SDGsは「えこひいき」の温床か 「再エネを使わない企業とは取り引きしない」という圧力

アメリカ企業のアップルは、自社製品の生産や利用を通じて排出するCO2(二酸化炭素)を実質ゼロに抑える「カーボンニュートラル」の実現に向け、サプライヤー(部品供給事業者)にもカーボンニュートラルの実現を求めている。つい先日、同社は「我われに収める製品や部材の生産に使う電力をすべて再生可能エネルギーでまかなうと約束したサプライヤーが175社に増えた」ことを明らかにした。このなかには日系企業20社が含まれるという。こうしたニュースは通常、「いい話」として報じられるが、筆者はどうも全面的には賛同できない。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

いちばん怖いこと。それは名のある大企業が「脱炭素企業以外とは取り引きしない」と世の中に宣伝することだ。これは一種のパワハラだ。とくに製造業の場合は「我われは脱炭素企業になる。出入り業者がすべて協力してくれれば、我われは労せずして脱炭素を達成できる」というとことになる。同様に、グローバル企業がこの宣言を行なうには、国や地域の実情を考慮した上での慎重な姿勢が求められる。「言った者勝ち」ではないし、商取引を盾に無理強いするようなものでもない。しかし、現在はSDGs(サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズ=持続可能な開発目標)という単語ひとつで正当化されてしまう。これが恐ろしい。

たとえばGAFA(グーグル/アップル/フェイスブック/アマゾン〜現在はアルファベット/アップル/フェイスブック/アマゾン)に代表されるビッグテックIT(情報通信)企業だ。そもそも「社会還元が少ない」と批判されている。アメリカ商務省経済分析局のデータによると、企業が収益を従業員への給与などの社会還元に回しているかを計る労働分配率は、全産業平均が54%であるのに対しビッグテックIT系は33%にとどまっている。税負担率で見ても、アメリカ企業平均に対してビッグテックIT系企業は10%近くも低い。

従業員に還元せず、税金も払わず、一部の企業幹部に富が集中している。アメリカではこうしたGAFA非難が少なくない。そんな企業にカーボンニュートラル厳守を押し付けられている下請けは、国や地域ごとの条件などおかまいなしに再エネ発電利用を求められる。そのための設備費は自前でまかなわなければならない。しかし部品単価は競争にさらされ、取引関係はいつまで続くかわからない。「だから素材や部品を買ってもらえるよう技術開発に精を出す。それでいいじゃないか」とは、少々詭弁に過ぎる。

太陽光ポテンシャル
ウィキペディアにも紹介されている「太陽光エネルギー資源量」の分布。調査年は1991=1993年の平均と古いが、現在でもほとんど変わらないだろう。地図上の黒い6つのドットは、いずれも砂漠のような広大な土地にある。この6カ所に1日当たり3TWhずつ、合計で18TWhの大規模太陽光発電所を建設すれば「全世界の1時エネルギーをまかなえる」というデモンストレーションだった。
 
太陽光発電パネルの変換効率を8%と仮定した場合、3TWh(テラワットアワー)を発電するのに必要な太陽光パネル面積は、Aの中東は270W/㎡と効率が高く、13万8,889㎢のパネルで事足りる。「この地域の地表面積の5%を使えば実現する」と説明されていた。

Bの南米は275W/㎡とさらに効率がいいが、この地域の平地面積の97%を使わなければならない。この地図が作成されたのを1994年とすると、1日の全世界電力消費は年間1万1,121TWhだった。1日あたり30.37TWhである。現在は年間2万3,398TWh、1日あたり64.10TWh。電力需要は2倍以上になった。太陽光発電パネルの変換効率を20%で計算すれば、18TWhを得るのに必要な面積は半分以下に減る。しかし、全世界の1次エネルギーは賄えない。ちなみに日本は、太陽光発電にはあまり向いていない「色」になっている。アメリカ西海岸方面は日本よりずっとマシだ。

アップル本社のあるカリフォルニア州は、アメリカ全土でもっとも再生可能エネルギーの利用が進んでいる州だ。年間の日照時間が長く、従って太陽光発電設備(ソーラーパネル)の稼働率は日本の平均である15.1%よりずっと高い28.1%だ。風力発電設備では内陸部シエラネヴァダ山脈南端のテハチャピ山地に位置するアルタ・ウィンド・エナジー・センターがアメリカ最大の施設であり、国立再生可能エネルギー研究所によると風力潜在力はアメリカ屈指だ。

アメリカで風力発電の稼働率が高い地域は西海岸寄りの内陸部であり、東海岸は北部の沿岸部が高い。

アメリカで風力発電の稼働率が高い地域は西海岸寄りの内陸部であり、東海岸は北部の沿岸部が高い。風力ポテンシャルを持った内陸部に、ほとんど人が住んでいない広大な土地がある国はアメリカ、中国、オーストラリア、インドなどに限られる。欧州では内陸部への風車設置は訴訟リスクが高く、かなり限定的になった。鳥類の衝突や可聴帯域での騒音だけでなく、風車のブレードが支柱を通過する際の人間には聞こえない極低周波擦過音でも人体に悪影響を与える可能性があることが指摘されるようになって以降、欧州は洋上風車にシフトした。しかし、アメリカでは内陸部が盛況だ。

また、カリフォルニア州は地熱発電も多い。カリフォルニア・エナジー・コミッションのデータによると、2011年までは同州の再エネ発電量トップが地熱だった。太陽光が地熱を上回ったのは2014年である。現在は太陽光発電による電力が完全に余剰となり、カ州政府は周辺州にお金を払って「電力を引き取ってもらっている」状況だ。

風力ポテンシャル:
NREL(National Renewable Energy Laboratory)が2015年に作図した高度100mでの風力ポテンシャル。発電用風車のハブ(軸中心)を地表から100mにすると、これくらいの発電潜在力があるという地図。赤丸で囲った中央にアルタ・ウィンド・エナジー・センターがある。ピンポイントで風の強いエリアだ。小さいほうの図はUS eia(United States Energy Information Administration)が2008年に作成した同様の図だが、ハブ高度が明記されていない。しかしアルタ・ウィンド・エナジー・センターの位置はポテンシャル・エクセレントである。

そういうカリフォルニア州に本拠を置くアップルは、2021年8月末現在の時価総額が275兆円であり、この指標では世界有数の企業だ。しかし、アメリカ国内の政府統計では、労働分配率も税負担率も企業平均より低い。アメリカ自動車産業のほうが、この指標でははるかに社会貢献度が高い。投資家に株価を評価される背景には、労働分配率と税負担率の低さがあるのだろうか。

「再エネ発電に蓄電設備を持たせればいい」との声が大きくなったが、もっとも効率のいい蓄電池であるLiB(リチウムイオン2次電池)は高価だ。しかも、大量に1カ所に集積し充放電ネットワークを構築するときは、安全性への配慮が不可欠だ。「再エネのバッファーとしては役不足」と電力関係者は言うが、LiBを売りたい人や再エネ発電装置を売りたい人は「トータルコストでは天然ガス火力より安い」と言う。おそらく、現時点ではそれはないだろう。

アップルはノートPCやスマートフォンに使うLiBを中国からも調達している。どれくらいの比率かはわからないが、筆者が使っているノートPCやiPhoneには中国製が使われていた。最新のiPhoneにはサンオーダ(欣旺達電子)製が使われていると聞く。果たして中国のLiBメーカーは電池の製造拠点で再生可能エネルギーをどれだけ使っているだろうか。

よく言われるのは、いまや世界を席巻した中国製の太陽光発電パネルに使われている中国製の多結晶シリコンである。石炭火力発電による安価な電力を使った多結晶シリコンの増産により、中国製の太陽光発電パネルは価格競争力をさらに高めた。労働コストも水道光熱費も安いとなれば、完全に中国の独壇場である。

中国最大手の晶科能源(ジンコソーラー)はアメリカに太陽光発電パネルの製造工場を持つが、多結晶シリコンは「中国製を輸入している」とウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。アップル本社屋の屋上に敷き詰められている太陽光発電パネルはどうなのだろう。中国製の多結晶シリコンは使っていないのだろうか。

アメリカ政府は中国製太陽光発電パネルに高い税率の関税をかけているが、原材料である多結晶シリコンは中国製がいまや世界シェア80%である。しかも、その大半は人権問題で避難を浴びている新疆ウイグル自治区で製造される。国連やEU委は、源流まで遡ったグリーントレード、フェアトレードを掲げるが、現実世界はきわめて複雑である。

いま、日本のテレビCMもSDGsのアピールであふれている。小学校でも意識の高い先生がたが子供にSDGsを語っているそうだ。しかし、何をもってSDGsなのか、その世界基準はまだ存在しない。同時に国や地域によってもさまざまな事情があり、果たしてそれを世界仲で十把一絡げにしてよいものなのかの議論も道半ばだ。

偏見に満ちた考え方だと指摘されるのは百も承知で言えば、いまのところは「言った者勝ち」だ。「すべてウソ」とは言わないが、グレーゾーンを含んでいる。国連が定義するSDGsの17指針は、たしかに良いことを言っている。しかし、これを日常生活や企業活動に落とし込む段階では、ものごとが複雑に絡み合う。みんな仲良く「世界横並び」は到底無理だ。

大企業が取引先企業にカーボンニュートラルを求めるのであれば、大企業なりの度量を見せなければならないのでは、と筆者は思う。親分子分の関係はただの命令と服従だけではない。ビジネス上はイコールパートナーであっても、たとえパワハラはなくても、大には「小を守る」気概が必要だ。そんなこともできないくらい余裕がないとは、 筆者には到底思えない。ビッグテック企業の場合、労働分配率も納税率も低いのだから。

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著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…