来年こそWRCマシンの激走を生で見たい! WRCドライバー勝田貴元選手がラリーの魅力を語る

勝田貴元選手インタビュー「GRヤリスもWRCマシンのヤリスWRCも最高に楽しいクルマです!」

勝田貴元選手とヤリスWRC
TGRラリーチャレンジ最終戦が行なわれた11月7日の豊田市鞍ヶ池公園。ここでWRCで活躍中の勝田貴元選手がWRCマシンである「ヤリスWRC」のデモランを行なった。圧巻のドライビングはぜひ動画をご覧いただきたい。ここでは、モーターファンとビデオオプションが合同で行なった勝田選手のインタビューの模様をお届けする。

転がすだけなら、ヤリスWRCは楽にできますよ(勝田選手)

MF:ラリーチャレンジ豊田のヤリスWRCのデモランには、ものすごく多くの人が集まっていましたね。久しぶりに多くの観客の前で走った感想いかがでしたか?
勝田選手:2020年の東京オートサロンが、おそらく最後の日本のファン、メディアの前で走った日だったので、日本のファンの皆さんに走りを見ていただくのは1年半以上ぶりになります。そういった意味でも今日はすごくよかったです。

MF:今日は本当に多くの観客が集まりました。勝田選手も日本でもラリーの人気、WRCの人気が高まってきていると感じていますか?
勝田選手:もう、年を追うたびにというか、毎年イベントがあるたびにラリーの人気が上がっていると感じています。ラリーチャレンジのようなラリーイベントを見に来られる方は、数字を見なくても入場者数がすごく増えているなって実感できるくらいです。本当にラリー人気がどんどん上がってきたと思います。今後、ラリーだけじゃなくてモータースポーツ全体がより盛り上がっていけばいいな、と思っています。そのために、まずは日本人が世界選手権やいろいろな舞台で活躍することが大事だと思います。僕はラリーというカテゴリーで結果を残して、より盛り上げたいと思っています。

MF:WRCの参戦車両について教えてください。今日ドライブしたWRCのマシン、ヤリスWRCは、普通にちょっと転がすだけなら、一般の方でも運転できるようなクルマなのでしょうか?
勝田選手:ヤリスWRCは、もちろん、4WDでパワーもあるんですが、ステージモード、いわゆるSSで使っているモードでないとき、一般の公道を走るときのモードの場合は、すごく簡単に乗れると思います。クラッチだけ焼結ツインプレート・クラッチなので、スタートだけ難しいかもしれません。走り出してしまえば結構簡単かなと思います。

MF:そうなんですね。エンジンは、市販車とは排気量は同じでも違うエンジンが載っています。競技車両のエンジンのフィーリングはどんな感じなんですか?

市販車のGRヤリスは
1.6ℓ直列3気筒DOHCターボ:最高出力272ps 最大トルク370Nm
WRCを戦う競技車両のヤリスWRCは
1.6ℓ直列4気筒DOHCターボ:最高出力380ps以上 最大トルク425Nm以上

勝田選手:競技車両、今日僕が乗ったヤリスWRCもそうです。エンジンパワーはものすごいので、なかなか市販車と比べるのも難しいのですが、まずひとつ大きな点でいうとヨンク(4WD)というところがあります。4輪駆動なので僕が過去に乗っていたレース車両、フォーミュラカーとかF3とかの加速感よりも加速Gは倍かそれ以上にかかる感じがします。

MF:ということは、トルク特性とかレスポンスとかが市販車とは比較にならない……?
勝田選手:あー(笑)、はい。そうですね。そこはもう市販車とは比較できないくらいにはなっています。

これが説明していたカナード

MF:なるほど。次はヤリスWRCの外観についてです。空力パーツがかなり付いています。こういった空力パーツの効果はどんなシチュエーションで感じられるのですか?
勝田選手:たとえば、ですが……高速ラリー、平均速度が100km/h以上のラリーは、乗っていて安定感がまったく違います。たとえばですけど、フロントのカナード、パナソニックさんのロゴが入っている部分ですね。ここがけっこうイン側にヒットしやすくて、たまに壊れちゃったりするんです。このカナードが片方壊れるだけで、マシンは真っ直ぐ走らなくなります。それくらい空力パーツが空気の力でマシンを地面におさえている力がものすごいので、フィンランドやエストニアのコースはすごくハイスピードなので、カナードがひとつ壊れるだけで結構ハンドリングにも影響しますし、挙動が不安定になります。

MF:それだけ効果抜群なんですね。
勝田選手:効果、大きいです。

MF:勝田さん、ご自身でもGRヤリスの市販車にお乗りになっていますね。
勝田選手:横にある黒いクルマが僕のGRヤリスです。

インタビューの模様。ヤリスWRCと隣に駐まっている黒いボディのGRヤリスが勝田選手のプライベートカー

MF:市販車のGRヤリスに競技車両からフィードバックされたところはどこですか?
勝田選手:基本的に、豊田章男社長もおっしゃっていると思うのですが、とくにGRヤリスに関しては逆転の発想で開発されています。競技車両から一般市販車を作っているので、そういう意味でも目に見えない部分でも、たとえば、ジオメトリーや重量配分だったり、屋根の形状だったり、そういったところは全部競技のために作られています。どこか部分部分でラリーからフィードバックがあるか、はなくて、「全部がラリーから来た」というイメージで考えてもらってもいいと思います。エンジンも幅広くカスタマイズできます。購入されたお客さんのやりたいように、というか普段、軽くドライブするだけでもGRヤリスはすごく気持ちよく走れます。ダートコースなどへ行って、競技っぽいこと、練習走行をしたいなという人でもものすごく楽しめるクルマだと思います。そういった意味ではすごく幅広い層の方に楽しんでもらえると思います。もちろん、モータースポーツ上級者の方も、これからモータースポーツをやってみたいという初心者の方にも間違いなく最適なクルマです。今後、こういったクルマがどんどん増えていったらいいな、と思います。個人的にもそう思っていますし、モリゾーさん、章男社長も「どんどんこういうクルマを!」、とおっしゃっているので、僕は本当に良い時代に生まれたな、と思っています。

生のラリーを、現地でぜひ見てほしいですね。

MF:これからご自分の課題について、教えて下さい。
勝田選手:ドライバーとしてはまだまだ足りない部分も非常に多いですね。自分のスキル、ペースノートやドライビングはもちろん、ラリーにはいろんな要素があります。それを全部ひっくるめて言うと「経験」という言葉になるのですが、まずは経験値をしっかり上げて、自分に足りない部分を見極めることが大事だと思っています。今シーズン前半戦、非常に調子よくていい流れだったのですが、後半になってガラッと流れが変わって、非常に厳しいシーズンをいま送っています。でも、逆にその経験が今後糧になると実感していますし、いまかなり苦しい状況下ですけど、本当にこれを乗り越えれば、かなりいいところへいけるという手応えを感じています。そういった意味で自分の課題はたくさんあるのですが、まずひとつひとつ洗い出して向上していこうと思います。

PHOTO◎KOBAYASHI Naoki
勝田 貴元(かつた たかもと、1993年3月17日生)は愛知県出身。父は全日本ラリー選手権(JRC)の王者経験者で、祖父もラリー選手だったが、当人は2004年からカートレースでキャリアを開始。2009年にフォーミュラトヨタ・レーシング・スクール(FTRS)のスカラシップを得て、翌年からフォーミュラチャレンジ・ジャパンに参戦。2011年にはチャンピオンとなり、TDPドライバーとして全日本F3選手権へ。一方、JRCにも2013年からスポット参戦し、クラス優勝も果たした。2015年にラリーに転向し、TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラムに選出。欧州でのトレーニング&各国の選手権に参戦する。2016年には世界ラリー選手権にWRC2クラスで初参戦。2018年には、ついにWRC2で初優勝も果たす。2021年はWRCサファリラリーで総合2位に入賞。念願の表彰台に立った。

MF:勝田さんのお仕事は、ラリーマシンをより速くゴールまで運ぶということだと思うんですが、ヤリスWRCはドライブして楽しいクルマですか?
勝田選手:ああ、もう最高に楽しいクルマです! WRカーだけじゃなくてラリーって公道を使用した競技です。モータースポーツのなかでも公道を使った競技は多くありませんが、そんななかで僕はいま本当に地元・愛知県でこうやって走っています。2年前のセントラルラリーもそうですが、10年くらい前に友だちと遊びに行くとき使っていた道をラリーカーで自分が走っているのは想像もできなかったですし、走っているときはすごく不思議な感覚で、とても感慨深かったというか……そういう感覚がありました。多分こういう感覚って、僕だけじゃなくてたくさんの方が体験できるものだと思います。入門者向けのラリーチャレンジもそうですし、まだラリーやったことがない、でもやってみたいなという人に、どんどんラリーをやっていただければ、と思います。モータースポーツって間違いなくて交通安全にも繋がっていくと思うので、本当に多くの方にラリーを知ってもらって参加してもらって、というふうに輪を拡げていけたらな、と思っています。

MF:ラリージャパンは2年連続でコロナ禍の影響で中止になってしまいました。来シーズンの2022年、ラリージャパンは地元での開催となります。WRCの魅力、こういうところを見て欲しい、というのを教えてください。
勝田選手:まずひとつ、ラリージャパンが来る前にお話したいのは、ラリーってラリードライバー、選手とファンの人の距離感もものすごく近いのでぜひ、現地に見に来てほしいと思います。全開で走っている競技区間(SS)じゃなくて移動区間(リエゾン)をゆっくり走っている区間があって、そういった道でラリーカーに遭遇する場合もたくさんあるんですね。たとえば高速道路で走行車線を走っているときに右側からラリーカーが追い越していくこともありますし、逆ももちろんあります。そういうときに日本だとなかなか馴染みがないと思うのですが、ラリーカーに手を振っていただけるど、僕たちももちろん見ているので、そういうファンとの触れあいもあります。迫力のある走りも魅力で、普段皆さんが使っている公道を閉鎖してそこをものすごいスピードで、ものすごい音でラリーカーが走り抜けていく。これを現地でぜひ、生で見てほしいな、と思っています。

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