ロードスターNR-A、筑波サーキットで二日間の集中特訓! MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」

バーチャルの世界で活躍するドライバーに、“リアル”の場で本格的にドライビングを学んでもらうのが、MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の目的だ。実際にどのようなプログラムが行われているのか。3月に筑波サーキットで行われたイベントで、関係者に話を聞いてみた。
REPORT:出来利弘(DEKI Toshihiro) PHOTO:MAZDA

リアルデビューへの敷居を下げる魅力的なプログラム

マツダは2030年に向けて、ファンイベントや安全にクルマを楽しむためのセーフティドライビングスクール、参加型モータースポーツなど「クルマのある生活」を通じて、マツダファンが活き活きと暮らす「愉しさ」と「生きる歓び」を実感できる機会を積極的に増やしていこうとしている。

その一つに「倶楽部MAZDA SPIRIT RACINGチャレンジプログラム」があり、昨年開催され、話題を呼んだeSPORTS大会「MAZDA SPIRIT RACING GT CUP 2022」は「バーチャルからリアルへの道」として「グランツーリスモ」というバーチャルの世界で3000人もの挑戦者がエントリーし、上位を争った。

成績優秀者20名には筑波サーキットで「リアルなクルマの楽しさを体験してもらう」機会が与えられ、10名ずつ分けて1回目は2月16日、17日の2日間、2回目は3月8日、9日の2日間でプログラムが行われた。

選抜者20名の中からさらに4、5名程度を選抜し、マツダが用意する車両でマツダ・ファン・エンデュランス(通称:マツ耐)へ出場する機会が与えられる。「リアルレースデビューは敷居が高いがいつか機会があれば挑戦してみたい」と感じている若いバーチャルレーサーにとって、なんとも夢があり、魅力的なチャレンジプログラムだ。

MAZDA SPIRIT RACINGチャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の筑波イベントが筑波サーキットコース1000で開催! 20名選抜のうち10名が走行し、講師2名と講師サポート(メンター)4名でサポートする。


車両はロードスターNR-Aパーティレース仕様車を10名ずつに対して5台用意され、講師2名で5人ずつじっくりと指導する。1日目は筑波サーキットコース1000でシフトダウン、ブレーキング、ステアリングなどの基礎練習、講師の同乗走行、フルコース周回走行など行い、講師とデータを分析し、解説してもらう時間もある。2日目にはコース2000でも走行し、面談するという2日間という充実ぶりで、かなりの長時間、講師のアドバイスを受けながら、安全に着実にステップアップしながら、サーキット走行を体感できるのだ。

マツダはなぜ今、この取り組みを始めたのか


マツダ株式会社カスタマーサービス本部の久松さんにお話を聞いた。

今までモータースポーツというのは本当に敷居が高く、金銭的に余裕のある一部の方がやるものと考えられていましたが、マツダとして、これをもっと広げていきたいと考えていた時に、ちょっと目線を変えたら、「eSPORTSがあるじゃないか!」と気がついたのです。

バーチャルの世界であるeSPORTSの人口はグローバルで1億人とも言われていて、その中でも「グランツーリスモ」ではマツダのクルマを積極的に露出しているのでバーチャルの世界でマツダ車を好きになり、愛してくださっている若い方が増えてきています。そういった方々も将来のマツダの大切なお客様ですので、何かの機会になればと、「バーチャルからリアルへの道」チャレンジプログラムを企画しました。

走行前には講師サポート(メンター)にアドバイスを受けながら、初めて乗る実車のマツダロードスターNR-Aのドライビングポジションを確認する。緊張感が高まってくる。


私は逆にゲームやシミュレーターはやらないのですが、2021年、2022年のパーティレースに完全にプライベートで参戦していました。初めて走る時には「怖さ」を感じましたが、eSPORTSを経験されている方たちは「実際に走ってもゲームの世界のイメージと一緒だ」というように、実車での走行に対する抵抗や怖さもない。これがこのプログラムの面白いところです。

このプログラムは練りに練っていますので、午前中こそ、みなさんおっかなびっくりでしたが、午後はもう走り出した時とは違ってスピードも速いし、初めてサーキット走行される方が半分とは思えないほどの成長ぶりです。

私のようにリアルから入っている人間の方が日常の街中での走りから、サーキット走行への合わせこみに時間がかかりますが、彼らのように普段からサーキット経験が豊富な彼らの方が、クルマの構造や操作、セッティングなどをきちんと理解しているため、実車への適応能力も高い。

初めてのサーキットを安全に走れるように走行前にはサーキットコースを歩行しながら、講師の加藤さんがライン取りや注意点などを参加者に解説する。

また、リアルでスポーツ走行するには、どうしてもサーキットなどに来なれければいけないのでお金と時間がかかります。クラッシュすれば修理代もかかる。それらがモータースポーツの敷居をあげている要因でもありますので、手軽に安価でモータースポーツ経験を積めるeSPORTSには大きな可能性を感じています。

将来は自動車教習所もバーチャルでの教習が増えて、実車のリアルな路上教習は少しだけで免許交付。そんな時代ももうすぐそこまで来ているかもしれません。モータースポーツも今後、バーチャルからリアルへとステップアップしてくる選手がもっと増えるでしょう。

「バーチャルからリアルへの道」とはどういうことなのか

自身もバーチャルとリアルを行き来しながら、マツ耐など、モータースポーツを楽しんでいるマツダ株式会社エンゲージメント推進グループの油目さんに「バーシャルからリアルへの道」への思いと今後の予定についてもお話を聞いた。

講師が運転し、参加者が助手席に乗る形での同乗走行が行われた。ライン取りやブレーキング、ステアリングなど操作やタイミングをしっかりと見ることができる貴重な機会だ。

今の時代、若者のクルマ離れのみならず、少子化による人口減少という社会の流れがある中で「若い方にもっと実際のクルマに触れてほしい」というメーカーの思いがあります。そして若い方でも、クルマに乗りたい!という方は(まだ!)潜在的に多いとマツダは思っています。しかし、一方で「実際のクルマに触れる機会」は限られており、ましてや「モータースポーツをする機会」を若い方が個人で作り出すのは、とても困難な時代です。

私自身もモータースポーツを始めようとした時、どこに掛け合って始めたら良いかもわからないし、とても不安で苦労しましたので、そのきっかけ作りをマツダがしてあげられないかと考えたのが今回の「バーチャルからリアルへの道」のスタートです。もう今、若い方に「ロードスターを気軽に買って乗ってください!」と言える時代じゃない。車両価格の高さ、駐車場代、維持費の高騰などハードルは確実に上がっています。


そこで今回の大会に向けて努力してくれた方には、実際にクルマに触れて、1泊2日の充実した講習をして、「努力する人はチャンスさえあれば、しっかりリアルのレースでも戦える!」ということに気づいてもらえる機会をご提供すると同時に一般の多くの若い方々にも「僕も出来るかな?」という夢を持ってもらいたい。

パイロンスラロームによる基礎練習。参加者はクルマの動き、サスペンションの動きを感じ取り、徐々にロードスターに慣れていく。

今回は20名としたことでグランツーリスモで長年の経験のある人が多いですが、この大会に「努力する価値」を見出し、選ばれたくてグランツーリスモを始めた方々にもチャンスが巡ってくるようにマツダとして毎年継続的に活動を行い、来年また違ったメンバーを選抜するなど循環させながら同じ志を持つ仲間を増やしていきたい。

今年の選抜者には引き続きマツ耐特有の走り方講習を受けていただき、6月のもてぎマツ耐から、安全にリアルレースデビューし、筑波、岡山でも走っていただきます。またJAFのA級ライセンスがなくても長時間、本格的なサーキットで気軽に耐久レースが楽しめる「マツ耐の良さ」も改めてアピールしていきたいです、と語ってくれた。

若き、将来のマツダファンに対する新しいアプローチ

しかし、プロ選考ではなく、運転したことない人に向けての選考大会は珍しい。メーカー主導としては少なくとも国内ではない。そのあたりも油目さんに聞いてみた。

パイロンスラロームやブレーキングからターンインを見て、講師の関さんが参加者にアドバイス。反復練習によって上達していく。


今の若い人は夜2、3時間、YouTube見るか、ゲームやシミュレーターをする方がとても多い。せっかく画面の中で一日何時間もクルマと対話しているにも関わらず、「リアルのクルマに乗るのは全く別の世界だ」と切り離している。それは凄く勿体無いので、なんとかリアルのモータースポーツにスライドしていける環境やきっかけを若い子たちに提供したいと思いました。

一方でマツダとしては、今まで若い人たちにアプローチする手立てを持っていなかった。グラスルーツではeSPORTSが今一番、若者を繋いでくれるものですので、そこを通じてマツダスピリットレーシングが「共に挑む」というブランドであるということがこの活動から伝われば幸いです。


今回もこの大会をきっかけとして、「ヘルメット買ってきました」「レーシングギヤを買ってきました」という方々もいらして、機会さえあればそれをきっかけにリアルなモータースポーツデビューする人もまだまだ潜在的にはいるのだということもわかりました。「今度はロードスターを買ってサーキットを走ってみようかな」とか、彼らがモータースポーツを始めたのを見て、周りの友達とか若い子たちがクルマに興味を持ってもらい、「ああ、自分もあの世界に入っていきたいなあ」と思う。そう言った「流れ」が大事かなと思っています。

eSPORTSの世界でもトップクラスのドライバーはやはり凄い。この日も初めての走行にも関わらず、スムーズな荷重移動でまるでロードスターを熟知しているかのように安定して綺麗に速く走る参加者が何人もいた。


レースに出てもらうことがゴールということではなく、「ちゃんとリアルの世界を知った上で、バーチャルで楽しめている」という状態を作ってもらうことが最初のゴールです。そのあと、ストイックに上を目指してパーティレースに出られなかったら、ダメなのではなく、横に広がっている絵を描き続けて欲しい。

マツ耐でリアルとバーチャルを行き来しながら、両方楽しくやっているという状態が現代のモータースポーツの楽しみ方であり、私自身がそうしているモデルでもあります。これからはこういった活動をマツダ自身がどんどんやっていかないと若いお客様は増えないと考えておりますし、そうでもしなければ今の時代、モータースポーツ人口など増えないのではないでしょうか。

新たなクルマファンを増やすきっかけになるだろう

車載カメラやデータロガーを見ながら、講師の解説を聞き、走りを分析。最後の走行に向けた参加者の真剣な眼差しが印象的だった。

今の時代は「選べる楽しいコンテンツや情報が溢れている!」ので、なんでも選べてしまうぶん、逆に選べない若者が多い。それだけに親や友人からクルマを勧められると以外にも素直に受け入れてくれる傾向があるのだ。「クルマに興味を持ってくれたからには、マツダスピリットレーシングの活動に確実に入ってきてもらえる」そんな流れができれば、マツダもマツダスピリットレーシングも「共に挑む」の精神で長く続いていきそうだ。

「リアルのクルマの楽しさ」というのは、体感したことのない人には伝わりにくいものだ。若い人たちに「クルマは非日常の楽しい体験」ができるものであることを知ってもらい、「マツダスピリットレーシングというブランドに「楽しむきっかけの場」があるということが認知されればモータースポーツやクルマ好きな人の輪が広がっていくような可能性を感じた。

今や一般公道で飛ばしてクルマを楽しめるような時代ではないが、いきなりサーキットでは敷居が高い。「バーチャルからリアルへの道」の活動が「新たなクルマファンを増やすきっかけとなるかのか?」マツダスピリットレーシングの活動が注目されている。

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著者プロフィール

出来利弘 近影

出来利弘

1969年千葉県出身だが、5歳から19歳まで大阪府で育つ。現在は神奈川県横浜市在住。自動車雑誌出版社でアル…