脱・温暖化その手法 第59回 ―これからの太陽電池 その1 ペロブスカイト型太陽電池―

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

日本で生まれた新たな太陽電池の可能性

58回までの4回にわたって、太陽光発電に必要な面積をどこで得るのかについて述べてきた。その結論は、第一次産業と、海上の上空を利用すれば得られるということであった。

これらを実現するにはこれまでのシリコン型太陽光パネルではガラス上に太陽電池で発電された電流を流すための電極を取り付けなくてはならないので、曲げには弱く、重量も重くなるというふたつの問題があり、利用は極めて困難であった。

シリコン型太陽電池は日本が実用化したものであったが、中国製の安価な電池に敗れ、国内での産業はなくなり太陽電池産業としては成立しなくなっている。

ところが日本では、新たな太陽電池が開発されてきた。

今回先ず取り上げるのはペロブスカイト型太陽電池である。これは有機物のペロブスカイト型の化学構造を持った太陽電池である。

有機材料で太陽電池を作る試みが長年行なわれて来た中で、この太陽電池が効率の良さにより実用性の点から最も注目されている。

その発明は、桐蔭横浜大学の宮坂力氏らによるもので2007年のことである。

ペロブスカイト構造とは立方体の頂点と、立方体の各面の中心と、立方体の中心にそれぞれ異なる原子や分子が配置された構造である。ペロブスカイト型太陽電池では立方体の頂点にメチルアンモニウム(CH3NH3)、立方体の各面の中心にヨウ素、立方体の中心に鉛が配置されている。

ペロブスカイト構造
ロシアの研究者Lev. Perovskiが発見した結晶構造。正立方体の
それぞれの角と正立方体を形成する面の中心と、正六面体の中心
にそれぞれ原子ないし、分子が配置された構造。ペロブスカイト
型太陽電池では正六面体の角にはメチルアンモニウム(CH3NH3)、
正六面体の中心にヨウ素(I)、正六面体の中心に鉛(Pb)が配
置されている。

ペロブスカイト型太陽電池の構造であるが、透明電極の基板の上にヨウ化鉛の液を薄く塗り、その上にトルエンなどの有機溶媒を重ねて、50~100℃で乾燥させて厚さ0.3μm程のペロブスカイト構造の薄い膜を作る。さらにこの上に電流を流す層を形成して、乾燥させることで作られる。単純にいうと電流を通す透明基板の上にペロブスカイト層を作り、さらにその上に光が当たることで発生した電子を流す層を作るという仕組みである。

薄い層を作るには高速で回転している基板の上にヨウ化鉛を垂らすことにより、遠心力で一面に広がり薄い層となる。また電流を流す層についても同様の方法で溶液を垂らし、遠心力で広く平面に伸ばすことで薄い層にする。

シリコン型太陽電池ではまず大型の単結晶を成長させ、これを100μmほどに薄く切り、その上に不純物を混入させて太陽電池とする。この工程に比べて、ペロブスカイト型太陽電池は製法が著しく単純である。このために、シリコン型よりもはるかに安価に作ることができる。しかも透明電極基板にプラスチックフィルムを用いることも可能で、フレキシブルな太陽電池とし、かつ重量も軽くなる。

ペロブスカイト型太陽電池の構造
ペロブスカイト層を中心に発電で発生する電子と、
正孔を通す層が配置される。これらがプラスチック
フィルムないしガラスの上に印刷の要領で塗られる。
ペロブスカイト層の厚さは0.3 μmほどである。

この理由から、この太陽電池はシリコン型に替わり得る可能性を持っており、2018年12月31日の日経新聞の第一面で世界が注目する研究テーマの1位となる程注目を集めている。

この太陽電池の開発状況であるが、これが発明された直後の2009年には3.9%の効率であったものが次第に向上を続け、実験室レベルでは20%を超すものもできている。

室内実験では26%に迫る高効率も

日本での現在のペロブスカイト型太陽電池の推進役はRATO(有機系太陽電池技術研究組合)が担っている。理事長は元東レ副社長の田中千秋氏が勤められている。田中氏とは2010年頃からお付き合い頂いており、私が主宰してきた研究会で田中氏のお取り計らいでRATOより専門家の方々から2度講演を頂いている。2023年3月の講演での最新情報では、室内実験ではあるが25.7%の効率が得られているとのことであった。

また、これからのペロブスカイト太陽電池のコスト試算が成されており、それによると1個の電池セルの変換効率を20%、これを複数並べてモジュール化した効率を19%とし、耐久年数を15年と仮定した時、発電コストは3.5円/kWhとの結果が得られている。

RATOには2022年6月1日現在で16社が加盟している。その中の代表的な企業は東芝、パナソニック、積水化学などである。

日本政府によるペロブスカイト型太陽電池の実用化に向けた動きも活発で、2021年10月の第6次エネルギー基本計画でも「ペロブスカイトを始めとした次世代型太陽電池の実用化と市場創出に取り組む」と表現がなされている。この計画を受けて、2021年から始まった経済産業省による10年間で2兆円の投資を行なうグリーンイノベーション基金の中で、約500億円が投じられることになる。

今後のペロブスカイト型太陽電池の開発目標は、効率を良くすること、耐久性を上げること、パネルの製造コストを低減することであり、これらの3つの要素がそれぞれ向上することにより実用化が可能となる。

ペロブスカイト型太陽電池は、有機物系の太陽電池である。そして、もうひとつのこれからの太陽電池には無機物系のものがある。次回はこの太陽電池の紹介をする。

Eliicaに用いたプラットフォーム
Eliicaでは床下に中空構造のフレームを配置し、
この中空空間に電池を挿入し、モーターはインホ
イールモーターとして車輪に直結する構造とした。
これをインホイールプラットフォームと呼ぶこと
にする。この構造により、床から上の車室空間が
広がり、重心が低くなるという利点が生まれる。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…