脱・温暖化その手法 第62回 ―再生可能エネルギーにおけるエネルギーシステムー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

太陽光発電は方法の使い分けで季節変動をカバー

前回は世界と日本で必要なエネルギーを電力換算で求めた。世界における究極のエネルギー消費量は240兆kWh、日本では2.4兆kWhとなる、

林業、農業、漁業との太陽光発電の融合による最大のエネルギーはそれぞれ1兆kWh、1兆kWh、1.2兆kWhであり、その合計は3.2兆kWhとなり、日本で必要な電力はこれら3種の融合で十分まかなえる。但し、この値は理想的な場合であり、実際にはこれを下回ることになる。その結果、日本のエネルギー需要を満たせない時には気球による発電が残されており、この方法では陸に近いところでの気球の数を増やせば、理論的にはいくらでも生み出すことができる。このことから日本における必要なエネルギーはすべて太陽光でまかなえることになる。

但し、誰もが心配するように再生可能エネルギーは需要と供給のタイミングが異なるので、これまでのような化石燃料主体の発電のように、需要に合わせて発電することができない。特に大きな需要と供給のアンバランスが起き易いのは季節を跨いでの変動である。電力需要は冬が大きく発電は5月から8月にかけて大きくなる。この季節変動を大きく調整できるのが農業との融合で、秋から春先にかけての電力需要を満たす上で刈り入れの終わった田圃を利用することが有効である。

年間を通じて、全発電量は需要を上回る。
余剰発電は金属精錬に使うことができる。

電力の貯蔵法1 電気自動車に蓄える

これで季節変動による大きなアンバランスに対応することは可能である。さらに日々のこの問題を解決するには、いうまでもなく電力の貯蔵も同時に用意することである。その上で電力の需要と供給の問題を解決する方法を考えることが今回の課題である。

電力を貯える最も容易な方法はリチウムイオン電池を用いることである。その優れている点は充放電の効率が極めて高く、損失が起こらないことである。このために電気自動車に用いられているわけだが、特に日本のすべてのクルマが電気自動車に替わったとした場合に、そこに貯えられる電力を見積もる。日本の自動車の総台数は2022年に8,200万台であった。これには大型のバス・トラックも含まれるが、話を単純化するため、すべての車に40kWhの容量の電池が積まれているものとする。するとその総容量は33億kWhとなる。

日本でのエネルギーの需要は年間2.4兆kWhであったから、1日約66億kWhとなる。ということは、電気自動車に貯えられる電力で日本に必要な電力の0.5日分は貯蔵できることになる。このため、電力需給のバランスを取るために、電気自動車用の電池を一部使うことは有効であり、このような考え方は以前からあった。

これに、いつでも電力の融通ができる電力源として据え置き型のリチウムイオン電池が加わる。

電力の貯蔵法2 水素として蓄える

第2にエネルギーを蓄積しようとすると、水の電気分解で一旦水素に変える方法がある。これは原理的に難しいものではないが、電力から水素を生み出す際の効率は約70%とされている。さらに水素をどのように利用するかであるが、貯えておいて燃料電池を用いて再び電力を得ることができる。この時の水素から電力への変換効率は良くても70%とされている。このため、太陽光発電で得た電力を一旦水素として再び電気を得るための効率は約50%となり、電力の半分は失われてしまう。従って、エネルギー貯蔵の選択肢の1つではあるが、損失の大きさは理解しておくことが必要である。

酸化鉄が主成分の鉄鉱石を水素の断熱燃焼炉
の中で高温にする。鉄鉱石の酸素が水素と結
合し、鉄が作られる。水素は水を太陽電池か
らの余剰電力で作ることで、CO2を発生しな
い製鉄が可能となる。

電力の貯蔵法3 アルミやマグネシウムに蓄える

第3の方法は金属として貯える方法である。その代表的な方法は金属アルミとして貯蔵する方法である。アルミは鉱石であるボーキサイトから酸化アルミを作る。これを電気分解してアルミから酸素を引き剥がすことで金属アルミを作ることが通常の生産法である。

一旦金属になったアルミは、空気中の酸素と結合させることで電力を起こすことができる。これがアルミ空気電池で、リチウムイオン電池が商品化される前の1980年代には電気自動車用電池としてかなり研究されたことがあった。アルミ空気電池ではアルミを酸素と結合させることで酸化アルミとするわけだが、これを再び工場に運んで電気分解することでアルミを再生する。

同様にマグネシウムも電力貯蔵として使うことができる。海水に含まれるマグネシウムを精製して酸化マグネシウムとして、これを電気分解をして金属マグネシウムとする。これを酸素と結合させることで電力を起こすことができる。

アルミやマグネシウムを電気分解して金属とし、これを電池材料として使うことにはエネルギー貯蔵だけの利用法の他に一旦金属としたものを本来の金属としての用途に使うこともできる。こうして余剰電力を用いてアルミやマグネシウムを生産し、備蓄しておいたものを一部電池の電源として使う他は金属として利用することで、補助的なエネルギーとすることができ、かつ金属材料の供給を行なうことができる。これは太陽光発電により安価な電力が得られることから国内での生産も可能となる。

ここで、考えておかなくてはいけないのは、アルミの電気分解では電解質の温度を数100度に保つことが必要なことである。このため、日中は太陽光発電の余剰電力を用いたアルミの生産か可能だが、夜間は発電ができなくなるので、電気分解のための容器である電解槽は夜間には保温ができるように作ることを忘れてはならない。また、金属の電気分解のための電力と、金属から作る事ができる電力の比が、充放電効率となるが、この効率は20%程度とされており、電力貯蔵法として効率の面からは必ずしも優れたものではないが、アルミやマグネシウム金属に蓄えられるエネルギーはリチウムイオン電池に比べて桁違いに大きく、貯蔵のためのスペースを取らず、かつ、放っておいてもエネルギーは減らないという利点がある。

従って、電力貯蔵には一長一短があり、貯蔵システムを考える時、これらをバランスよく組み合わせることが重要である。

ボーキサイトを精製して酸化アルミを取り出し、
太陽光発電の余剰電力による断熱型の電解槽で電
気分解し金属アルミを生産する。これをアルミ空
気電池のエネルギー源として発電を行なうことが
できる。同時に金属アルミは通常の用途に用いら
れる。

CO2の排出源を減らすため製鉄は熱源を石炭から水素に

アルミやマグネシウムと同様に鉄の生産も変わる。これまでは酸化鉄が主成分の鉄鉱石は石炭を燃やして高温にし、石炭中の炭素と酸化鉄を化合させることで製鉄を行なっていた。石炭は熱源に使うと同時に酸化鉄から酸素を引き剥がすために使われていたということであった。その結果大量のCO2を出す源のひとつになっていた。今後は炭素の代わりに水の電気分解で作った水素を燃焼させて熱源とし、かつ水素と酸化鉄中の酸素を結合させることで製鉄が行われることになるだろう。すると製鉄においてもCO2の排出をゼロにすることができる。

こうして、太陽光発電で起こした電気はこれまでのエネルギーの使われ方以外に金属精錬にも使われるようになる。なおかつ、これらの金属はエネルギーを貯えるために使うことも可能となる。するとこれらをまとめた新しいエネルギーシステムが生まれる。このシステムは発電した電力を各需要先に送るこれまで電力会社が行なってきた送配電と同様のシステムと、貯えた電力を需要に応じて供給するためのシステムの2重系になる。これは言わば動脈と静脈に相当するようなものである。

動脈と静脈に例えることができるシステムを構築する。

ここまで、太陽光発電を使って、CO2を抜本的になくすためのエネルギーシステムについて述べた。その他で残っているのはセメント製造、航空機、船舶で発生するCO2をどうゼロにするかであり、その方法も考える必要がある。次回はその方法について述べることにする。

フレームにカウルの一部が取りつけられた状態。
Eliicaの後部座席はガルウイングとした。これ
は、高級車の後部座席の乗降性の良さを高める
ことが目的だった。この写真では、ガルウイン
グも取り付けられた状態である。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…