目次
オンリーワンのハイエースサイズのEV商用バン登場
ELEMOとはHWEの電気自動車ブランドで、小型トラックのELEMO、軽トラックのELEMO-Kをラインアップしていたが、新規発表されたのが中型サイズのバンタイプ商用車であるELEMO-Lだ。
日産のe-NV200が生産終了となって久しいことから、このカテゴリーの一般市場に向けた商用バンは日本市場に存在しない状態。そのため商用EVを探すとなれば、このELEMO-Lは希少な存在ともなっている。ある意味、絶妙なカテゴリーに投入してきたなという印象もある。ワンチャージあたりの走行距離はWLTCモードの国土交通省審査値では210km(予測値)と公表されており、昨今登場している乗用EVからすると短い印象もあるが、商用車は1日の走行ルートが確定されていることもあり乗用ユースのように悩むことも少ないと想像される。当然ながら昼間中心の業務となるので、夜間は充電の時間をたっぷりと取ることができる。
サイズとしては全長5457mm、全幅1850mm、全高2045mmという1ナンバーに相当する。いわばワイド版のハイエースクラスといったところだ。荷室サイズを比較するならば、ELEMO-Lは荷室長2890mm、荷室幅1720mmとなり、ハイエースのロングバン・ワイドボディがそれぞれ3000mm、1705mmであることからやや短いサイズとなっている。ちなみにハイエース・ロング&ワイドボディは全長4840mm、全幅1880mmなので、ELEMO―Lの方がやや狭く、そしてかなり長いことになる。
ハイエースロングに近い程度の荷室長は稼ぎ出しているのだが、フロントタイヤを前席より前に設定したキャブオーバーとなることから全長はかなり長い。およそ5.5mという全長は場合によっては、駐車場の枠をはみ出ることもあり、車を停めるにはすこし注意が必要な場所もあるかもしれない。しかしそんなロングボディながら、前輪がドライバーより前にあることで、旋回の感覚は普通のミニバンやセダンと同様だ。ハイエースなどのように自分の体が振り回される独特の操舵感覚はない。
最高速度90km/hは大人の設定「おおらかに走る」
試乗のフィーリングでも、この着座位置の恩恵は大きい。そのことは後述するとして、まずは走り出しの印象から記していこう。
スタート自体は静かなのだが、周囲に走行を知らせるための電子的な走行音は割と大きめ。ウィーンという音によって、発進からの加速感を音でも感じ取ることができる。アクセルに対する発進時の応答は割とおっとりとしているが、決して悪いことではなくパワーの出かたをじわじわとコントロールしやすい。
カタログスペックによれば、最高速度は90km/hと示されている。ほんとか? と思って高速道路で試してみると93-94km/hでリミッターが効く。しかしポテンシャルがギリギリそこまでというのではなく、それ以上出さないように抑え込まれている印象。
パワー感についても乗用EVにありがちな底なしの「あり余る力」を誇示するものではなく、必要にして十分な程度。試しにゼロからのフル全開をしてみると絶対的な加速フィールはさすがにEVで、淀みなく速度が伸びていく。もちろんその加速感は、小型ディーゼルトラックの比ではない。通常EVだと圧倒的なパワーを誇示したくなるものだが、あえてそうしない大人の設定がみごとになされている。無駄な加速性能や最高速度を与えることで、不用意に電費を悪化させない設定だ。
今の時代、高速道路での最高速度は100km/hから120km/hになったところも増えているが、果たしてそのようなところで90km/hのクルマは走れるのか? といった疑問もあるだろうが基本的にはそのような心配はない。その最高速度だと巡航速度は80km/h程度となるのだが、高速で一番左車線を走るトラックがだいたいこの速度。淡々と走るには何の不満もない。仮に追い越しをかけるとしても10km/h+αのマージンがすぐに引き出せるので、追越車線を走るクルマのタイミングさえ見計らえば問題はない。このリミッター設定は大型トラックと同様なので、大型トラックのようにおおらかに走っていれば何の問題もない。
街中、高速道路と走ってみて実感するのは、90km/hしか出ないからといって決して街中でも加速が遅いわけではなく流れをリードすることだってできる。それだけのポテンシャルを持った上での制限速度が90km/hなので、実用上で問題を感じたことはなかった。
商用車として必要にして十分な乗り味
乗り味に関しては、まず記しておかなければならないのが空気圧設定で、空荷&フル積載ともに前後6.5bar(650kPa)とハイエースの300〜400kPaを大きく上回り、トラック同等の設定となっている点だ。積載に対する安全マージンを取ることと、転がり抵抗を減らした電費確保が大きな狙いだが、その設定の割には非常に乗用車のような印象だ。どうしても試乗時が空荷となってしまうため、乗り地心地には不利。しかし、継ぎ目での当たりがコツンと感じることなどがあったが、乗用車と言われても遜色ないレベルに仕上がっている。操舵フィーリングも切った量と速さに対して、リアルに動く挙動が印象的だ。通常の走行では過敏な領域がないために、高速道路でもしっとりと安定して走ることができる。
また前述したようにキャブオーバースタイルで着座位置がホイールベース内にあるために、前後に揺れるピッチングによる影響を受けにくいことは、ロングランでも疲労度合いが少ないものと思われる。この点は、ハイエースや小型トラックに対するアドバンテージだと思う。
街中を走っていて気がつくのは、通常のミニバンよりアイポイント(視点)が高いことだ。それこそ信号待ちで並ぶハイエースのドライバーと同等で、その分見晴らしがいい。それでいて、着座スタイルはハイエースのようにペダルを踏み下ろすアップライトな姿勢ではなく、フロアも高く足を投げ出すセダン的なスタイルなので、この点でも疲れにくい姿勢が取れるのではないか、と思う。言ってみるならミニバンではなく、SUVのような運転姿勢なのだ。しかし、このクルマを評価するには、今までのクルマの価値観では不十分だ。
カスタマイズが魅せる乗用ユーザーへのアプローチ
東京オートサロン2023では、カスタマイズモデルとしてキャンパー仕様も出品された。装備を盛り込みすぎないことが狙いのひとつで、便宜的にキャンパーと説明しているが、実際には移動型のオフィスやマイルームがイメージされていると言った方が正しい。とはいえ、ベンチシートを動かして、ベッドにもなれば広い荷物スペースも確保できてしまう。EVなので当然テレビも見られれば、冷暖房も静かなまま利用できる。もちろんエンジンなどないので、夜間の稼働にも周囲に遠慮する必要がない。
商用車としても魅力十分のELEMO-Lだが、それ以上の乗用ユーザーにとっても価値がありそうに思えてならない。商用であるだけに定員は2人となるので、大勢で移動するということはできない。ならば、ロードスターのようなライフスタイルの人に向くのかといえば、まったくそうでもない。
このモデルで注目されるのは、自宅とは別の新しい空間が持てるということだ。それもカスタマイズモデルが提案するように仕事場にも使えれば、会議室として利用することも可能。それを拡大して考えてみれば、防音装備を備えれば移動スタジオも仕立てられる。また電源はどんな場所にいても困らない。今までアウトドアといえばキャンプを軸にした自然型、冒険型が主軸だが、これまでの「キャンプ」の概念とは異なる野外の楽しみ方、あるいは特別ではない野外と接する新しい日常が見えてくるような気がする。電源を、そして部屋を持って外に飛び出すことで、その使い方は無限大に広がるのではないだろうか。
ELEMO-Lキャンパー仕様の仕掛け人 HWELECTRO 神垣学さんに聞く
「開けることがワクワクするドアなので、開けた後の室内空間をよりよりワクワクするような設計にしたいと思い、サイドドアの正面に特徴的なロッカーを配置しました」ELEMO-Lというデザイン的にも特徴的なモデルにさらなる魅力を感じてもらいたい、というのが当初の狙いだ。実は左側面のベンチシートをたたむと、一般規格サイズである1820×910mmのベニア合板なども積載が可能という、商用の実用性も持たせている。
つまりは装備を盛り込みすぎることで扱いにくくなることがないように、必要最低限の装備としているのだ。
「ELEMO-Lのカスタムモデルは、大変大きな注目をいただきました。これからもEVにしかできない提案をしていきたいと考えています。今はお話できませんが、アイデアは本当にたくさんありますのでそれらをぜひ実現していきたい、と考えています」
大企業ではなく小回りの効くHWEだからこそできる、オリジナルモデルの提案。今後はそんな様々なアイデアによって、私たちをワクワクさせてもらえそうだ。