」を展開するなど、特に熱心に利用を模索しているようだ。
そして今回、日産はメタバース上に”ディーラー”を開設した!
「NISSAN HYPE LAB(ニッサン・ハイプ・ラボ)」というメタバースのプラットフォームで、ディーラー同様にクルマを見たり、スタッフに相談したり、最終的には購入まで可能なサービスなのだ。
日産はすでにアリア専用の会員サイト「クラブアリア」でのバーチャル市場や購入比較検討、予約注文まで行っており、バーチャルショールーム自体は今ではさほど珍しいものではない。NISSAN HYPE LABOはメタバース空間での見積もりやクルマの相談、購入はもちろん、アバターを使用したり、他のユーザーやスタッフとコミュニケーションできるようになっている点が新しい。
「NISSAN HYPE LAB」は、近年では『フォートナイト』のヒットで有名なアメリカのゲーム会社大手「Epic Games」が提供する3D制作ツール「Unreal Engine5」を利用して開発されている。「Unreal Engine」は前述の『フォートナイト』をはじめ、同社のヒット作の原動力にもなったシステムで、「最も成功したゲームエンジン」としてギネスにも記録されている。
このシステムを使用することで要求スペックを抑えながらリアルな世界を描くとともに、自然な操作感も実現している。こうしたゲームに親しむ層にはより身近に感じられるだろう。
NISSAN HYPE LABの目指すところ
すでに電気自動車大手であるテスラは車両は全てオンライン販売になっており、クルマのような高額な商品でもインターネネット上で購入する意識的ハードルは確実に下がっているという。
また、それは極端な例としても、なかなかディーラーに足を運ぶ時間がない、ディーラーが近くにない、といった時間的・空間的制約や、相談はしたいけど、ディーラーに行ったら買わないといけない雰囲気になるんじゃないか? 興味はあるけど敷居が高い雰囲気、と言った意識的な制約が思いの外大きい。
そこで、インターネットでカタログを見る感覚で、それでていさらに詳しい情報をリアルに閲覧でき、さらに興味が沸いたり詳しいことが聞きたくなったらスタッフに相談できる空間を提供するために生まれたのが「NISSAN HYPE LAB」なのだ。
メタバース空間を利用することで、友人やパートナーと距離的制約を気にすることなくディーラー=NISSAN HYPE LABでクルマを見ることができ、彼らを交えながらディーラーのスタッフを相談も可能。
さらに、パーソナルルームではより3Dシミュレーターによる、より詳細なクルマのディテールが見ることができるだけでなく、ボディやインテリアのカラーやオプションの変更などもシミュレートし、グラフィックとして見ることができるのだ。
360°ドライビングビューでは、そのクルマが走っているシーンを見ることができ、ドライバー視点や第三者視点の切り替えも可能になっている。
また、NISSAN HYPE LABで使用するアバターは、それこそゲームのように性別や身長、体格、髪型、ファッションなど自由に設定することができるほか、ダンスなどのアクションをアバターにさせることもできるなど、ゲーム感覚で楽しむこともできるのが面白い。
実証実験からその先へ……さらなるNISSAN HYPE LABの可能性
今回、3月8日から6月30日まで、日産東京の協力で東京地域限定での実証実験としてスタート。日産東京は9名の担当カーライフアドバイザーを準備し、NISSAN HYPE LAB内でのお客様対応にあたることになっている。
山口稔彦部長は、NISSAN HYPE LABの可能性を示唆しながらも、これがディーラーへの新たな入口になって欲しいとも述べている。やはり、最終的には実際に触って操作して運転して、日産のクルマの良さを実感してほしいという思いがあるという。
NISSAN HYPE LAB 実証実験 実証実験期間:2023年3月8日〜6月30日 対応端末:PC(Windows)、タブレット、スマートフォン 使用料:無料 営業時間:年中無休・24時間 スタッフ対応時間:11時〜20時 スタッフ対応言語:日本語
わずかな時間ながらこのNISSAN HYPE LABを体験することができたが、さすがにこれから実証実験というだけあってまだできることが限られているのは確か。しかしツールとしての可能性は非常に大きいと感じた。
アバターのバリエーションを増やすといったことはもちろん、今はまだ郊外の1ルートしかない360°ドライビングビューの背景やルートが増えると面白い。また、外観は昼夜の2パターンで表示できるので、これが360°ドライビングビューでも可能になったり、ヘッドライトの照射範囲をドライバー視点から見ることができるととても有用だ。実際に運転している際にはあまり遭遇したくない自動ブレーキの体験も可能だろう。
3Dシミュレーターでは、現在は前席までだが後席やラゲッジルームも含めたインテリア全体の閲覧もしたいし、シートのスライド量や格納方法、ラゲッジルームへの荷物積載シミュレーションもできれば購入の際の参考にしやすくなる。
さらに、画面を拡大してスイッチ類の配置が詳細に見ることができたり、そのスイッチでどこがどのように作動するのかが分かれば、納車時までに操作方法を覚えることもできる。
そういった利用上のアップデートはもちろん、すでに日産の他メタバースでも展開されているようなイベント開催などでより盛り上げていって欲しいとも感じる。
メタバース利用は、出だしこそ話題性で盛り上がるものの、その後尻すぼみになっていくことも少なくないという。継続的に話題づくり、イベント展開を行うことで、より大きく育っていく可能性を秘めている試みと言えるのではないだろうか。