HA36Sは無双のアルト・スポーツセダンだ【最終回|スズキ・アルトワークスを語り尽くす】

スズキ アルトワークスのサスはZC系スイフトスポーツと似る|Dr.SUZUKIのワークス歴史講座_最終回

カタログに掲載されるKYB製専用ショックアブソーバー
サスペンションはKYB製ショックアブソーバーの採用を始め、専用チューニングが施される
スズキ アルトワークス(36ワークス)の走りを支えるサスペンション。FFの仕組みは、ZC系スイフトスポーツのそれを彷彿とさせるものだ。4WDのリヤは、スズキが誇る伝統のI.T.L.式。初代から採用が続くが、多数の進化が見られる。高い完成度にさらなる専用チューニングを加えているのが、36ワークスなのだ。
人気連載・週刊【スズキ・アルトワークスを語り尽くす】。ワークスを語り始めたら終わらない(?!)スズキ博士の “ワークスの歴史” を繙く連載、いよいよ最終回。

TEXT / PHOTO:スズキ博士(Dr. SUZUKI) PHOTO:REV SPEED / SWIFT MAGAZINE with ALTO WORKS
現行スズキ アルトワークスのエンジンルーム

現行スズキ・アルトワークスに積まれるエンジンは、ドコが凄い?|Dr.SUZUKIのワークス歴史講座_Vol.9

現行のアルト ツインカムターボワークス。DOHC4バルブ3気筒ターボエンジンの搭載は、初代か…

サスの構造はスイフトスポーツそのもの?

前後のサス形式は、アルト系に共通する。しかし4代目の販売終了から15年、その間には当然の進化がある。フロントは、L型状のロワーアームを用いたストラット式だ。
この構成は、ZC系スイフトスポーツと似る。以前のI型アーム式よりも支持点数が増えることで、スタビライザーも本来の機能に特化させることができる。
そしてボディとは別部品のサスペンションフレームも設け、そこにL型アームとステアリングギヤボックスが取りつけられることで操舵感が高まり、車体に振動も伝えにくいという利点も生まれる(4代目まではボディに直付けだった)。
いっぽうリヤは、FFがI.T.L.式からトーションビーム式になった。伝統が途絶えたが室内を広く、床を低くとなると、車両寸法に限りのある軽自動車では最良だろう。でもトレーリングアームのボディ取り付け部が湾曲していたり、左右のトレーリングアームをつなぐアクスルビームにスタビライザーを内蔵したり、これらもスイフトスポーツ風だ。かたや4WDはI.T.L.式を受け継ぐ。
リヤデフを置く、ドライブシャフトを左右に這わせる。それにはボディ形状から、この上ない仕組みといえそうだ。

フロントはサスペンションフレームにアームの支持部2点、ステアリングギヤボックス、スタビライザー、ミッションのトルクロッドが付く。その状態でボディと合体。エンジンはボディに固定
FFのリヤ。トレーリングアームは、前方のボディ取付部が車体の外側に向かって湾曲する。旋回中に横方向の力が強くかかっても取付部の剛性が保て、適正なアライメントに維持できる
4WDのI.T.L.式。ショックアブソーバーは先代までとは異なり車軸後方、伸縮が円滑になる位置と角度にある。ばねの形状も一変。トレーリングアームは板状で、強度を出しつつ軽量化

サスの専用はKYB製ショックアブソーバー

36ワークスの車重、全高、最低地上高はターボRSの数値そのものだ。
車高に関わるコイルスプリングは、ターボRSと同仕様である。加えて、サスアームの支持部に組まれるゴムブシュシュもターボRSが生かされる。ターボRSの段階で、スプリングの特性やゴムブッシュの硬度が相応の仕様になっていたのだ。これは新車発表時、正式にメーカーから回答を得ている。

36ワークス専用は、赤色のKYB製ロゴが目立つショックアブソーバーだ。低速域の減衰力特性が、ターボRSとは丸きり異なる。操舵でのレスポンス、ロールスピードと4輪の接地性が念入りにチューニングされている。専用ホイールのリム幅、パワステコントローラーの専用制御マップも相まって、すばしっこく走れる。
それと、36ワークスとターボRSには、フロントストラットバーがついている。太いシャフト径は、いかにもボディ剛性に効きそうだが、エンジンルームを飾る面も意識した仕上げとの話だ。

発表会でメモした減衰力の特性。黒が専用。赤の破線がターボRS。専用は低速~中速域の減衰力が強い。ややコツコツくる、雰囲気ある乗り味も演出。中速から高速域にかけては同等

リム幅の広い専用ホイールがタイヤを生かす

36ワークスの新車装着タイヤはPOTENZA RE050Aの165/55R15。ターボRSからの流れだ。装着方向に指定があり、スポーツ性の点で純正採用も多い銘柄だ。

対になるホイールは、ターボRS用が8本スポークでブラック塗装に切削加工。36ワークス専用は、10本スポークでブラック塗装の単色。よく見てほしいのは、タイヤのショルダーである。目を凝らすと形状の張りが異なり、36ワークスは極端にいうと引っ張りタイヤ風なのだ。
ターボRS用はサイズが15×4.5J 。いっぽう36ワークス専用は15×5.0J でリム幅が1/2J広い。タイヤの横方向をきっちり使い、ハンドルを切っときの手応えを高め、そして旋回時の安定性をも狙った。巧みだ。

36ワークスはもっと軽くつくれた?

FF・5MTの軸重は前420㎏/後250㎏。5AGSは前軸が20㎏重くなる。さらに4WDは前が20㎏、後が30㎏増す。ゆえに4WD・ 5AGSは前460㎏・後280㎏

36ワークスの車重は、FF・5MTが670㎏。軸重は前420㎏/後250㎏。ターボRSのFF・5AGSも670㎏。ただし軸重は前430㎏/後240㎏。で、36ワークスではFF・5MTの前軸重がFF・5AGSより20㎏軽い。
すなわちターボRSとの軸重差から見るに、36ワークスのFF・5MTはもっと軽くつくれた? かつてAA34SカルタスGT-iに、軽量グレードのGT-i Aが存在した。そういうベース車も廉価でラインアップされたらうれしいかな。

HA36Sは無双のアルト・スポーツセダン

過去の過激さでも鳴らしたRS名のグレード。快適さも掲げたieグレード。両モデルの長所をかけ合わせた、無双のアルト・スポーツセダンが36ワークスといえる。
低速から力がみなぎり、それに見合うボディ系の性能で軽快に走れる。5ドアゆえの実用性もある。かつてない個性は、新しいワークスの基軸となったのだ。

この4色が現在のボディカラー。グレードはFFに5MT、4WDには5MTと5AGSを設定。2020年10月の一部仕様変更で車両型式がDBA-HA36Sから4BA-HA36Sになった

数えて9代目。アルトのフルモデルチェンジが控えているという。同時発表とはいかなくても、遅れて6代目ワークス登場となるのか。それとも、5代目のHA36S型でワークスは打ち止めか。それはメーカーの機密事項だ。俺は答えを知るよしもないが、理想とするワークスの商品力なら大きな声でいえる。
軽量・低重心ボディ&フルエアロチューン、強化型R06系エンジン、高流量タービン&前置きインタークーラー、6速クロスMT、ローダウンスポーツサス、175/50R15タイヤ、4輪ディスクブレーキ等々。

スイフトスポーツ張りにつくり込まれ、そしてワークスの原点に回帰した、軽カー初尽くしのWORKS誕生を夢みて待つぞ。やらまいか、だ。スズキさん!

現行5代目/HA36Sアルト ワークス 2015年12月~

仕様・諸元(一部)
  
  駆動方式:2WD(FF)
      :フルタイム4WD
  型式(FF):DBA-HA36S(2015年12月~2020年10月)/4BA-HA36S(2020年10月~)
   (4WD):DBA-HA36S(2015年12月~2020年10月)/4BA-HA36S(2020年10月~)
  エンジン:R06A型DOHC4バルブ直列3気筒インタークーラー付きターボ
  ボア×ストローク:64.0mm×68.2mm
  総排気量:658cc
  トランスミッション:5MT/5AGS
  全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1500mm 
  ホイールベース:2460mm
  トレッド:フロント1295mm/リヤ1300mm(4WD 1290mm)
  車両重量:2WD 5MT 670㎏/2WD 5AGS 690㎏/4WD 5MT 720㎏/4WD 5AGS 740㎏の間隔調整?
  乗車定員:4名
  タイヤ:165/55R15
  車両規格:平成10年10月施行 現行新規格
  ※各数値はHA36S初期モデルを掲載。2WD(FF)の5AGSは新車販売を終了

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著者プロフィール

スズキ 博士 近影

スズキ 博士

当時の愛車、初代ミラターボTR-XXで初代ワークスと競って完敗。機会よく2代目ワークスに乗りかえ、軽自動…