脱・温暖化その手法 第63回 ―航空と船舶燃料そしてセメント製造のCO2を解決するー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

航空機は水素によるガスタービン、船舶は燃料電池が有力か

第62回までで、太陽光発電を電力源としたエネルギーシステムについて述べてきた。その結果、広大な土地は必要だが、ほとんどのエネルギーは太陽光で賄え、従ってCO2発生も極力抑えられることを示した。

残るのは航空と船舶の燃料とセメント製造で発生するCO2に関してどう解決するかである。

まず、これらの燃料を検討する。航空機と船舶は出発時に大量のエネルギーを積載しなくてはならない。そのために考えられるのは、バイオ燃料あるいは急に話題になり始めた合成燃料を用いることである。

バイオ燃料は価格の問題と容積当りのエネルギーがガソリンの約半分ということ、そして大量の生産ができないということのために廃れてしまった。

合成燃料はe-fuelとも呼ばれ、水素とCO2を合成して燃料を作る。このうち、水素は太陽光発電で供給できる。CO2は大気中のCO2を直接分離する。この技術の問題はこれまでの化石燃料に比べて価格が高くなることである。経産省の試算では最も安価な例として水素製造、CO2回収及び合成の合計で200円/リットルである。もし水素の価格を安価な太陽光発電で得て、水素を作ることを前提にその価格を無視したとしても65円/リットルとなる。これは工場原価であるから、通常の商品ではこれに開発費やプラント製造費、利益等を入れて工場出荷価格はその2倍となるのは避けられない。するとその価格は130円/リットル程となる。

大気中の太陽光発電を用いた航空と船舶用の
燃料のためのe-fuelの製造プロセス
太陽光発電を用いて水素を製造し、一方で大気中の
CO2を分離し、合成燃料(e-fuel)を製造する。こ
れらを航空燃料及び船舶用燃料として用いる。
e-fuelの燃焼により大気中にCO2が放出されるが、
大気中のCO2から合成されるために、CO2発生量
は増えない。

航空燃料はシンガポールの標準的価格の50円/リットルと仮定すると、これはかなりの高額である。船舶に使う重油の価格とはもっと大きな差が出る。このようにe-fuelに関しては価格の問題はあるが、それを除けば利用の可能性はある。

太陽光発電で得た水素を用いた
航空機と船舶の推進
太陽光発電で得た水素を-253℃に冷却して、
液体水素とし、断熱容器に蓄積する。航空機
や、船舶の出発直前に、これを断熱タンクに
搭載する。これを直接燃焼させるか、固体電
解質型燃料電池で電力に変換しモーターでス
クリューを回す。効率の良い電力の使い方で
はないが、全CO2の発生量からみれば、大き
な消費ではない。

もうひとつの可能性は水素そのものを燃料に使うことである。水素は液化するとエネルギーは約3kWh/リットルで航空燃料の約3倍のエネルギーを持ち比重が0.07なので航空燃料の約1/10の重さである。この前提で航空燃料とするには空港近くで電気分解によって水素を作り、これを-253℃まで冷やして断熱容器に貯える。航空機の燃料補給のときに液体水素を燃料タンクに注入する。飛行はこの液体水素を気化してガスタービンで燃焼させる。国内では発電用ガスタービンは三菱重工や川崎重工で製作している。その効率は64%と高い。このガスタービンは航空用に転用することは原理的に可能である。水素を燃料とする場合、航空燃料に比べて軽いので機体も軽くできる。燃料費は太陽電池からの電力で直接水を電気分解して液化するのであれば、現在の航空燃料よりも安価にできる可能性がある。

船舶用の燃料も航空燃料と同様に合成燃料を使うか、液体水素を使うかのふたつの方法のどちらかの選択になる。

もうひとつの選択肢は船舶では水素でタービンを回すのではなく、燃料電池で電気を起こしモーターでスクリューを回す方法である。この場合、必要な電力は定常的に起こすことで良いために、高温での動作が必要だが効率の高い固体電解型燃料電池(SOFC)を使うことができる。

以上のように航空機と船舶もこれから技術開発が残されているものの、いずれも太陽光発電のエネルギーで運航することが可能である。

セメント製造でもカーボンニュートラルは達成できる

もうひとつ残されているのがセメント製造である。セメントは炭酸カルシウム(CaCO3)が主成分の石灰岩に高熱を掛け、酸化カルシウムCaOとCO2に分解して作られる。これまで高熱を作るために石炭が使われることが多かったために、燃料からのCO2排出と炭酸カルシウムが分解されて出るCO2があった。このうち高熱にする分に関しては電気炉とすることでCO2発生は抑えられる。しかし、炭酸カルシウムを分解した時のCO2の発生は抑えられない。このCO2を大気中に発生させないための地下貯蔵の研究も1990年代から進められているが、発展途上である上、いつかは貯蔵する場所がなくなってしまうことになる。すると考えられるのはCO2の放出を相殺するために、大気中からCO2を減らすことである。

大気中のCO2を吸収するためには植物で光合成をさせることか、海水中に溶けたCO2を生物の働きを使って炭酸カルシウムにすることのふたつである。

植物で吸収した場合、これを燃焼させたり放置したりすれば、CO2が再放出されるのでCO2は抑えられない。長く貯蔵するためには、炭焼きのように炭化させれば長期保存ができる

日本では年間約3,400万トンの木材が生産されている。木材の成分の半分は炭素なので、その重量は1700万トンで、CO2に換算すると木材に貯えられる量は6,200万トンとなる。

また貝類に貯えられる炭素の量は年間の生産量は76万トンで、このうちの半分の重さが貝殻であるとすると炭酸カルシウムとして蓄積されるのは38万トンでCO2に換算すると17万トンになる。

では日本のセメントの生産であるが、2021年には5600トンであった。このセメントを作るために1.1倍の石灰石(CaCO3)を使う。これを熱分解して放出されるCO2は2700トンとなる。

これらの計算からもし木材が用材に使われた後に、その半分が焼却や廃棄されずに炭化させる工程を踏めば実質的にCO2排出が相殺されることになり排出は0となる。

以上、航空、船舶、セメント製造でのCO2発生を抑える目処はつく。したがって、ここまでの話で太陽光発電を起源とする電力でカーボンニュートラルは達成できることになる。

次はこれが経済的に成立するかを検証する。

Eliicaの組み立て風景
車体にボディを取り付けている状態。ボディ材料は
カーボンFRPで作れば軽量化ができたが、予算の都
合で、ガラス繊維で強化したFRPを使用した。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…