脱・温暖化その手法 第61回 ―世界と日本で必要なエネルギーを考察するー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

日本は太陽電池分野で再度輝く

ここまでの2回は、これからの太陽光発電パネルについて述べてきた。ペロブスカイト型は実用化まではまだ間があるものの、金属を基板とするCIS型フレキシブル太陽電池は近い将来商用化される見込みである。その特徴は軽さと、フレキシブルであることと、価格が安くできるということである。このため、新しい日本生まれの技術として、大事に育てれば、日本が太陽光パネルの生産においても、再び世界のトップを占めることが可能になる。

このパネルの特徴を生かせば、林業と太陽光発電の融合では成木を伐採した後、苗木を植林するとともに、その隙間に地面を整地しなくても地面にそのまま置き、送電用の配線をするだけで発電ができる。農業との融合では、刈り入れの終わった田圃に整地をせずにせずにそのまま置くだけで発電ができる。漁業との融合では、パネルの裏面に薄く発泡剤を張り、パネルと合わせた比重を1以下にして海面に浮かべ、波に流されないようにアンカーで固定し、絶縁を良くした送電用の電線を繋げばよい。大型気球として上空7㎞に固定するための太陽光パネルとすることもできる。これらの方法で安価な電力が供給できる理由は、パネル自体の価格が安価にできることと、架台を必要としないこと、パネルを置くための土地の費用が掛からないことによる。

これらの発電法の組み合わせで大量の電気を起こすことは可能となり、これをそのまま電気として使うことはもちろんであるが、電気自動車を走らせるためにも暖房や工場での熱を作るにも製鉄用のエネルギーにも、航空機を飛ばすこともできる。

それでは、地球上で生活する我々が究極的にどれだけのエネルギーを必要とするのかを見積もってみる。今、世界で一人当たり最も多くのエネルギーを使っているのはアメリカであり、電力に換算して年間8兆kWhを消費している。これは、この20年ほど横ばいである。成熟社会であるアメリカのような国では横ばいであるということは、世界中がアメリカと同様のエネルギーが使えるようになると、その社会は成熟社会になったと見なすことができ、エネルギー消費は横ばいになるという仮説を設定することができる。

世界人口は100億人がピーク それでも太陽光発電は有利

また、世界人口はどこまで増え続けるだろうか。2022年7月公表の国連による「世界人口推計2022年改訂版」によれば、世界人口は2022年11月15日に80億人に到達し、その後、2030年に85億人、2050年に97億人に増加する見通しで、2086年に104億人でピークに達するものと予測されている。

この予測から地球の将来の人口は約100億人まで増えて横ばいになると仮定する。すると、アメリカの現在の人口の3.3億人の30倍の人口になるため、この時のエネルギー需要は240兆kWhとなる。

繰り返しになるが、年間の太陽光からのエネルギーは100京kWhであり、これを10%の効率の太陽電池で電力を発生させると地球全体で10京kWhの発電ができる。これは240兆kWhの約400倍であり、地球で起こせる電気の量の0.25%で地球全体のエネルギーが賄えることになる。その結果、地球人口が100億人になったとして、例えこのすべての人々が、アメリカ人と同じだけの裕福なエネルギーを使ったとしてもまだ十分なエネルギーが賄えることになる。なお、地球表面積に占める陸地の割合は30%であるから、これだけのエネルギーを得るために必要な陸地面積は地球の総面積の0.8%ということでもある。

次に、日本で必要なエネルギーであるが、2000年までは増加傾向にあったが、それから2007年にかけては横ばいの状態になった後は需要が下がり続けている。これは、自動車の燃費が良くなったことの効果が最も大きいが、工場、家庭、オフィスでの省エネ化が進み、冷蔵庫やテレビは大型化しているものの、消費するエネルギーは増えていないことによる。

2018年の統計によると日本のエネルギー消費は電力のみで1兆kWhであるが、全ての消費エネルギーを電力で賄うとすると2.4兆kWhになる。その前提はすべての車が電気自動車に替わるものとしている。この仮定には大きな異存があることは理解している。何故、この仮説ができるかについては、本連載のまとめの段階で述べることとする。

この2.4兆kWhの内訳であるが、電力としての消費は1兆kWhであるが、電気自動車で、0.13兆kWh、暖房を含む熱利用で0.9兆kWh、製鉄で0.4兆kWhとなる。ここでは航空機によるエネルギーは考慮に入れていないが、そのエネルギーをどうするかについては項を改めることにする。いずれにしても、エネルギー需要に大きく影響を与えるわけではない。

世界の人口が100億人に増え、アメリカ人と同じエネルギーを
消費した場合、エネルギー需要は約240兆kWhとなる。

前回の予告では太陽光発電を主体としたエネルギーシステムについて述べることにしていたが、今回の内容を述べてからにすることが必要と考えた。次回は、太陽光発電を主体としたエネルギーシステムについて取り上げることにする。

Eliica組み立て中の一風景
床下に電池を収納するための中空のフレーム構造を
設置し、この上にサスペンション、アッパーフレー
ムを取りつけた状態。床を構成するフレームはアル
ミの押出成形材で形成している。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…